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訳が分からない。
「やめろッ!」
「おいおい、話とちげえじゃねえか」
「ちがくねえだろ、ほら、『お願い』したら、何でも聞いてくれるんだし、してみようぜ」
もやがかかったように、男の顔ははっきりと分からなかったが、俺にとって恐怖でしかないことをいっている。
(『お願い』のこと……何で知ってるんだ?)
此奴らとは面識がない。それに、金で雇われたような感じだった。ならば、何故その事を知っているのか、考えられる節なんて一つしかない。でも、それを認めたくない自分がいた。
後輩を疑うなんてしたくない。でも、でも――
『紡先輩、『お願い』できますね?』
(ちぎり君、何で……)
いや、まだ決めつけちゃダメだ。何かあったのかも知れない。ちぎり君はまだよく分からないところあるし、不思議な子だし、抱えている悩みがあったのかも知れない。財布を返して欲しければ、誰か一人釣れてこいみたいに言われたのかも……と、俺は必死に自分の考えを否定した。後輩のことは信じてあげたかった。どれでだけ、疑わしくても、先輩の俺が疑ってしまったら……って。
そういう所が、お人好しって言われる所以なのかも知れない。分かってる。でも……
言い訳や否定ばかりで、俺は、頭が痛くなっていく。そんなこと考えている場合じゃないのに、逃げないといけないのに、身体が動かない。それはきっと、先ほどのちぎり君の『お願い』のせいだ。
「お座りしてみてくれよ。これは『お願い』だ」
「……っ」
そう男の一人に言われ、俺は、ぺたんとその場に倒れ込むようにして、尻餅をつく。犬がお座りするように、『お願い』されたとおりに身体が動いてしまった。
「ハハハッ! マジだぜ、此奴。『お願い』されれば、何でもやる、犬かよ。いーや、犬以下だな。奴隷だな」
「こりゃ、面白いぜ。マジモンの玩具だなあ。これなら、いい遊び相手になりそうだ」
「玩具で遊ぶって、お前、ガキかよ」
ガハハ! 何て、下品に笑う二人。ここが、人気の無い路地裏だからということを良いことに、好き勝手言って、俺を、凡そ人に向けるとは思えない目で見下ろしてくる。子供が新しい玩具を目の前にしたときのような、そんなわくわくとした目。でも、それは不快でしかない。
「ほら、やっちまおーぜ。誰か来たら大変だ」
「誰も来ねえって。まっ、でも、俺も面白くなってきたし、股間痛いし」
「は~誰だよ。男なんかとか言ってた奴」
と、男達は笑いながら、俺の服を脱がそうとしてくる。抵抗しようにも、身体が言うことを聞かない。
(クソ……何で、動かないんだ)
男達のいうとおり、これでは意思を持たない奴隷じゃないかと。
カチャカチャと外されるベルト、抵抗なんてできないって分かってるくせに、それで手を縛って、さらに逃げられなくする。
ズボンのチャックを下ろされて、着ていた服も脱がされる。かろうじて、シャツ代わりに着ていたタンクトップ一枚になる。
「脱がすなよ。ちゃんと、身体男で萎えるっての」
「じゃあ、このままやるか。ちゅーと半端の方が、良いだろ」
言えてる、なんて。何も言えてねえし、面白くもないことで笑う男達。そんな男達のズボンの真ん中が少し盛り上がっているのをみてしまい、全身の血がサアァとひいていくのを感じていた。
(いや、いや……ない、だろ。そんな、嘘……だ)
これから、本気で此奴らに犯されるのか? と、俺は、身体は動かないくせにガクガクと震えだして止まらない。こんな所で犯されるとか嫌すぎる。男達に犯されている自分を想像しただけで吐き気がしてきた。
そんな俺の表情にさえ、興奮したように男達は近付いてくる。
「や……めろ」
「いやいや、抵抗できないくせに何言ってんだよ」
「そーだぜ、抵抗しないって、まあできないっつうことは、同意ってこったろ」
「違う……違う、お前らじゃない!」
俺は、身体は言うこと聞かないが、叫ぶことなら出来る、と腹から声を出す。
うっせ、と耳を塞ぐ男達。そして、それらが逆鱗に触れたのか、俺の前髪を掴み上げて、無理矢理顔を上げさせる。カン……と音を立ててピン止めが地面に落ちて跳ね返る。
「さわぐんじゃねえぞ。お前は、俺達に犯されてれば良いんだよ」
「……ッ」
殴られるかも知れない。掴んでいない方の拳に青筋が見えて、ぷるぷると今にも右ストレートが飛んできそうだと、俺は虚ろな目で見つめていれば、こちらに向かって走ってくる足音が聞えた。
「こっちです。お巡りさん」
「ッチ……サツ? 何で、バレたんだ」
「いいから、ずらかるぞ」
始めて、聞いた、そんな台詞。現実でもあり得るのかよ……と、俺は去って行く男達をみながら、途端に身体の力が抜けて、ずるずると、壁に背を預けたまま、座り込んでしまう。
(助かった……のか?)
俺は、助けてくれた人を見ようと視線を向けてみれば、誰か確認する前にギュッと抱きしめられる。
「うっ……」
「紡さん、よかったあ……」
「ゆ、ず君?」
「はい、ゆずです。紡さん、僕のこと分かりますか」
「分かるよ、でも何で?」
顔を上げれば、うっすらと、月明かりに照らされて、ゆず君の顔が浮かび上がった。何で彼がここにいるのか、撮影は終わった? 家に帰ったんじゃないの? とか、また沢山の疑問が押し寄せてくる。でも、ゆず君が演技じゃない、本気で心配しているっていう顔を見て、俺は涙が出そうだった。助かったんだと自覚して、俺は思わずゆず君を抱きしめ返した。
「紡さん?」
「ゆず君だ……うん、ゆず君だ」
「……」
「怖かった」
「そう、ですか………………抵抗、しなかったんですか?」
「……っ、それは」
ゆず君の一言に、俺は何も返せなかった。また、血の気がひいていくような、いいや、ゆず君の体温が下がってくような気配がして、ふと顔を上げる。
(何で、ゆず君がそんな顔してるの?)
怒り、嫉妬、悲しみ……色んな表情が混ざって、一言では表せないゆず君のどうしようもなく、自分は無力だ、とでもいうような顔がそこにある。俺は、何でそんなかおをしているのか分からず、言葉を失う。
「ゆず……」
「早く着替えて下さい」
「え……」
「着替えて。それから、僕の家、行きましょう」
と、温度の感じられない冷たい声色でゆず君が俺に『命令』する。
『お願い』とは違うのに、何故か、身体が過剰に反応してしまい、先ほどのこともあってか、逆らったら何されるか分からない恐怖から、俺は脱がされた服を全部着て、立ち上がった。まだ震えている足。そんなことお構いなしに、ゆず君は俺の腕を痛いくらいに掴んで、何も言わず歩き出す。
「ゆ、ゆず君。ちょっと待って!」
ゆず君は何度俺が叫んでも振返ることはなくて、ただひたすらに前を向いて、早足で彼の家へと向かっていた。心、ここにあらずみたいな。
でも、一番は怒っている。理由は分からないけど、怒っている。その感情だけ、俺は読み取れた。