……
「あれから2年が経ちましたね。
優燈くんは今でもちゃんと生きています。
つまり自分を|棄《す》てなかったのです。
何となく生きている、それだけで人生は勝ち組なんですよ。
私は優燈くんの幸せを担保します。
でもきっとあなたなら、自分自身で気付けるでしょう。
とにかく希望を、絶対に離さないで。」
…ゆ、夢だ。自我がある、言葉を発せる
「ま、待って!君は誰なんだ!」
………………
…今回は言葉こそ発せたけど、結局目覚めてしまって、彼女が何者かは分からず終いだったな。
…分かっても意味ないんだろうけど。
前回とは異なって、夢の記憶に彼女の存在が鮮明に浮かぶ。
彼女の日本語は非常に丁寧で美しい。
中3の僕には、あの文字の羅列は不可能だ。
そして、
…綺麗だ。
彼女は非常に美人だった。
僕が編み出した少女なのであれば、当たり前といったら当たり前だ。
白髪少女は、僕の幸せを保証すると言っていた。
…彼女に何が、どうやってできるんだ?
…僕が僕を救うために造り出した、空想の人物なんだろうし、彼女の言葉は僕の真意でもあるのだろう。
僕自身が幸せのステップを踏むための、鍵を握っている。
またしても、彼女の存在は生きる糧へと成り代わっていった。
高校受験の勉強に勤しんだ僕は、人から後ろ指を指されない程度の学校に合格した。
晴れて僕の高校生活は幕を開けた。
心の|蟠《わだかま》りも快方に向かっていて、何より漫画で読んだ世界に飛び込む事実に、興奮が抑えられなかった。
明るい雰囲気を感じる教室で、高偏差値の高校に合格した、自分自身を褒め|称《たた》えた。
そして友達と馴染めたことには、本当に心から歓喜した。
僕はフツメンだから、同性に恨まれることはないので、友好関係樹立には都合がよかった。
でも根本は解消されていなかった。
彼ら彼女らも別に僕を愛しているわけではない。
僕の存在が消えても、即座に僕の周囲の社会活動は復活する。
家族は悲しむだろうけど、これも一番ではない。
今ここで死ぬことは逃げだ、という信念を貫き通した僕は、千日をどうにか乗り越えられた。
…でも逃げても損失は少ない、影響も同様だ。
思春期真っ只中の僕は、希望を喪いかけて魔が差しかけていた。
それは若くして愛のエネルギー容量の全貌を、知ってしまっていたから。
つまり、愛情の重要さに気付いてしまっていたから。
入学式から3週間の僕は、既に自我を見失っていた。
そしてまたその夜だった。
………………
「私は優燈くんに言ったはずです。
希望を離すなって。
あぁあ…。よっぽと私って信用されて無いんですね…。」
…また例の夢だ。自我もある。
彼女は落胆して、溜め息をつき下を向く。
目が覚めるうちに言っておきたいことがある…、
「―――あ、あなたは誰なんだ…、ですか?
僕はこの苦しみを共有するアテも、解消する方法も何も知らないんですよ!
あなたに何が分かるっていうんですか!―――」
「全く分からないなら、私だって大言壮語は吐きません。
優燈くんの夢にも訪れてはいない…、ねっ?
そして私のことは、今は知らないで下さい。
…あなたが知るべき、その日まで。
大丈夫。
自分を弱いと思っているかも知れないけど、優燈くんは案外強いです。
それじゃ、またね。きっと会えるよ。」
「お、おい!」
………………
…これは悪夢なのかもしれない。
…最近は夢で、よくあの白髪少女と出会う。
…【|明晰夢《めいせきむ》】という奴だろう。
つまり僕の意思が介入できる夢。
初めて会話を交わした。
…まるで…、夢で本当に生きているかのようだ。
彼女が創作されるような出来事は僕にはなかったけど、彼女は確かにそこにいた。
…彼女は…一体誰なんだろう…。
何が彼女を作ったんだろう。
僕には分からない。分かれない。