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明晰夢 ~夢に恋した16のハル~

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明晰夢 ~夢に恋した16のハル~

3 - 第3話 白髪少女は金咲唯花。【本編】

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2025年09月14日

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最後の夢の日から、僕はあの白髪少女の存在に脳が支配されていた。
…いやもしかすると少女じゃなくて、お姉さんなのかもしれない。


彼女はかれこれ3年近く、僕を死の淵から繋ぎ止めていた。

命の恩人への謝意と好意は、日に日に増すことを知らない。

僕は虚構に情を注いでいた。



転機は突然訪れた。

平凡な放課後は、特段誰とも何も用はない。

だから一路、住まいに向かおうとした。

なのに校門を出ると、何故か僕は声を掛けられた。


「あなた…、優燈くん…?」


その声はやけに聞き覚えがあった。

本当に親の声より聞いた音だった。

そして、眼前の光景に僕は思わず目を見開いた。



…いる。あの子がいる。



僕を呼んだその子は、髪を白く伸ばして、あどけない幼さの残る美人だった。

見覚えは十二分にあった。



…あの白髪少女なのか。



この情景は、3年に渡る僕の夢を、現実として完全に写実していた。

だが僕の夢での白髪少女より、一回り小さく、顔立ちも夢の中より幾分か幼かった。


…理解出来ない、意味が分からない。


無理もない。

彼女と出会った過去は、夢を除いて|何処《どこ》にもない。

彼女の制服は付近の女子高のもので、僕とは縁も|所縁《ゆかり》もありゃしなかった。

だからまずは話を聞く他ない。


「…あなたは誰ですか。どうして僕をご存知で」

「あなた、私を知っていたりする?」


初対面の女子高生に、過去に何度も夢の中であなたと出会いました!は気色が悪くて吐き気が生じる。

だから質問を質問で返してみた。


「逆に僕の名前はいつ知ったんですか?」

「質問には答えてよ」

「|生憎《あいにく》、馬鹿げている回答しか持ち合わせてないです」

「…私も似たようなもんよ」

「……、

…ゆ、夢で、あなたと会いました」

「本当に?」

「逆にどこで知ればいいんですか」

「その返し好きね…。ま、その通りね」



夢の中での語り口調は消えていた。


…別人なのか。


彼女は続けた。



「私もあなたと同じ、夢で知ったの。

何度も夢で優燈くんに会うように諭されたわ。

あなたと会うことが私を救うんだってさ。

流石に夢のホラに呆れたわ。

でも夢の中で語られた学校は実在していて、

あなたもこの世に存在した。

だから今も実は驚愕しているの。」

「僕もそんな感じです。

あなたも僕と夢で出会ったのですか?」

「いいえ。神の声みたいなのに囁かれて終了。

お陰で睡眠不足もいいところよ。」


僕は|端《はた》から見てもかなり変な言動をしているが、彼女も相当変な事を口にしていた。


「私はこれを、偶然の一言で片付けちゃいけない気がするの」

「同意見でしかないです」

「だから|一先《ひとま》ずは、連絡先交換しましょ。

互いに今朝みた夢を連絡し合うの。

だって何か悪い予兆かもしれないから」

「分かりました。

…そういえば、お名前伺っていませんでした。」


「私?」


そりゃそうだ。例えば他に誰がいる。

すると彼女は|何故《なぜ》だか後ろを向く。

そしてこちらへ振り向く。



「|金咲唯花《かなさきゆいか》、

|華蘭女学園《がらんじょがくえん》高校の2年生よ。」



歳上だった。

この幼い顔つきが、先の自己紹介を偽だと言い張ってやまない。

こりゃ家は相当裕福、つまり勝ち組なんだろう。

加えて才女の美人ときたら、世の女子の大半は、彼女に楯突くことができないだろう。


「改めて、僕は永田優燈、高1です」

「耳が腐るほど聞いたわ」

「是非とも腐らせないだけの耐久をつけて下さい」

「…あなた、なんか独特な感性を持ってるわね」

「嫌なら止めますけど…」

「私は人の個性を潰す|下衆《ゲス》な女じゃないわ」

「なら安心です。僕の専売特許なんで」


僕は金咲さんにさよならを告げて、もう一度帰路を辿る。

ふと我にかえってみると、今日の不可解現象の理解に、やっぱり苦しむ。


…彼女は僕の夢が造り出したもので、それが虚像として現れただけなのかもしれない。

…|若《も》しくは僕の自覚が無いだけで、まるでせん妄のような、夢と現実の狭間に侵入しているのかもしれない。


様々な憶測が脳内をいったりきたりするが、模範解答には遠く及ばない。

一ついえることがあるとしたら、今日僕が出会ったのは、夢の中の金咲さんでは無かった。



…初めて女子と連絡先交換した


グループラインには一応入っているが、女子とダイレクトに繋いだ試しはない。

校外で、しかも先輩だとすれば、尚更だ。

しかし感動は興奮を上回った。


…長年僕に付き添いながらも振り向かなかった少女が、やっと僕に振り向いてくれた。


織姫と彦星のようなこのロマンチックは、二次元という架空の権化ではあり得ないし、三次元ともワケが違う。

夢という現実から浮遊した、四次元空間だったから果たせた節がある。


4月28日。

確かに夢の彼女が話した通り、僕はこの世で現実の彼女と出会えた。


でも僕の夢にどうして彼女は現れたのか。

やっぱり分からない。分かれない。

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