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『blood6.12.』の翌朝、山林には昨日と変わらぬ、残酷なほどの青空が広がっていた。そこには卓の母親である朝原美弥と輝道の父亀井弘道がいて、泣き叫んでいた。その時に警察が下した捜査結果は、勇一にとって二度目の絶望だった。遺体で見つかった父・剛は「強盗犯と相撃ちになって死亡」、崖から転落し遺体すら見つからない卓は「強盗に巻き込まれた行方不明者」として処理されたのだ。
「違う! 犯人は、小山伸一だ! 黒服の男たちが親父を撃ったんだ!」
取調室で勇一は何度も叫んだ。しかし、捜査一課の刑事たちは冷ややかな目で若者を見つめるだけだった。
「高橋、父親を亡くして混乱しているのは分かるがな、妄想も大概にしろ。小山警視正が現場にいるはずがないだろう。お前がこれ以上騒ぐと、死んだ父親の名誉にも傷がつくぞ」
組織による完璧な隠蔽。久徳公浩の権力と、小山伸一の手回しによって、真実は一夜にして「狂人の妄想」へとすり替えられた。大学の陸上部に戻っても、周囲の目は変わっていた。「事件に巻き込まれた哀れな男」を見る奇異の目、そして、何より勇一を苦しめたのは、心を失った人形のようになってしまった佳奈子の存在だった。佳奈子は大学を休み、卓の血が染み込んだあの山林のふもとで、ただ呆然と過ごす日々を送っていた。勇一が会いに行っても、彼女は焦点の合わない目で小さく呟くだけだった。
「卓君、まだ見つからないの……? 寒くないのかな……」
その姿を見るたび、勇一の胸には鋭いガラスの破片が突き刺さる。(俺のせいで、卓は死に、佳奈子は壊れた。俺が、二人の人生を奪ったんだ)生き残ってしまったことへの凄まじい罪悪感。それが、勇一の夜を毎晩のように支配した。そんなある日、絶望のどん底にいた勇一の前に、一人の男が現れた。陸上部の先輩、跡部篤だった。跡部は、勇一のすさんだ部屋の戸を叩き、静かにこう言った。
「勇一。お前、このまま腐って死ぬつもりか。朝原が命を懸けて繋いだお前の命は、そんなに軽いものだったのか」
「先輩に何が分かるんですか! 真実は闇に葬られた! 俺には、もう何もできない!」
勇一が怒声を浴びせると、跡部は勇一の胸ぐらを強く掴み、その目を真っ直ぐに見据えた。
「できないなら、できるようになれ。牙を隠せ、勇一。お前が一般人のままでいくら叫んでも、あの巨大な権力には届かない。奴らを倒したいなら、奴らと同じ戦場に上がれ」
跡部の言葉が、勇一の凍りついた魂に火をつけた。奴らと同じ戦場。すなわち、警察組織。
「……刑事になる。警察のトップにのぼり詰めて、中からあの組織をぶっ潰す」
その日から、高橋勇一の地獄の猛勉強と訓練が始まった。陸上で培った強靭な肉体を引き絞り、プライドを全て捨てて、ただ「復讐」のためだけに生きた。警察学校では、周囲から「冷徹な仕事人間」と恐れられるほど、感情を一切表に出さず、ただ結果だけを追い求めた。皮肉にも、勇一の優秀な成績に目をつけたのが、警察内で着実に昇進していた小山伸一だった。小山は、自分が消した男の息子とも知らず、勇一を本庁の捜査一課へと引っ張り上げた。そこで勇一は、小山の娘である萌子とコンビを組まされることになる。――そして十年の月日が流れた。かつて晴天の下で笑っていた青年は、過去の罪を背負い、復讐のために魂を売った孤高の刑事となっていた。すべては、あの『blood6.12.』の真実を暴き、卓と父の無念を晴らすために。しかし勇一はまだ知らなかった。彼が警察組織の中で力をためた10年間、崖の底から這い上がった親友の朝原卓もまた、裏社会の闇の中で、全く同じ復讐の炎を燃やし続けていたということを。
そしてこの時から10年後、あの始まりの手紙が届ことは誰も知らない。
コメント
2件
10年後がBLACK STORYに繋がる。
うわー、第4話で一気に話が重くなった……! でもその分、勇一の「刑事になる」って決意がめちゃくちゃ熱かったです🔥 復讐のために魂を売った孤高の刑事と、裏社会で同じ炎を燃やす卓。この対比がもうたまらん。泥水を飲む覚悟って感じがガツンと来た。10年後の展開、めっちゃ気になるわ! 続きが待ちきれない。