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「疲れた?」
ちょっと遠いよねと笑うアレクサンドロ。
いやいや、そういうことではありません。
不安になったヒナは振り返り、ユリウスと目を合わせた。
「あの扉なので、もうすぐですよ」
ニッコリ笑うユリウス。
そうじゃなくって!
騎士がお辞儀をし、扉を左右に開いてくれる。
ランディとディーンは左右の扉の前に立つと、お辞儀をしてアレクサンドロとヒナを先に通した。
えっ?
何でランディとディーンがいなくなるの?
お辞儀をしたランディとは目が合わない。
何で? 何で?
ランディの背中でほとんど見えていなかった真正面が一気に見えるようになり、豪華すぎる部屋にヒナは戸惑った。
小学校体育館の半分は絶対にある広さの部屋は、赤い絨毯がまっすぐに続く。
キラキラのシャンデリア。
豪華な装飾品。
真正面には椅子がひとつ。
あれ漫画だったら絶対に王様の椅子!
慌てて後ろを振り向くと、ユリウスはいない。
扉も締められている。
ランディとディーンもいない。
キョロキョロ見回すと、ユリウスが部屋の端っこの方を歩いている姿が見えた。
「ア、ア、アレク、ここ、何? 何? どうなるの?」
頼れるのはもう右手を握ってくれているアレクサンドロしかいない。
「大丈夫、恐くないよ」
自分の父よりユリウスの父の方が怖いというアレクサンドロ。
そうじゃなくて~。
ヒナの心の叫びはアレクサンドロには全く伝わらなかった。
部屋の微妙な位置でアレクサンドロは立ち止まる。
ヒナの手が震えていることに気が付いたアレクサンドロは、つないだ手を左手から右手に持ち替え、左手をヒナの腰に添えた。
「大丈夫だよ」
ヒナの顔を覗き込み、グレーの眼で優しく微笑むアレクサンドロ。
全然大丈夫じゃありません!
手だけでなく全身震えてきそうなヒナは立っているのがやっとだ。
舞台の横から黒の正装をしたおじさまが入ってくる。
髪の色はユリウスにそっくりだ。
あの人がユリウスのお父さんなのかもしれない。
王様の椅子っぽい所で何かを確認すると、すぐにふさふさの服を着たおじさまが登場した。
絶対王様じゃん!
王様、陛下、豪華な部屋、王宮、お辞儀する騎士、王子。
一気にいろいろな単語がヒナの頭をグルグルする。
よろけたヒナをアレクサンドロが支え、大丈夫だと囁いた。
全然大丈夫じゃないから!
ふさふさ服の国王陛下が椅子に座る。
アレクサンドロがお辞儀してと囁いたので、ヒナはアレクサンドロに合わせて頭を下げた。
「ようこそ我が国へ。聖女殿」
声はアレクサンドロよりも低く、怖そう。
しかも意味のわからないことを言った。
この部屋に聖女がいるのだろうか?
聖女のイメージは白い服の美女だ。
ヒナは部屋を見回したが特に聖女らしき人は誰もいなかった。
キョロキョロするヒナを見たアレクサンドロが笑いを堪える。
「ヒナのことね」
ヒナが聖女だからというアレクサンドロに、ヒナは首をブンブンと横に振った。
聖女って言うのは、白い服が似合う絶世の美女で、優しくて品のあるお姉様しか許されないから!
「まずはチェロヴェ国で私の息子、アレクサンドロを救ってくれたことの礼を言いたい」
一人息子の無謀な行動により命が危なかったが、聖女のおかげで無事に生還できたと言う国王陛下。
え、大げさでしょ。
アレクの怪我ってそんなに酷くなかったよね?
命の危機?
翌朝には普通に歩いていたのに?
「次に、熊族ミドヴェ国との攻防は聖女殿のおかげで多くの武官たちが救われた。こちらも感謝している」
包帯を巻いただけでそんな大げさな!
全然役に立っていないのに!
「……聖女じゃないと思っている?」
グレーの眼で覗き込むアレクサンドロに、ヒナはうんうんと頷いた。
ユリウスの父、この国の宰相がスッと手を上げると、後の扉からランディとディーンが入室する。
二人は赤い絨毯ではない所に立ち、お辞儀をした。
「では、まずランディ。報告を」
「はい。まだ彼女は魔力の制御ができません。魔力を放出すると意識を失ってしまいますが、治療された者たちの怪我はすぐに治っています」
ランディは説明を終えるとヒナの方を向き、グレーの眼で微笑んだ。
「では、ディーン」
「はい。彼女はチェロヴェ国から国境を越えてきましたが、それ以前の記録はチェロヴェ国にもありませんでした。6月24日の満月の夜にチェロヴェ国で聖女召喚の儀を行ったという情報を得ております」
召喚されたのは三名。
女性が二人に小柄な男性が一名。
男性はチェロヴェ国で行方不明、前髪が長く、後でひとつに縛った黒い眼鏡の小柄な男性。
実際には男性ではなく女性でしたが。とディーンはヒナを見た。
私、チェロヴェ国では男だと思われていたの?
だから外にポイって?
初めて知る事実にヒナが驚く。
「聖女召喚の儀で現れ、治癒能力を使用できる彼女は聖女で間違いないと思っております」
報告を終えたディーンが頭を下げると、国王陛下も宰相も頷いた。
「さて、聖女殿」
国王陛下に呼ばれたヒナはビクッと肩を揺らした。
「このまま我が国にずっと居て頂きたいのだが、少々周りがうるさくなってきてしまった」
先日の中央公園での出来事でという国王陛下の言葉を宰相が補足し、あの日、半径50m程度の植物に影響があったこと、半径2km圏内の人の病気や怪我が治ったことをヒナに説明した。
「我が国としては聖女にいてほしい。だが、他国から狙われはじめてしまった。貴殿を守るためにも婚姻を結びたい」
もともと理解を超えた話をされていたが、急に全くつながらない話になりヒナの頭は完全停止した。
「コンイン?」
婚姻って、結婚っていう意味であっている?
「今のところ、婚約者候補は三人」
国王陛下のご子息、アレクサンドロ・ヴォルク王太子殿下。
政務の勉強中だが、国民にも慕われており、将来よき国王となるだろう。
我が国で情報戦を最も得意とするコヴァック公爵家の次男、ディーン・コヴァック。
次男だが彼の能力は高く真面目で優秀。
我が国の防衛戦術に長けているロウエル公爵の次男、ランディ・ロウエル。
彼も次男だが状況判断、戦況の把握は一族内でも評価が高い。
宰相が三人を紹介するが、ヒナは現実感もなくただぼんやりと説明を聞いた。
つまり三人があんなに優しくしてくれていたのは国王命令で、聖女かもしれない私をこの国に引き留めるため。
いろいろ教えてくれていて、親切にしてくれたのはすべて命令に従っただけ。
この先も私をこの国に居させるために、彼らは好きでもない自分と政略結婚させられる被害者というわけだ。
あぁ、やっぱりそうだ。
イケメンが優しいなんておかしいと思った。
アレクサンドロも、ランディも、ディーンも、ただ命令に従っていただけだった。
「私……、婚約はしません」
ヒナは俯きながら答えたあと、唇をグッと噛みしめた。
コメント
1件
うわ、第20話で一気に話が動いたな……! ヒナが"聖女"認定されて、しかも婚約者候補3人とかもう情報量ヤバい。 アレクもランディもディーンも「命令で優しくしてただけ」ってヒナが自己解釈しちゃうところ、すごく辛かった。でも確かにあそこまで完璧に優しいと疑いたくなるのもわかるわ。まだ三人の本心がわからないからこそ、この後の展開がめっちゃ気になる。 ヒナの「私は婚約しません」って宣言、震えた。弱気なのに一歩踏み出した感じがあって、胸が熱くなったよ🔥