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「ふーむ。『魔力溜まり』にあてられた事は
間違いなさそうだけど」
「でも今は毒しか見られないよね。
どこかで『魔力溜まり』にあって、そこから
離れた事で毒の影響だけ残ったとか?」
お揃いの長い銀髪を持つ夫婦が、研究対象を前に
話し合う。
スノーバブルを討伐した後、ワイバーン騎士隊の
若者に公都『ヤマト』まで言伝を頼み……
パック夫妻に来てもらい、
自分たちが被った雪や水飛沫に毒が混入している
可能性があったので、みんなに浄化魔法をかけて
もらった。
「どんな感じー?」
「どうするのじゃ? シャンタル」
人間の方の妻とドラゴンの方の妻が、
そろって今後の対応を聞くと、
「今回は持ち帰るほどじゃないかなあ。
ただ、毒性があるとなると放置は
出来ませんね」
「またスノーバブル化して、雪に毒を混ぜて
まき散らす可能性もありますから」
パックさんとシャンタルさんが分析結果を
告げる。
雪を取り込む、そして狂暴化する事などは
私の能力で無効化しているが―――
討伐したわけではないので、まだ生きている
状態だ。
「毒は元から持っていたわけじゃないん
ですか?」
私の問いに、薬師の彼は首を横に振り、
「後天的なものだと思いますね。
毒自体、スライムにはさほど効果は無いの
でしょうが……」
「異物が入っているわけですからね。
気持ち悪いんじゃないかと」
妻の方も夫に続けて補足する。
なるほど。
『魔力溜まり』の影響は抜けたが―――
その後遺症で体に残った毒に苦しんでいる
という事かな。
「(毒が抜けたら大人しくなりますかね?)」
近くには道案内を務めたワイバーン騎士隊の
青年がいるので、小声で質問する。
「(そうですね。
毒さえなければただのスライムに
戻りますから……)」
そこで私は対象物に向かって、
「(毒のある、もしくは毒を取り込んだ
スライムなど、
・・・・・
あり得ない)」
そうささやくと、赤黒かったスライムの体は
透き通るように透明になり、
「討伐後、念のため埋めておきますから―――
あなたは先に公都に戻り、この事を伝えて
くれませんか?」
「は、はあ」
青年が生返事を返すとパック夫妻が、
「安全は確認されましたので」
「自然への影響を考え、処理しておくだけです」
そう言うと彼は『はっ!!』と敬礼の姿勢を
取り、相棒のワイバーンにまたがった。
そしてワイバーン・ライダーが遠ざかるのを
見届けると……
私たちはスライムを茂みの中へと逃がし、
周囲に飛び散った毒入りの雪もパックさんに
浄化魔法をお願いして―――
私たちも公都『ヤマト』へと帰還した。
「ズルズル……こんな真夜中にソバを食うのか。
面白い風習だな」
「子供たちも喜んでいたから、いいんじゃ
ないッスか?」
「お夜食の一杯としてはたまりません……!」
冒険者ギルド支部の食堂で―――
いつものギルドメンバーであるジャンさん、
レイド君、ミリアさんがおそばをすする。
そして今日は大晦日。
明日になれば、新たな一年が始まるのだ。
ちなみに児童預かり所でも同様の事を
お願いしたところ、通っている子供たちも
含めてお泊り会となった。
これで親のいる子もいない子も、親睦を
深める機会になるのはいいだろう。
「鬼人族の里でも似たような事をするようです。
もっともあちらは普段からソバ・ウドンが
多いので、家族や親しい人と一緒に食事を
しながら年越しを迎える……
という感じですが」
公都に来た鬼人族に話を聞いてみたが、
一応、大晦日の夜に何かを食す、という
行事は残っていたものの、
ソバに限定せず、また年越しまでに、という
制限も無く―――
ただ新年になるまで、家族一緒に食べながら
起きている、というイベントに変化していた。
「ただ新しい年になるだけなのにねー」
「何かにつけてシンの故郷は、行事が
多かったのであろうのう」
「ピュ!」
家族も一緒にお蕎麦をすすりながら語る。
「まあうまいからいいじゃないですか」
「そうそう!
クソ寒い夜には体の芯から温まりますぜ」
食堂の中を見渡すと、他の冒険者たちもおり、
天ぷらそば、肉そば、ボーロそばと、それぞれが
好きな物を注文し食べている。
「意外と冒険者さん、残っているんですね。
故郷には……」
と言いかけて飲み込む。
待遇が良くなったとはいえ、冒険者というのは
基本根無し草のためにあるような職業なのだ。
私が目を伏せているとギルド長が、
「いや、単に帰る理由がねぇんだろ。
ここじゃ別に年末年始が特別って事も無い」
次いで次期ギルド長夫婦が、
「そうッスね。
俺もここが故郷ッスけど、昔は依頼先で
年を越すとか珍しくなかったッス」
「まあ貴族や富豪の場合、顔合わせをするため
帰国するというのはありますけど。
ちょうどこの前がそうだったんじゃ」
あー……あれはそういう意味で取られて
いたのか。
「ここでは、決まった時期に故郷に戻ると
いうのはなさそうですけど―――
じゃあどんな時に帰るんでしょう?」
私が話を振ると、
「帰りたくなったら、じゃないかな」
「そんなところだのう」
「ピュウ」
家族から身もフタも無い答えが返ってきて、
思わずテーブルに突っ伏す。
「ていうかよ、シンのところは何かと
お祭りとか儀式とか多いよな」
「そうッスね」
「そういうのが盛んな故郷だったんですか?
こっちはその度に、いろんな物を食べられたり
見られたりして面白いですけど」
ギルドメンバーから話を振られ、ふと自分の事を
振り返る。
「まあ確かに、お祭り好きといえば否定出来ない
ですかね。
その度に何か飲み食いしたりするのも……」
「もう毎日食うのが当たり前になっちまって
いるもんなー」
「メシの時間が楽しみになるなんて、思っても
みなかったぜ」
見ると、招待したロンさんとマイルさんもいて、
「そういえば、この町に来た時―――
一番最初にお会いしたのが、お2人
だったんですよね」
すると、ブラウンの短髪とこげ茶のボサボサ頭の
門番兵長二人が顔を見合わせ、
「そういやそうか」
「ま、門番だったからな」
懐かしそうに神妙な顔つきとなる。
「いやでも……
この地に来た時に一番最初に会ったのは、
ジャイアント・ボーアでは?」
同じく招待した三十代のダークグリーンの短髪を
した瘦せ型の男性、リーベンさんが語る。
「そーゆー事になるのかな?」
「そやつも、運が良かったのか悪かったのか」
「ピュ~」
そういえば、この世界に来てから初めて
会ったのは確かに―――
あのジャイアント・ボーアか。
まあいきなり町の中に転移させられたところで、
それはそれで混乱しそうだし、今となっては
それで良かったのかも知れない。
「そういや、シン。
お前さんがここに来てから、
もうどれくらい経つ?」
ジャンさんの質問に私は少し考え、
「来年で5年目、というところでしょうか」
私の言葉にメルとアルテリーゼが、
「もうそんなに経つんだー」
「早いものよのう」
「ピュウゥ~」
月日の経つのは早いものだ。
私もまさか異世界に飛ばされた後……
結婚までするとは思ってもみなかった。
そこでアラフィフの筋肉質のギルド長が、
「そんで明日はどうするんだ?
通常通りか?」
「いえ、鬼人族も来ておりますし。
彼らと一緒に、新年を祝うお祭りを
しようかと」
それを聞いた褐色肌の青年と、タヌキ顔の
女性―――
次期ギルド長夫婦も参戦し、
「お? という事はまた何か新しい
食べ物があるッスか?」
「これは期待出来ますねえ……!」
二人で目を輝かせ、私に視線を向ける。
「鬼人族にはもう児童預かり所で準備して
もらっていますので、その時に」
それを聞いた周囲の冒険者たちも盛り上がり、
年越しそばのお披露目は幕を閉じた。
「よっ!!」
「ほっ!!」
元旦にあたる新年初日の児童預かり所で、
鬼人族の掛け声と共に、周囲から歓声が上がる。
彼らに餅つきをしてもらっているのだが―――
二メートルを超える彼らのそれは、通常の
餅つきとはかけ離れた迫力で、
モチが臼の中で搗かれる度に、ドスンドスンと
地響きを上げていた。
「はい! 出来上がりましたよー!
みんな並んでください!
食べる時は喉に詰まらせないようにー!
特にお年寄りと子供は注意してくださーい!」
リベラ所長の掛け声で、出来上がったお餅料理に
みんなが群がる。
砂糖はこちらで用意出来たので、鬼人族が
持って来てくれたきな粉、小豆などで
お汁粉やお雑煮、あんころ餅などが次々と
用意され、
「こ、これはうまい!」
「この公都に留まっていて良かった……!」
「里帰り組が帰ってきたら自慢してやろうぜ」
そんな声が大人たちから聞こえてきた。
よく見ると身なりもかなり良く、どこかの
使用人か何かだろう。
まあ里帰りする人がいる一方で、留守番組も
当然いるわけで―――
これで彼らの気が晴れるのならいいんだけど。
「モチってこういうふうに作るんだねー」
「初めて見たが、すごいものじゃ」
「ピュウ」
家族も鬼人族の餅つきを見ながら、それぞれ
料理を口にする。
別に隠していたわけではないのだが、すでに
公都にモチは出回っており、それがこのような
作り方をしていたので驚いたようだ。
「その前に蒸すとかの行程もあるけどね。
あと保存食にもなるから。
1日か2日経てばガチガチに固くなるよ」
「へー、こんなに柔らかいのに」
「面白いものよのう」
「ピュッ」
私はお雑煮を食べながら、家族との団欒を
楽しむ。
考えてみれば、こういうお正月を迎えるのは
地球の世界でもそんなに無かったなあ……
と思いながらその光景を見ていると、鬼人族が
やって来て、
「シン殿、こちらで凧揚げはしないのですか?」
「あー、多分無いのでは」
それを聞いていたメルとアルテリーゼも
話に加わり、
「ん? なになに何の話?」
「まだ何か食べ物があるのか?」
「ピュイ」
私は苦笑して首を横に振り、
「お正月―――
新年を祝うオモチャのようなものだよ。
空に飛ばすんだ」
私の言葉を聞いた家族は、ただ顔を見合わせる。
まあそうだよな、聞いただけではイメージが
つかめないだろう。
私は鬼人族に向かい、
「持ってきていますか?
他にも何か」
「はい。こちらで年越しをすると聞いて
おりましたので……
あと、パチャママ様から―――
こちらで仲良くなった子供たちもいるから、
彼らにと」
ああ、なるほど。
児童預かり所に滞在していたんだし、
同世代への贈り物というところか。
「わかりました。
ただ、こちらでは少々狭いと思いますので、
『ガッコウ』へ移動しましょう」
あそこなら校庭に匹敵する広い空き地があるし、
凧揚げをするには十分なはず。
お餅料理を堪能した後―――
食休みをしてから、子供たちを連れて
『ガッコウ』へ行く事にした。
「わー、高ーい!」
「すげー、空飛ぶオモチャだ!」
子供たちが思い思いに凧揚げをし……
空を見上げる。
凧は全部で二十個ほど持ってきたらしいが、
絡まる恐れがあるので、距離を置いて
十人ずつ遊ばせる。
当然交代制で、ある程度時間が来たら回収、
次の子供たちにバトンタッチするという
具合で―――
「ほー、あんなに高く飛ぶんだ」
「アレもシンの故郷のものか?
面白いものよのう」
「ピュ!」
家族も空を見ながら感想を口にする。
さすがに空高く飛ぶ凧は注目され、
人間・亜人・人外問わず公都の住人が
野次馬のように集まってきて、
「おー、また何かやってるな」
「あれもシンさんだろう?」
「ホントに、次から次へとよく考えつくよなあ」
その言葉に私は声の方を向いて、
「あれは鬼人族のおもちゃですよ。
パチャママさんからの贈り物です」
それを聞いた人々は、『へー』
『そうかー』『食べ物だけじゃなく、
あんな物まで』と、口々に話し合う。
前に来た事のあるクロウさんたちは、人間から
見ても『普通』のサイズであり……
また住人は人外慣れしていた事もあって、
それほど警戒はされなかったものの、
今回来た鬼人族は『標準』であり、さすがに
その大きさからか始めは戸惑う人もいたが、
料理を通して公都に馴染んでいき……
今では鬼人族がお店の厨房にいると知られると、
口込みで次々とお客が入るようになっていた。
「児童預かり所でも何かやっていたよね?」
「木のおもちゃをクルクル回していたのう」
「ピュイ」
そっちは独楽か。
それもみんな、興味津々な目で見ていたな。
魔法前提のこの世界で、まったく魔法を
使わないおもちゃにみんなが注目するのも、
奇妙な感じだ。
「あれ?」
凧を見上げていると、何かが近付いてくるのが
見えた。あれは……
「おりょ? あれ、ミナトさんじゃない?」
「本当じゃ。しかし何かふらふらしておるのう」
「ピューウ?」
家族がそれを確認すると、彼女も気付いたのか、
こちらによろよろと舞い降りて来た。
「はい? ここを攻める?」
場所を改め、冒険者ギルド支部に場所を移す。
その応接室で、天狗のような衣装をまとった
黒髪ショートの女性が、息せき切りながら
語ったところによると―――
彼女……天人族の里でここの事情を語り、
交流について話し合っていたらしい。
「だけどそこで、白翼族が来て異を唱えてな」
「白翼族?」
ギルド長がミナトさんに聞き返すと、
「我ら天人族と共に、古くからこの地に
住んでいた一族だ。
背中に白い翼を持ち―――
我らが葉団扇で飛ぶのとは異なり、その翼で
空を飛ぶ。
長年、友好関係を結んでいたのだが」
彼女の話によると、その一族はプライドが
大変高いらしく、
空を飛べない種族を軽視する性格であるらしい。
そこで天人族が公都『ヤマト』や……
ウィンベル王国と交流を検討しているという
話を聞きつけ、
ここを攻める、という話になったようだ。
「いくら何でも好戦的過ぎッスよ!
何その一族!?」
「新年早々、頭が痛いですね……」
レイド君とミリアさんが呆れながら語り、
「いえ、そこまで頭がおか―――
コホン、血気盛んな者はそうおりませぬ。
せいぜい30人くらいかと。
白翼族も、800人くらいの人口で
ありまして。
前回頂いたお土産に、興味を持つ者も
いると聞きます」
「どこにでも跳ねっ返りのアホはいるが、
まったく。
それでミナトとやら。
お前さんは何しに来たんだ?」
彼女は出されたお茶に口をつけると、
「天人族はこの件に関わりが無い事、
こちらと敵対する気も無い事、
……その証として、注意を促しに参った」
一息付きながら答えるミナトさんに、
メルとアルテリーゼが、
(ラッチは児童預かり所に預けてきた)
「でもここには、ドラゴン・ワイバーンを始め
航空戦力が結構いるんですけど」
「それに地上戦力も人外が多いぞ?
その事は伝えたのか?」
すると彼女はダン! と飲み物の入った
コップをテーブルに叩きつけ、
「某も言ったのだ!!
竜を始め、多種多様な種族がおる!
決して軽々しく事を構えるような相手では
無いと!!
だが却って不信感をあおったようでな。
『お前は化かされたか騙されたのだ』
『そんな地があるわけがない』と―――」
周囲の顔を見ると、
『まあそうだよな……』という表情で埋められ、
「あ、あの。
白翼族についてはわかりましたが、
天人族はどう見ているのですか?」
「もちろん半信半疑の者はおる。
ただこちらは改めて使者を立てて、本格的な
交流はそれから、という事で話はまとまって
おった。
どちらかと言うと今回の件―――
飛べない種族を蔑視するという、
白翼族の思想が絡んでおるのだろう」
誰からともなく、深く息を吐き出す音が聞こえ、
「……まあわかった。
報せてくれてありがとうよ。
お前さんは休んでいてくれ。
後はこちらで何とか対応する」
「頼む。
早ければ連中、すぐにでも攻めて
来るであろう」
ギルド長が手を振ると、ミナトさんは
職員の案内で応接室から退室し―――
私たちだけが部屋に残った。
「ドラゴン、ワイバーン、それにハーピー族
総出で迎撃は可能だと思うが」
チラ、とジャンさんが私を横目で見る。
「う~ん……
しかし新年早々、殺生は避けたいですね」
メルとアルテリーゼが首を傾げ、
「シンなら何とかなるんじゃないの?」
「空中で無効化しても、空か地上で受け止める
事が出来るであろう?
ハーピー族もおるのだし」
その言葉に私は首を左右に振り、
「30人から来ると、全員助けられるかどうか
微妙だと思う。
あの獣人族の子供たちを使った
『誘導飛翔体』の時は魔族もいて、
人数的に何とかなりましたけど。
今回の人数だと、取りこぼしは絶対
出ると思います」
(■109話
はじめての きょうどうさくせん(そら)参照)
そこでレイド君とミリアさんが、
「でもハーピー族がいるッスよね?」
「あの時よりは、数が充実していると思うの
ですが―――」
するとギルド長が口を開き、
「ありゃむしろ対応するのが少人数だから、
何とかなったんだ。
30人ともなりゃ、誰がどれを助けるのか
迷うだろうし、混乱もする」
それを聞いたメルとアルテリーゼが、
「そりゃあもう、仕方が無いとしか
言いようがないんじゃ」
「攻めて来るのは向こうなのだ。
そこまで気遣う必要もあるまい」
確かにそれは正論だ。
攻めて来る以上、やられる覚悟もしているはず。
それに躊躇したらこちらに被害が出る。
そうなったら全面戦争だ。
やるしかないか……と覚悟を決めていると、
「あけおめー! いるー?
何か天狗が来ているんだってー?」
いきなりの軽い口調の乱入に、みんなが
顔を見合わせた。
「なーんか面白い事になってんねえ」
「そういう話じゃないよ、つっちー」
「そうじゃぞ?
まあ負ける事は無いであろうが」
たずねて来たのは白装束の黒髪黒目の女性・
土蜘蛛さんで―――
彼女は私の能力を知っているので、
全員で支部長室へと移動。
そこで情報共有する運びとなった。
ちなみにメルが呼んでいる『つっちー』とは……
私の言葉で土蜘蛛をそのまま固有名詞―――
『ツチグモ』さんと呼んでいた事から、
それを略して『つっちー』と呼ぶように
なったらしい。
「年明けから気が重いぜ。
だが降りかかる火の粉は払わなきゃあ、な」
「んん?
だって、シンさんがいるでしょ」
ジャンさんに土蜘蛛さんが聞き返す。
「だからどうやったら死人が出ないように
するかで、悩んでいるッス」
「ただ迎え撃つだけなら、それこそシンさん
1人で対応可能なんですよ」
レイド夫妻の言葉に、白装束の女性は
両腕を組み、
「おやさしい事で。
でもそのおかげでワタシも助かった
ワケだしー。
よし!
そんならワタシもいっちょう一肌
脱ぎますかぁ!」
そう言う彼女に、全員の視線が集まった。
「さて、そろそろですが……
土蜘蛛さん、大丈夫ですか?」
『さっさぶい!!
手がかじかむ!!
さっさと終わらせましょう、シンさん!』
アルテリーゼの『乗客箱』の中―――
伝声管から、ドラゴンに抱えられている
彼女から声が伝えられる。
あの後、ワイバーン数体に公都に滞在している
ドラゴン組も空中警戒に加わってくれ、
小一時間ほど経過した頃、空から公都に接近する
敵味方不明の団体を発見。
私とメルは『乗客箱』に乗り込み、土蜘蛛さんは
アルテリーゼの手に抱えられ飛び立った。
「つっちー。帰ったらお汁粉でも何でも
食べ放題だからー」
『マジお願いします!!
あ、出来ればお風呂に入りながらで!!
お酒も追加でー!!』
緊張感の無い会話が交わされる中、
その時は確実に近付いていた。
「りゅ、竜がいたぞ!
大丈夫なのか!?」
「ここはいったん退いて、改めて敵戦力を
確認した方が……!」
一方その頃、公都を襲いに来ていた白翼族の
一団は、混乱と困惑の中にいた。
「うろたえるな。
たかが竜1匹だ。
図体のでかいだけの獣。
それに我らは空では無敵の機動力を誇るのだ。
四方に散れば、攻撃をかわす事は難しく
あるまい」
指揮官らしき白翼族を先頭に―――
全員が女性で、天使という形容がピッタリな、
剣や槍で武装した一団が公都を目指し、
まっすぐに飛行を続ける。
「それに、竜が出てきたという事は……
ミナトが言っていた公都とやらまで、
もう少しという事だ。
全員、気を引き締めよ。
―――む?」
その視界の中、大きな箱のような物を
胴体にぶら下げた、竜が入ってきて、
「あ、あれは?」
「また竜のようだが」
一団の中に動揺が走るが、
「進路そのまま!!
警戒は怠るな!!」
先頭の女性の指示に、彼女たちは従う。
そして距離にして二十メートルほど近くまで
お互いが接近した時、
『あー、聞こえますか?
ここから先はウィンベル王国の公都です。
取り敢えず地上に降りるか、引き返して
ください。
これ以上侵入して来るのであれば、
拘束します。
こちらに敵対の意思はありません。
大人しく指示に従ってください』
向こうから女性の声で要求が伝えられる。
「は! 何を言うかと思えば。
なぜ我らがそのような指示に従わねばならん!
交渉したいというのであれば―――
完全降伏してからだ!
それなら、少しは話を聞いてやる!!」
白翼族の指揮官が高らかに笑いながら、
要求を拒絶すると、
『シンー、ダメだった。交代ー』
『あー、はい……仕方ないですね。
土蜘蛛さん、スタンバイお願いします』
向こうからの声が女性から男性に代わり、
そのまま続けて、
『人の姿、背中に羽があっても―――
その大きさで空を飛ぶ事など、
・・・・・
あり得ない』
「何をごちゃごちゃ言っている?
降伏しないのなら、ばっ!?」
白翼族の一団は突然、空での制御を失い、
真っ逆さまに地上へと落ちていく。
「ななな、何で、何でぇ!?」
「イヤー!! 死にたくなーい!!」
「お母さーん!!」
叫ぶ彼女たちに向かって、すかさず無数の
白い線がドラゴンの前方から飛び出し、
「はぴゅっ!?」
「んきゃっ!?」
「にえぇっ!?」
糸らしき物が彼女たちの体の一部に触れると、
それに吊り下げられる形で振り子のように
揺れて……
「あだっ!!」
「いたーい!!」
「うぎっ!?」
ドラゴンの真下でぶつかりながらまとまって
いくと、
『このまま公都『ヤマト』まで移送します。
大人しくしていてください』
彼女たちの頭上から―――
今後の扱いが伝えられた。
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