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八雲瑠月
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それからラノケンメンバー達は一緒に下校したが、誰しもが無言だった。前の時のようにワクドナルドに寄ることもなく、帰りの挨拶ぐらいの一言しか聞こえなかった。
そして電車に乗った時には座席で会話もなく、書也、幽美が愛を挟むようにして座るだけだった。
『岩月岩月……岩月……岩月……』
岩月駅到着の乗務員男性の低い声のアナウンスが流れ、幽美が立ち上がる。
「書也、愛をお願い……でも、泣かしたらぶっ殺すから」
幽美が顔を近づけ、呪いの人形みたいな瞳で見られ、書也は思わず身を震わした。
「泣かしはしないですよ……あとは帰るだけですし、愛と仲悪いように見えます?」
苦笑いする書也に幽美は意外そうな顔をする。
「そうだよ幽美ちゃん。書也君とは喧嘩しないよ」
愛は笑顔で言う。
「そう……書也はいろいろな意味で、愛に危ないと思う。仲が良いだけに喧嘩したり、破局することだってある」
幽美はそう言って、素早く書也の毛の一本を抜いた。
「いたっ!? 何するんですか!?」
「良い方の呪いをかけてあげる……どう転ぶかは貴方たち次第だし……破局するか仲良くなるかは五分五分……どっちに転んでも愛は私のもの……ふふっ……」
発射メロディーが鳴り響き、幽美は逃げるようにドアを抜けると、笑みを浮かべて藁人形に書也の髪の一本を入れた。
「んっ?」
列車のドアが閉まると、幽美の身体から陽炎と黒い煙が混ざったようなものが立ち上がったように見えた。
『きひひひっ!?』
それは不気味な幽美の笑い声にも、今乗っている列車のスキール音にも聞こえた。
「んんっ!? 気のせいか?」
書也は何度も目を擦り、幽美が居た場所を確認したが、いつの間にかその姿を見失っていた。
「どうしたの書也君?」
「幽美の姿が……いや、なんでもない」
しばらくして、書也の最寄りの粕壁駅に到着すると、愛と共に乗り換えの列車を待った。
「書也君まで待たなくて良かったのに……」
「見送りぐらいいいだろ」
急行列車が停車してドアが開くと、愛は何か嬉しそうに兎のように跳ね、乗車した。
「じゃあな愛……気を落とさずにプロットを書こうな」
ドア付近で、踊るように振り返る愛に書也は言った。
「大丈夫……そんなに気にしてはいないから」
その時だった、発車メロディーと共に駅員のホイッスルが鳴り響いた。咄嗟に書也はバックし、ドアから離れようとした時、何かに押された。
「邪魔だ!」
長髪を紫色に染めた柄の悪そうな男が書也を押し倒した。
「書也君!?」
列車内に押し倒されて前のめりに倒れた書也を愛が駆け寄り、助け起こす。だが、既にドアは閉まり、列車は発車していた。
『でさ……あいつが女とやったって自慢してたの』
『うっそー!? マジ!?』
さっきの柄の悪い長髪男が悪びれもせず、化粧濃いめの日焼けしたギャルを連れ、大きな声で列車内を移動していく。
「大丈夫、書也君? 酷い人達だね」
「ああ、大丈夫だけど……この列車、急行だよな? 一駅飛ばして東部動物公園駅まで停車しないだろ確か……」
書也は溜息をついて、近くの座席に座る。愛はなぜか嬉しそうに隣の席に座った。
「乗りかかった船じゃなくて……乗りかかった列車だし、このままわたしの最寄り駅の椙戸高野台まで行こうよ。万が一に帰りの列車が動かなくなったら、わたしの家に泊めてあげるよ。にひひっ!?」
嘘か真か愛は悪戯する子供のように言って、笑った。
「椙戸高野台までならいいが……と、泊まるのは無しだ!? こんな夜中に押しかけたら迷惑だろ!?」
書也は頬を染め、恥ずかしそうに言う。
「迷惑なんかじゃないよ。お父さんは早くに亡くなってるし、お母さんは今日、天然温泉歌の湯に入りに行くって言ってたから、今日は遅くまで帰ってこないよ。むしろ書也君が泊まってくれるなら、寂しくないかな」
愛は書也の腕に抱き付いて言った。
「お父さん、亡くなってるんだな……」
「うん、仕事中にお父さんが乗っていた軽トラックと大型トラックの正面衝突で……子供の時にわたしもお父さんの隣に乗っていたみたいなんだけど……不思議なくらい全く覚えてないの。その時に頭を強く打って失読症になったみたいなんだ」
愛は明るく振る舞っているように見えた。
「辛いよな……お父さんがいないのは……」
「そうでもないよ……お父さんが亡くなったのは子供の時だし、もう割り切ってるかな。でも、泊まりに来て慰めてくれるなら、大歓迎だよ」
冗談のように笑って言う愛に書也は思わず呆れ顔になる。
「いくら急行でも……準急や急行で戻って、粕壁駅なら十分だ。泊まるほどじゃない」
「そっか……残念だね。泊まってくれると思ったのに」
愛は本当に残念そうに言う。その言葉を最後に書也も愛も沈黙を続けた。
「椙戸高野台――椙戸高野台――」
そしていつの間に東部動物公園は過ぎていたのか、愛の最寄りの駅に着いてしまっていた。書也と愛が椙戸高野台駅に下車すると、無言のまま一緒にエスカレーターに乗った。田舎の駅のせいか人も数人程度すれ違う程度で、静かに感じた。
「じゃあ、俺はこれで……」
改札前付近で書也が手を振ると、愛はなぜか少し寂しそうな表情をしていた。
「うん、じゃあね書也君」
愛が手を振り、書也が踵を返そうとした時だった。
『次の東部日光線の急行列車ですが……トラックが踏切内に立ち入った為……発車を見送っています……トラックの立ち退きが確認され次第、発車時刻をお知らせします。お急ぎの方は最寄りの交通機関をご利用ください』
駅のアナウンスが流れ、書也は驚愕の表情で愛を見る。
「愛、粕壁駅行のバスはあるかな?」
「……無いかな」
愛は苦笑いする。
「くそっ……歩いて帰るか……電車を待つか……」
愛は駆け寄り、右往左往する書也のその腕を掴んでいた。
「せっかくだし、わたしの家においでよ」
「……じゃあ……よろしくお願いします」
「やったぁ! それじゃあ、さっそく買い物に行こう!」
「ああ……」
愛はスキップして、改札機にスマホをかざし、通った。外は日が沈み、夜を迎えていた。
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