テラーノベル
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二十四時間営業のスーパー、ビッグビー。埼玉のスーパーではメジャーで、大抵の物は安く手に入るが……カートがいっぱいになる光景はあまり見た事がない。
「買い物するとは聞いていたが……愛の家は大家族なのか?」
愛はドサドサとカップラーメン、菓子パン、惣菜パン、おにぎり、サンドイッチ、袋入りのクッキー、袋入りのチョコレート菓子、ポテトチップス、せんべいなどの数種類の味を幾つか自分が押していたカートに入れていた。
「これはね。平日の昼間に働いてくれるヘルパーさんの分だよ」
愛はスマホのメモを見ながら、缶コーヒーの段ボール一箱とお茶のペットボトルの段ボール一箱を今度は書也が押していたカートに入れていた。
「料理の材料は買わなくていいのか?」
「料理の材料は昨日、買ったから揃っているかな? 書也君は何が好き?」
愛はカートを押して、惣菜コーナーの方に向かう。
「いや、弁当ぐらい自分で買うよ。おっ、安いの結構ある」
書也は財布の中身を確認した後、売れ残っていた中で一番安くなっていた三十円引きの鶏から弁当をカートに入れた。
「遠慮しないで……今日は料理を作る時間がないから、惣菜になっちゃうけど……お母さんの奢りだよ」
愛はそう言ってスマホを操作し、レインチャットで母親とやり取りをし、書也の鶏から弁当を自分のカートに入れ直していた。その後、愛は揚げ物、煮物、サラダ、たこ焼き、お好み焼き、焼きそばなどをばんばんカートに入れていく。
愛はそうしてある程度の物をカートに入れると、レジに並んだ。愛はレジの店員に封筒に入った一万円札で会計し、お釣りとレシートを封筒に入れていた。
「ごめんね書也君、持ってもらって」
愛の両手には買った品物でパンパンになったレジ袋を持っている。
「はぁはぁはぁ……いや、なんのこれしき……はぁはぁはぁ……」
書也は息を切らせながら、缶コーヒーとペットボトルの段ボールをやっとの思いで愛の自転車の荷台に乗せていた。
「愛ちゃん、今からお帰りかい?」
軽トラックに乗っていた坊主頭の中年男性が運転席の窓から顔を出し、愛に声をかけた。
「うん。みんなの分のおやつと飲み物を買ってたところだよ」
「いつもありがとね愛ちゃん。良かったら、その重い物だけでも持っていくよ」
坊主頭の中年は自転車の荷台の段ボール箱に視線を注ぐ。
「悪いよー。だって助六さん、農場から帰ってきたばかりでしょ?」
「こっからだったら五分もかからねぇべ? いつもの休憩所の冷蔵庫の横に置けばいいかね?」
助六は軽トラックから降りると、愛の自転車に乗っていた重い二箱の段ボールを軽々と持ち上げると、素早い動きで助手席に乗せていた。
「ありがとう助六さん、助かったよ。重いと自転車のバランス崩しちゃうからね」
「あははっ!? ちげえねぇ。荷物が軽くなったんだし、そこの隣の彼氏さんとゆっくり帰りな」
助六は書也を見て笑う。
「いやだなぇ助六さん。彼氏なんかじゃないよ。ただの友達です」
少し愛は頬を染め、誤魔化すように微笑し、招き猫のように右手を動かした。
八雲瑠月
3,936
「そういうことにしておくよ。牛舎の搾乳は終わってるから、糞掃除だけで充分だよ」
「ありがとう助六さん」
愛が笑顔で会釈すると、助六は軽トラックを発進させ、手を振った。
「あの人は?」
「農家のヘルパーさんだよ。平日はお母さんの手伝いをしてくれてるの」
愛はビニール袋を自転車かごに入れると、自転車に乗らずに手押しで、歩き始める。
「一つ、持つよ」
「ありがとう」
書也は自転車かごに入りきらなかったぱんぱんのビニール袋を愛から受け取ると、隣で歩行する。
「そういえば農家だって聞いてたけど……酪農の方だったんだな」
「うん。モーモー、牛さん可愛いよ。書也君も好きなだけ牛さん、触っていいよ」
「お母さんは家にいないと言っていたけど……住み込みのヘルパーさんがいるのか?」
「住み込みじゃないよ。ヘルパーさんは一日、七時間程度働いてもらっているけど。休日はわたしとお母さん二人で牛さんのお世話をしているよ。わたしがいない時はヘルパーさんとお母さん。わたしとお母さんが出られない時は助六さん以外のヘルパーさんに手伝ってもらう時もあるよ」
「じゃあ、家には誰もいないのか……」
「うん、そうだね。二人きりだと書也君のミルクまで間違って絞っちゃいそう……なんちゃって!? あははっ!?」
頬を真っ赤にし、片手をぶんぶんと回して言う愛。明らかにエロお嬢様の影響である。
「おい!? 大丈夫か愛? エロスの影響があるだろ?」
書也も思わず頬を染める。よく愛の言動を見れば、足を止めて片手でスマホを高速で操作し、レインチャットで誰かとやり取りしていた。
「エロスちゃんとレインチャットしてたら、書也君もいるって返信したら、この言葉を言えば盛り上がるって……」
「スナックで盛り上がる中年親父じゃないんだからさ……エロス先輩の言葉を真に受けない方がいいぞ」
「そうだね」
愛は恥かしそうに答えた。
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