テラーノベル
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「小さな魔王と丸い悪魔」
🧣✕ショタ🌵
5 🧣視点
ぐちつぼが下階の書庫に走っていった隙に俺はリビングの鉄格子をすり抜け、飛び降りた。結構な高さがあったけどこの体のおかげてポヨンと着地できた。意外とこのボディも便利だな。
塔の玄関を昼の日差しのもとで見ると、俺が侵入するときに使ったポストのようなものの正体がやっとわかった。これが供物を入れるところだったんだな。一方通行でものを入れられる仕組みになっているっぽい。
俺はまんまとこの奥の供物箱に転がり落ちて、そこで寝てたってわけだ。友達を欲してやまなかったあの子にとって願ってもないことだったんだろうな。
友達になるという儀式もした。俺がいなくなったとしても、一度は友達ができたんだ。その希望を胸にあの子は多分生きていけるだろう。
そんなことより調べないといけないことが山積みだ。あらゆることが気になって仕方ない。さっさと立ち去ろうとしたときに、草むらに紛れて落ちるいくつもの白いものが目に入った。
それは丸められた紙だった。雨でグシャグシャになったり、半分土に返りかけているほど古いものまで、何枚あるんだろう。
気になってそのうちの一つを広げてみた。子供らしい、しかしとても丁寧な字で「友達がほしい」と書かれていた。
他の紙も同じだった。たまに「お菓子がほしい」とか「おもちゃがほしい」なんてのもあった。
ここに「供物」を持ってくる人間への、ささやかな希望。でもここに落ちてるってことは、これはどこかに届くまでもなく全部握りつぶされてたってことだ。
「……カスすぎるだろ、人間がよぉ」
舌打ちと一緒に暴言が出た。あの子はどんな思いを込めてこの紙を書いたんだろう。……同時に自分がどれほど望まれていたのかに気づいて胸の奥が痛くなった。
遠くから「らっだぁー?」と呼ぶ声が聞こえたような気がした。俺は振り返らずに馬車道へと走り出した。
無性に心が騒ぐ。これでいいのか?という声が脳を刺す。今するべきは本当にこれなのか?俺は声を振り払う。
だって今これをやるべきなんだ。あの子と一緒にいたってなんも進展しないじゃん。大事なのは結果だよ。慰め合ってもこの心の穴はどうせ二度と埋まらない。
それにしょせんただの人間だし。子供だって関係ない、人間なんてどうなったって……。
なるせの言っていた勇者の仲間の隠れ里。この道の先にあるんじゃないのか?俺の推測が正しければ、そこがきっとあの子にも関わってくる。
俺は意を決して先の見えない道を歩き出した。このポテポテの足でどれくらいかかるかな。
*
必死で歩いて道の先に家が見えてきた頃には日が沈みはじめていた。途中、何度も人間に変身しようとして思いとどまってよかった。数日寝たとはいえ長時間変身できるほどの魔力はない。集落の中に入るときこそ人間の形じゃないとまずいよね。
深い森の奥にあるにしてはものすごく立派な家が5軒くらい建っている。街の中でも高級住宅街にあるような建築だ。勇者パーティーのお仲間だし、生活費はもちろん家も作ってもらったんだろう。それにどこを見ても畑がない。街から運ばれてくる食料だけで暮らしているんだろう。口を開けていれば生きられるなんていいご身分だな。
俺は木の上から中の様子を慎重にうかがった。ここにいる奴らは腐っても俺の愛する魔王様を殺した勇者の仲間だ。もしバレたら今の俺なんて秒殺だろう。
日が暮れて、家の明かりがつき始める。大した人口はなさそうだし今光ってる家にだけ人がいるんだろう。
そうしているうちに集落の奥、廃墟のような汚い家からわずかに魔力が漏れ出しているのに気付いた。
そもそも「魔力」とは、魔王様がその領域として選んだ大地に与えるエネルギーのことだ。それを糧に悪魔が生まれ、死んだら魔力は魔王に還って一部が結晶化して魔石になる。完璧な調和だ。だから人間は魔力なんて持ってないし、普通は使えない。
絶対あの建物が本命だ。ここには警備員すらいない。家の中からは酒盛りでもしてるような騒ぎが聞こえてくる。完全に緩みきった、腐敗した英雄の皆様に俺は心から感謝した。
床の隙間から俺はその建物にポヨンと入り込んだ。何かの研究をしていた場所のようだ。拷問器具みたいな怪しい道具や純度の低い魔石の破片が床に散らばっている。放棄されてかなり時間が経ってるっぽい。
見つかった瞬間に死が確定するから息を潜めて暗い室内を探し歩いた。床があまりに埃っぽくて人間の姿に変身したけど、この身長でも淀んだ空気で息が詰まる。
いくつめかの部屋で書類が残された棚を見つけた。その中のノートをいくつか手に取る。
「あれ、これもしかして……」
備品帳とか管理簿の横に、実験記録というフォルダを見つけた。焦る気持ちを抑えてその中のノートを机の上に出す。表紙に書かれていた文字を見て、俺は目を疑った。
「魔王、の、卵……ッ?!」
思わず叫びそうになって口を押さえた。こんなところでその文字を見るとは思わなかった。震える指でページをめくる。
何枚かめくったところにスケッチが描いてあった。緑の髪、赤い目の子供。
それはぐちつぼにそっくりだった。
俺は闇の中でノートを読み進めた。冷や汗が流れる。触れられたくない胸の奥を掴まれている。見たくないけど見なくちゃいけない。
魔王とは本当に特殊な存在だ。魔力の根源で、俺ら悪魔が強くなったからって魔王にはなれない。だから魔王様は何かあったときのために次の卵を産んでいた。まだ気が早いよとかみんなで笑ってたのが懐かしい。
実際、何年もしないうちに勇者が来た。俺たちは魔王様を守れなくて、せめて卵を抱えて逃げ出した。それでも、魔王が死んで力を失った俺らではどうすることもできなくて。
……あのとき人間に奪われて、卵はとっくに潰されてしまったと思っていた。でも現実は俺が思ってるより酷かった。
この隠れ里の連中はあの子を使って実験をしていた。魔王を殺した勇者は用済みだ。次の金づるを探したんだろう。
奴らは卵を裂いてまだ幼いあの子を引きずり出した。魔力を供給する装置にしようと企んだようだ。でも、できなかった。魔王の魔力は桁違いだ。何万もの悪魔を支えてくれるんだ、まともに浴びたら人間なんて簡単に消し飛ぶ。
それで焦った人間はあの子を殺そうとした。でも、それもできなかった。子供とはいえ魔王を殺せるのは神が選んだ勇者だけ。そしてそれはその代限りの能力だ。先代の勇者じゃ当代の魔王を殺すことはできない。
ページをめくるとどうにかしてあの子を殺すために試した方法が事細かに書いてあった。……さすがの俺も途中から気分が悪くなってきた。魔王の幼体とは言え見た目は人と変わらない子供なのに、人間はこんな残酷なことができるのか。
そして人間はボロボロに壊れたあの子を捨てた。記録の最後に書いてあった。度重なる実験のせいで命に危険が迫ると魔力が暴走する可能性がある。身体と魔力の成長を封印具で抑え込み、次の勇者を神が選ぶまで塔に監禁する。それまでは我々の手で供物を与え、生かし続けること────
目の前が赤い。ぬるい汗が背中を伝う。奥歯をギリギリ噛み締める音がした。
いますぐここの奴ら全員食い殺してやりたい。いや、こいつらの肉なんか食いたくもない。力が健在なら、魔王様が生きていれば、こんな奴ら引き裂いてブチブチにしてやるのに!!
自分たちのせいで力が不安定になったあの子を塔に監禁して、供物だけは放り込む。そんな中でもあの子は、ぐちつぼは、ただ必死に毎日生きてきたんだろう。いずれ死ぬために生かされてるとも知らずに。
他にめぼしいものは見当たらなくて、俺は建物の外に出た。明かりのついた家からは女の嬌声が聞こえてくる。醜いを通り越して吐き気がする。そんなことをしてるから誰も見に来ないわけだ。もう、無関心なんだろう。
緊張が解けて体から力が抜けてしまった。怒りすぎて頭がぼんやりする。
俺は事実を噛み締める。ぐちつぼは次の魔王だった。あの時守れなかったあの子だった。あの懐かしい魔力、そういうことだったんだ。
「生きて、たんだ」
頬に涙が滑り落ちた。こんな穴だらけな心でも、魔王のことならまだ泣けるんだ。
何度目かもわからないため息が夜風に溶けていく。月のない闇夜は好都合だったけど、今は月の一つでも眺めたい気分だった。
あてもなく集落のはずれへフラフラ歩いた。女の甘い声も、男の調子に乗った声も聞きたくなかった。
崖の下にゴミが捨てられていた。国の印章の入った空き箱がそのまま捨ててある。ああ、なるせの言う通り本当にこの隠れ里にあの馬車で持ってきてたんだ。
国からこいつらに支給される食料、これにはぐちつぼへの供物も含まれているはずだ。だけどあいつらはそれを市場で売り飛ばして、金と美味しいものは独り占めして毎日乱交パーティー。ぐちつぼには売れ残りでも持っていってるんだろう。
魔王への恐怖は20年も経つうちに形骸化して、中抜き横流しなんて事件まで起きた。やっぱり人間は腐ってる。醜悪さに反吐が出る。
あの子の食べていたご飯を思い出す。バターを塗らないと食べられないくらい硬いパン。水っぽいベーコン。りんごは酸っぱすぎた。それを美味しそうに食べるぐちつぼの、幸せな笑顔。
あの子の世界ではきっとあれは世界一美味しいごちそうで。……あの子の全てだった。
ぐちつぼはあの塔に少なくとも20年は監禁されてる。人格とは他者とのふれあいで形作られる。あの塔でただ一人、誰とも話すことなく本だけを頼りに生きてきたあの子の精神年齢は、首輪をつけられたときに止まってしまったんだろう。
俺は塔に戻るべきか迷った。魔王の幼体を側で守るべきか、あの玄関の封印か首輪を壊す方法を探しに行くべきか。
冷静に考えるなら後者だ。ぐちつぼが本来の魔力を取り戻せれば一番いい。それができなくてもせめてあそこから出られたらいくらでも幸せにしてやれる。隣町には俺の仲間たちもいる。次代の魔王様を連れて行ったらあいつら驚くだろうなぁ。
俺は丸い姿に変わって街に帰る馬車の空箱に潜り込んだ。街に戻ったらなるせと連絡を取らなきゃ。ここで見たこと全部伝えないと。それで今みたいに封印解除のための情報収集をしよう。それが一番あの子のため、あの子のためなんだ。
憎悪と復讐を抱えて馬車にガタゴト揺られる俺の瞼の裏にぐちつぼの姿が染み付いて離れない。
心も身体も壊されて、それを全部忘れてあの塔で無垢に生きるあの子の顔。
届く先のない願い事を書き続けた先に現れた、俺。
「苦しかったはずなのに、どうして……」
俺の心に音を立てて何かがはじけた。復讐心よりも大きな何かが津波のように溢れてくる。
ぐちつぼはこれ以上苦しんじゃいけない。あの子は幸せにならなきゃいけない。世界中すべての優しさを受け取る権利がある。一秒だって泣かせちゃいけない。
俺らが卵のあの子を守れていたらこんなことにはならなかった。だからここでまた手を離す理由なんて一つもない。一人ぼっちになんてさせちゃいけないんだよ!
俺は木箱から飛び出した。躊躇なく馬車から飛び降りる。木々の先に塔が見える。不便な足でポヨポヨ歩く速度がだんだん速くなり、最後には駆け出していた。
「ごめん、俺、友達なのに」
目の奥が痛い。俺が泣くのは卑怯すぎる。泣きたいのはぐちつぼの方だ。あの塔で一人待つ小さな姿を想像して心が嵐のように荒れ狂う。
主従じゃない。あの子が欲しがったのは友達だ。
だから俺は寄り添おう。青いまんまるな友達として。
また供物入れから俺は塔内に転がり込んだ。中は真っ暗で、階段を登っていっても明かりの一つもついてなかった。
人の気配がしない。焦燥を抱えて俺はぐちつぼの姿を探した。
「ぐちつぼ…!!」
最上階の自室、部屋の真ん中に丸まるように倒れる小さな姿を見つけた。慌てて駆け寄って呼吸を確かめる。頬は熱く、目尻も赤い。でもただ眠っているみたいだった。
ひとまず安堵した。部屋の中は荒れ放題だった。タンスからは服が全部引っ張り出されてるし本の山も崩れている。
ぐちつぼが倒れているのは大きな紙の上だった。真ん中には青い丸、多分俺が描いてある。その横に緑の髪の人間。でもその赤い目は楽しそうじゃなかった。
二人の周りにはいろんなものが描いてあった。パンやりんご、小鳥、それに本や星。難しい数式なんかも描いてあった。多分この子が想像できる範囲の楽しいこと。
俺は残りわずかな青いクレヨンで絵の中の俺の手を伸ばして絵のぐちつぼの手と繋げた。それからぐちつぼを引っ張り上げて、ベッドに運んであげようとした。
この身体だとやりづらい。なんとか上半身を起こさせたとき、ぐちつぼがムニャムニャ言いながら目を開けた。
「ふぁ……」
俺を見上げる目が見る間に丸くなる。そしてその真っ赤な目に透明な雫があふれてくる。
「ら……っ、だぁ!!!」
悲鳴のような声を上げて苦しいくらい強く俺に抱きついた。
「なんでだよぉッ、どこ行ってたんだよー!!」
俺はとっさに窓の外を指差した。ぐちつぼはキョトンとしてから唇を震わせる。
「……落ちたのか?!」
「らっ……」
「ばかぁー!!ばかばかばか!!」
小さな拳がポコポコ俺の身体を叩く。本当にごめん、俺はバカだ。本当にバカなんだよ。
殴る手がだんだん遅くなり、しゃくりあげながらぐちつぼはふやふやの目で俺を見上げる。
「落ちて、けが…ッ、ないか?いたくないか?」
「らぁっ!」
俺はブンブン首を振った。それでも心配そうに俺の顔に手を添えてくる。
「おれ、っ、だいすきだから、らっだぁのこと!だから、おれ、のこと、きらいに……ッ、」
そんな悲しい言葉の先を言わせないように俺はぐちつぼを抱きしめた。そんなこと言わなくても見捨てたりしない。自分を犠牲にしないでもお前には愛される権利があるんだよ。
背中をぽんぽん叩くと呼吸がだんだん落ち着いてきた。俺が見るぐちつぼはいつも泣いてる。もう泣かせたくない。これを最後にしたい。
あとはもう幸せなことだけでいい。……俺が幸せにするんだ。
「……いなくなったかと思って、探し回ったんだけど」
泣きやんだぐちつぼがぽつぽつしゃべり始めた。
「お前も大変なことになってたんだな。だめだぞ、高いところは危ないんだぞ!」
「らぁ〜……」
至極真っ当なお説教だった。反論なんて一つもない。この子の謎も、他の謎もすべて解けたけど、俺が何も言わずこの子をほったらかしたことは変わらない。友達の手を振り払ったのは俺だ。
俺が反省しているのを見てぐちつぼは納得したようだった。俺から少し離れて、急にギョッとしてる。
「らっだぁ、泥だらけじゃん?!そんなんじゃベッドに入れないぞ!」
雨の日に外に出た犬みたいな説教をされた。そして雨の日に外に出た犬がされることといえば。
「おふろ!俺が入れてやる!」
「らーっ?!」
抵抗の余地もなく俺は風呂場で泡だらけにされていた。ぐちつぼは俺の背中をスポンジで磨いてくれている。たまにクスクス笑ってるけど頭の上に泡で何か作られてる気がする。
抱き上げたときにやたら軽く感じた理由がわかった。服を脱いだぐちつぼは肋骨が見えるほど痩せていた。あんなものしか食べれてないんだ、これからは俺がなんとかしなきゃ。世界にはもっと美味しいものがいっぱいあるんだから。
裸になると白く細い首にあの首輪が食い込むようで痛々しかった。魔王様が卵を生んでから、本当なら28〜9歳くらいかな?きっと大人になっても今みたいに可愛いんだろうなぁ。絶対に首輪を外してやるからな。
「目とじろよー!えーい!!」
そんなことを夢想していたら頭からお湯をかけられた。丸い体にあたってバチバチ飛び散る。それが面白いみたいで何度もお湯をかけられてから、ぐちつぼも自分の泡を流して湯船に入った。
「らっだぁも!」
うながされて俺も湯船に入った途端、
「うわぁー!!お湯がぁ!?」
すごい勢いでお湯があふれていく。そりゃそうだ、このまんまるな身体の体積をナメていた。
いっぱい遊んだ風呂上がり。俺はリビングでぐちつぼと睨み合っていた。
「ら゛ぁ!」
「やだ!またどっか行かないように俺がだっこする!!」
どうしてもベッドに俺を抱えて連れていきたいらしい。今の俺の信用度はゼロに近いから気持ちはわかる。でも俺はそんなに軽くないし、それにぐちつぼのあの細い身体を見てしまったら階段を上るなんてとても……。
「えいっ!つかまえたぁ!!」
「ら゛ぁ〜〜っ!!?」
迷った隙に後ろに回り込んで抱きかかえられた。ビチビチ暴れても無駄だった。自分の背丈の半分以上もあるのに、引きずりながら頑張って抱えて階段まで歩いていく。
膝(膝?)(この俺に膝あるのか?)が段差にゴリゴリぶつかってこすれてるけど今の俺に反抗することはできない。むしろ暴れたほうが負担になるから俺は思う存分引きずられていった。
外は静かな星空で、鳥が遠くで鳴いている。ぐちつぼのベッドは狭いから並んで寝られない。俺はまたお腹に頭を乗せてあげた。
「ふふ、ぽよぽよだ」
ぐちつぼは頭を弾ませて笑っている。きっと、いつもの人間の姿でも、もちろん俺の全盛期の鬼の姿でもぐちつぼには寄り添えなかっただろう。
気が抜けるほど無害でまんまるなこの姿が、俺は正直恥ずかしかった。でもこんな俺で本当によかった。ぐちつぼが笑ってくれて本当によかった。
「……なぁ、らっだぁ」
「ら?」
ぐちつぼが俺を見上げている。少しモジモジしながら話しだした。
「あのな、ご飯、いっしょに食べてくれてありがとう。まくらも最高に気持ちよかったよ」
「らぁ!」
「だから、いっしょ、に、いっしょ……」
何か気になったようで「一緒」という言葉を繰り返している。俺はその理由に気づいて言葉の続きをじっと待った。
何度も目をぱちぱちさせてちっちゃな唇がモゴモゴ動く。眉毛が困ったようにひそめられたり、とんがったり。長いまつげに星明かりがまたたいて、瞬きするたびに星くずが落っこちそうだった。
真っ赤な目が一度大きく見開かれて、それからほっぺがポッと紅色になって、目がきゅっと細まる。口がふやふや緩んで、やがて小さなお花みたいに微笑んだ。
ぐちつぼはとても大切な温かいものを、自分で見つけられたみたいだった。
「これからはずっと一緒、一緒だからな!」
「らっ!!」
布団から伸ばされた小さな手に、俺も青い手を合わせた。
胸が温かい。憎悪に満ちていた心の穴が埋まっていく。
俺が守ってみせる。幸せにしてみせる。
魔王である前にこの子を。
俺の友達のぐちつぼを。
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