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第二話「日常」
春風が吹き、黒くて丁寧に整えられた少女の 前髪が揺れる。あまりよく見えなかった彼女の顔の全貌が顕になった。
(………青い…目…。)
彼女の瞳は、とても深い青色だった。
綺麗で繊細で、でも何も映していないような。 吸い寄せられるような瞳に惹き込まれて目が離せない。
普段は人と目を合わせる事など絶対にしないのに、何故かこの瞳からは逃れられなかった。
(………っやばい…流石に見過ぎたか…?)
我にかえり、バッと斜め下へ視線を落とす。
すると彼女がこちらに話しかけてきた。
「…こんにちは。あなたは…殿岡虎太郎君だね。」
「……えっ…?何で…名前…」
「え?だって自己紹介でそう言ってたじゃん。
私も一応その場にいたからね。」
「え…てことは…同じクラス…?」
「うん。そうだよ。」
驚いた。雰囲気が自分よりずっと大人びていて、
勝手に上級生と思い込んでいた。
まともに自己紹介を聞いていなかったせいで、同じクラスである事も気付かなかった。
「その反応だと、私が同じクラスって 知らなかった
感じか。だとしたらごめん。 急に話しかけて
びっくりしたよね。」
「嫌…別に…。」
「なら良かった。じゃあ改めて自己紹介させて。
私は氷見麗。麗でいいよ。」
「……氷見さん…よろしく。」
「…ふふっ。名字で呼ぶ人久々に見たや。
よろしく、虎太郎。」
「…………。」
親以外の人と話すことが久々なせいか、どうもこの氷見という人からは不思議な感覚がする。そこら辺の人とは違うというか、裏があるというか。
まるで全てを見透かされているような感じがした。
完全に会話のペースを持っていかれ、軽く会釈した後逃げるように階段を駆け下りた。
途中振り返ってみたが、氷見が降りてくる気配は無かった。
・ ・ ・
先程の出来事が頭から離れない。何故こうも不思議に思うのか、俺にもよく分からない。ただのクラスメイトだろうと自分に言い聞かせても、どこか腑に落ちなかった。
気が付いたら家に着いていた。
玄関を開けると、いつも通り元気な母親の声が聞こえてきた。
「あっおかえりー!学校どうだった?誰か良い人
と話せた??」
決して悪意は無い母親の質問攻めを避けつつ、自分の部屋に転がり込む。
カバンを置いて部屋着に着替え、ベットに大の字で寝転がった。
スマホを見るとゲームの公式サイトから通知が数件きていたが、見る気になれずそのままスマホを伏せた。 どうやら想像以上に疲れているらしい。
慣れない環境に飛び込むことへの気疲れからか 、
それとも掴み所のない彼女に対して感じる違和感からか。理由はきっと考えるまでもない。
・ ・ ・
「虎太郎ー!!いつまで寝てんの!遅刻だよ!!」
「…っやっべ!遅刻だ!」
まさか入学2日目にして遅刻の危機。
手早く支度し朝食もままならないまま、昨日放置したカバンを掴み家を出た。近所の人の目はお構い無しで全力ダッシュをきめる。
有難い事に、俺はそれなりに運動神経が良かった。でもバレたら色々面倒くさそうだから、苦手なフリをしてひっそり生きてきた。
だが今はそんな事を考えている暇はない。
同級生に見られるのは避けつつ、何とか門へと辿り着いた。まだ予鈴まで時間はあるがそれでもギリギリなため周囲に人は見当たらない。
やっと一休みと胸を撫で下ろす。
「あ、虎太郎おはよう。」
「…!?」
背後から自分を呼ぶ声に驚き、思わず飛び上がりそうになった。振り返るとそこには、驚いたのか目を少し見開いた氷見がいた。
「ごめんごめん。そんな驚くとは。」
「……いや、別に…。」
「てか虎太郎足めっちゃ速くない?遠目で見た
だけだけど。運動得意なんだね。」
「!?」
よりによって1番バレたら面倒くさそうな人に
知られてしまった。どうすれば誤魔化せられる。
「いやっ…全然…得意とかじゃ…。」
「そんな謙遜する事じゃないのに。さあ、行こ。
2人して遅刻とか笑えないよ。」
小走りで下駄箱へ向かう氷見を追いかけるように、俺も後をついて行った。
・ ・ ・
この学校にはいくつか変な決まりがある。
どこの学校にも学級委員長という役割を決めるはずだが、ここでは入学前つまり本校の合格者発表時に
学級委員長が指名される。各クラス男女1人ずつで編成されており、そして指名された者は原則卒業までが任期とされているらしい 。
指名される条件は分からなかったが、そこに拒否権は無かった。
「ここA組の学級委員長はこの2人だ。皆で2人を
ちゃんと支えていこうなー。」
「よろしくお願いします。」
「はーい。」
「…………。」
まさか氷見が就任するとは思わなかったが。
もう1人は暁火奈明と言うらしい。名前からして
勝ち組な気がした。
・ ・ ・
今日1日の終わりを告げるチャイムが鳴る。口々に眠気や疲労を訴える声が俺の耳にこだまする。
なんだかんだ元気そうで、結局こういうのは口先だけなのだと改めて理解した。足早に教室を出ていくクラスメイト達を見て、そういえば今日は部活動体験日だった事を思い出す。部活に入るつもりがない俺にとっては、ただの何も関係ない放課後である。
「ねえねえ。」
「!?」
真後ろで呼びかける声。覚えしかなかった。
「………氷見さん。急に声かけるのやめてくれな
い…?」
「あれ、また驚かせちゃった?そんな忍び足で
来たつもりは無かったんだけど。」
違和感の理由が何となく分かったかもしれない。
彼女からは所々常人離れした雰囲気を感じる。今も背後に来た事に全く気付かなかった。
「ああそうそう。この後用事とかある?」
「え?…いや、何も無いけど…」
「まじ?じゃあ一緒に部活動体験に行かない?」
「え?」
まさかの誘いに戸惑いを隠せない。何故俺なんかを誘うのか。何か裏があるのかと勘ぐってしまう。
「そんな怪訝な顔しないでよ笑別に一緒の部活に
入って欲しいわけじゃないから。ただついて
来て欲しいだけ。」
「何で俺なんかが…?」
「良いから良いから。着いてきて。行き先はもう
決まってるから。」
そう言うと彼女は俺を置いて教室を出ていってしまった。俺は理解出来ないながらも、ただついていく事しか出来なかった。
第二話「日常」いかがだったでしょうか?
思ったより早く上げる事が出来ました。
前回と比べて遥かに長くなってしまいましたが…。
いつ頃からになるか未定ですが、登場人物が増えてきたらセリフの見分けがつかなくなるので、
◯「…」みたいな感じで作ろうと思っています。
次回第三話「交錯」
上がる時期は未定です🙇
それではまた、お会いしましょう。