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『首すじに落ちる熱 ― 崩れる境界』
「もう……やめてって言ってるのに……っ」
震える声で絞り出した言葉は、彼の前では、まるで風に散る木の葉のように軽い。
「ねぇ、それ……本気で言ってる?」
彼の声は静かだった。なのに、その一言に背筋がぞくりとする。
「……だったら、そんな顔しないで」
大森元貴の手が、あなたの腰にまわる。ゆっくり、まるで壊れ物に触れるように――けれど確実に逃げ場を塞ぐように。
「震えて、熱くなって……声まで甘えて。どうして俺にだけ、そんな顔見せるの?」
「ち、違う……! こんな、無理やり……」
「無理やり?」
彼は首を傾けて、小さく笑った。
「じゃあ、やめてって……俺の目、見て言って」
顔をそっと掴まれて、視線を逸らせない。彼の瞳の奥にあるのは、冷静さではなく、ひりついた欲。
「……言えないよね」
唇が重なる直前、ふっと息を吹きかけるような距離で囁かれる。
「ほんとは……ずっと、こうされたいって思ってたんじゃないの?」
「っ……思ってない……思ってなんか……っ」
抵抗の言葉すら、熱に浮かされてうまく出てこない。
そんなあなたの様子を、彼は冷静に、しかしどこか愉しむように見つめる。
「もういいよ、黙ってて。……俺が気持ちよくさせてあげるから」
「や、やだっ……ほんとに……やめて、元貴く……」
その声を塞ぐように、彼の唇が再び首筋へ。
キスとも、噛み痕とも言えないような、甘くて残酷な感触が肌を這う。
「……お願い、やめ――」
「お願いって、何度も言うけど……」
耳元で、ふっと笑われた。
「ほんとは、“お願い、もっと”って意味でしょ?」
腕を引かれ、ソファのクッションに押し倒される。
「……っ、いやっ……!」
「もう、遅いよ。俺、今日だけは止まれないから」
視界がぼやけて、鼓動だけが響く。
衣擦れの音、熱を帯びた吐息、そして――
彼の舌が、首筋から鎖骨、胸元のラインまでゆっくりと下りていく。
「全部、俺のものにするから」
その声は優しいのに、残酷なほどに決定的だった。
そして、夜の静寂の中――
あなたの理性は、音もなく、崩れ落ちていった。