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ひより
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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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「な……っ!?」
「ば、馬鹿な……! なぜ生きて……!?」
胸元を赤く染めたカイルが、謁見の間へ入ってくる。その背後には、ギルバートと大勢の騎士たちが並んでいた。
「こ、皇太子殿下……!?」
冷たい目で侯爵たちを見据える。
「誰が死んだと言った?」
「だ、だが……確かに森で倒れ、意識を失ったと……!」
「ああ。矢が命中したのは事実だ」
面倒そうに狩猟服の前を開く。その下から現れたのは――胸当て。
「矢はこれで止めた。仕込んでいた染料が、衝撃で広がっただけだ」
侯爵たちの顔から、一気に血の気が引いていく。
「そ、そんな……!」
「だが――第二の鐘が鳴れば!」
「鳴らない」
「……何?」
「鐘楼へ向かった連中も、帝都の四門へ向かった連中も、とっくに騎士団が押さえてるっすよ」
背後から、ギルバートがひょこっと顔を出した。
「き、貴様……!」
「ちなみに、狩猟場へ送り込まれた刺客も、全員確保済みっす」
侯爵の顔が引きつる。
「では……殿下を射った者は……」
「俺っす」
自分を指差した。
***
――少し前。
「団長! 最後の一人、確保しました!」
「狙撃手も含め、全員拘束済みです!」
「よし」
ギルバートは肩に掛けていた弓を手に取り、黒いフードを被った。
「……じゃ、次は俺の番か」
深いため息をつく。
「マジでやりたくねえ……」
***
「いやぁ……主君を射る役なんて、二度と御免っすけどね~」
「な……っ!」
「反逆罪の証拠を、自らここまで揃えてくれるとはな」
「ま、待て……!」
「我々は――!」
「詳しい話は、尋問室で聞こう」
カイルが片手を上げた。
「全員、拘束しろ」
「はっ!」
騎士たちが一斉に動いた。
「離せ!」
「こんなはずでは……!」
「公爵閣下ぁぁっ!」
叫び声を上げる貴族たちが、次々と連行されていく。 こうして公爵派の残党は、一網打尽となった。
***
最後の一人が連行されたあと。
「……おい、ギルバート」
「はい?」
カイルが胸ポケットから、白いハンカチを取り出した。 端には、赤い染料がうっすらと染みついている。 ハンカチを見下ろし、眉間に深い皺を寄せた。
「ソフィアから貰ったハンカチに染みがついただろう!」
「いやいやいや!!」
ギルバートが全力でツッコむ。
「『左胸を正確に狙え』って命令したの、殿下でしょ!?」
「それとこれは別だ」
「別じゃないっすよ!」
「胸ポケットからハンカチが少し見えていただろう」
「あの距離からそれを避けろって!?」
「お前ならできただろう」
「できませんって!!」
頭を抱える。
「こっちは主君を射るだけで寿命縮んでるんすからね!?」
***
その頃。私は皇族専用の天幕で、何度も入口へ視線を向けていた。
「お嬢様。お茶が入りましたよっ」
アンナが、湯気の立つカップをテーブルへ置く。
「……ありがとう」
両手でカップを包み込んだ。
「皇宮で噂を広める役まで任せてしまったわね」
「お安い御用ですっ! お嬢様と公爵様の面会も許されているらしいって、使用人たちにそれとなーく話しただけですから!」
「それとなく、ね……」
すべては計画どおり。分かっている。分かっているけれど――。
(……遅い)
また、入口へ視線を向ける。アンナが苦笑した。
「殿下なら絶対に大丈夫ですよっ。残党ごときにやられるわけないじゃないですか!」
「……それもそうよね……」
その時――。
「ソフィア」
「……!」
聞き慣れた声に、勢いよく顔を上げる。天幕の入口に、狩猟服姿のカイル殿下が立っていた。胸元には、赤い染料の跡が残っている。
「全部、片づいた」
アンナが私たちを見比べた。
「では、私はこれでっ!」
ささっと天幕から出ていく。カップを置き、そのまま彼の前まで歩み寄った。
そして――。
ぎゅっ。
「……っ」
その胸へ、強く抱きつく。
「ソフィア?」
ゆっくりと背中へ腕が回った。
「分かってはいたけれど……怖かったんですからね……!」
「すべて計画通りだ。これで残党どもも片づいた」
「そういう問題じゃありませんわ!」
胸元へ顔を押しつけたまま、ぎゅっと服を掴む。
「もう二度と、こんな心臓に悪い真似はなさらないでくださいませ」
「それは約束できない」
「はぁ!?」
思わず身体を離し、睨みつけた。
「そこは約束するところでしょ!?」
「時には、危険を冒さなければならないこともある」
「だからって――!」
「だが」
ぐいっと腕を引かれ、再び胸元へ引き寄せられる。まっすぐな視線が、私を捉えた。
「一人で勝手なことはしない。お前には、必ず相談する」
「……絶対ですわよ」
「ああ」
再びその胸へ額を預けた。少しして、腕が緩む。
「……そうだ」
彼が胸ポケットから、白いハンカチを取り出した。端には、赤い染料がうっすら付いている。
「……すまない。汚してしまった」
申し訳なさそうに眉を寄せる。
「せっかく、お前が作ってくれたものなのに」
「……ふふっ」
「何がおかしい」
「だって……そんなことを気にしていらしたんですの?」
「俺にとっては大事なものだ」
「でしたら――」
そっと頬に触れた。
「来年、また同じものを作ります」
「……来年も?」
「もちろんですわ」
わずかに瞳が見開かれる。その顔を見上げ、微笑んだ。
「あなたが無事に帰ってきてくださったなら、それで十分ですもの」
少しだけ背伸びをして、その唇へそっと口づける。
「…………」
離れようとしたところで、腰へ腕が回った。
「きゃっ……」
ぐっと引き寄せられ、今度は向こうから唇を重ねられる。さっきよりも、少しだけ長く。やがて唇が離れた。
「……約束は守った。無事に戻っただろう」
「……ええ」
「なら、褒美をくれ」
彼の口元が、わずかに持ち上がった。
「……は?」
(この人、何を要求するつもり!?)
コメント
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「約束を守ったから、ご褒美をくれ」、このタイトルからもうニヤニヤが止まらなかったです……! ギルバートの「主君を射る」回想、そしてハンカチの染みで揉めるくだり、笑いました。計画の全貌がようやく明らかになってスッキリ。そしてソフィアが待つ天幕へ戻ってからの甘やかシーン、あの「来年も作ります」からの口づけ、ラストの「褒美をくれ」――次が気になりすぎます! 二人の関係性が深まった、とても大事な回でした。