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今更であるが、プラザ中崎は1Kの物件である。
キッチンスペースを広くとってあるものの、居室はせいぜい8畳程度。
2階の端から2軒目の幾ヶ瀬家にも、こじんまりとした家具が置かれていた。
テーブルは1つ。長方形の座卓だ。比較的大きめサイズではあるか。
そこに、無数の料理が並んでいた。
シェフ(見習い)だからこその大皿が数枚──普通、ひとり暮らしの若者はこんな宴会用の大きな皿は持っていない。
更に小皿、鉢、椀がびっしりと。
「さぁ、食べて! 有夏、沢山食べて!!」
「は?」
「ただいま」と言う間もなく、有夏は部屋の入口で立ち尽くしていた。
「おこしやす」と書かれたTシャツに短パンという気楽な服装だ。財布も持っていないのが分かる。
「コンビニでヤンジャン立ち読みしてたんだけど……」
その間に、幾ヶ瀬がおかしくなってしまったと言外に戸惑いをにじませて。
「誰かの誕生日かなんかだっけ」
「誰かのって何? 違う違う! 誕生日でも記念日でもないよ。有夏と初めてキスした記念日は1週間後だって!」
「キモっ……」
「さぁさぁ、手洗ったら座って! たくさん食べてね。本当に食べてね」
やけにテンションが高い。
肉じゃが、牛肉と野菜の炒めもの、牛肉の野菜巻き、牛丼、青椒肉絲、牛肉とごぼうのしぐれ煮……。
似たような色合いのメニューが食卓に乗り切らず、床にまではみ出ている有様。
「肉ばっか!」
「肉といっても牛肉だよ! 有夏、好きでしょ。牛だよ、牛!」
「いや、スキだけどさ……幾ヶ瀬がキモいわ」
卓の前に腰を下ろしながら不審気に見やると、幾ヶ瀬の目はグルグルと泳いでいた。
「レイゾウコガ……」
「は?」
「レイゾウコガコワレタンダヨッ」
「レイゾウコガコワ……冷蔵庫が壊れ……ウソッ!?」
「嘘つくわけないでしょ」
「んじゃ、有夏のアイスは!?」
「アイスなんて知らないよっ! 勝手にドロドロになってるよっ! 急いで冷凍室の食材を救出して、とにかく調理したんだよ。あのままじゃ駄目になっちゃうから」
「や、でも、さすがシェフだよな。こんなにたくさん料理……って、こんなに食えるかっ!」
「いや、そういうのいいから。食べて」
有夏、渾身のノリツッコミをあっさり流した幾ヶ瀬。