テラーノベル
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竜馬は長い時間をかけてホールストリートに歩いて帰って来た、ジャスティンが連れて行かれてからは、ずっとフェンス沿いに歩いていくと、小さな竜馬が通れるほどの破り跡があった、そこを通って何とか外には出れたが、竜馬のハーレーはルビーが手榴弾で火だるまにして飛んできたパトカーの下敷きになってしまっていた、その焼け跡は無残でタイヤは溶けてなくなっていた
街燈も無い真っ暗な長い長い国道を獣の声や虫と格闘しながら一人歩き続けた、フラフラで悪夢を見ているようだった、ジャスティンは生きているのかも死んでいるのかもわからなかった、だんだん空がサファイヤ色になって星が白い点になり、もうすぐ太陽が顔を出そうかという頃・・・ホールストリートの入り口のバス停に一人で座っている大柄の人間が目に入った
「セドリック・・・」
そこにはかつてジャスティンをすごく慕っていた町の変わり者と呼ばれ、いじめられていたセドリックがいた
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庇うと言っても、一見はとても大柄の成人した大人に見える、しかし心は子供だった、そしてまたセドリックは泣いていた
薄暗いバス停を小さな街灯がスポットライトのように照らしている、コカ・コーラと書かれた赤いベンチは大きなビスで地面に固定されていた、それもそのはず初代コカ・コーラのバス停はジャスティンの家にあるんだから、盗難防止なんだろう
またジャスティンの事を思うと心が痛んだ、涙が溢れてくる・・・竜馬は疲れ果て、泣いているセドリックが座っている反対側のベンチの端に座った
しばらく二人は無言で石のように座っていた・・・街灯に蛾が集まって来て粉を飛ばしていた、夜になるとどこからともなくやってくる浮浪者が目の前の公園で囲む小さな焚火がポツン・・ポツン・・と見えた
夜気は優しく・・・樹木の匂いがした、さっきまでの港の弾薬と煙の臭いとは大違いだった、まるで別世界だった
グスッ・・・・「ジャスティン・・・」
ポツリと言ったその言葉に竜馬は驚いたセドリックは何かを知っているんだろうか?でも、もう・・・どうでもいい事だ
「ジャスティンを待っていても、もう帰ってこないよセドリック・・・」
竜馬は立ち上がった
「家に帰りなよ・・・セドリック・・・僕も君も置いて行かれたんだ・・・」
そう言い残して竜馬は再び歩き出した
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竜馬はジャスティンのアパートメントに向かった、もしかしたらジャスティンが帰ってきているかもしれない・・・自分が見たものは何かの間違いで、ジャスティンは撃たれてなくて、マフィアなんかでもなければ人殺しなんかでもなくて・・・・そうだ、すべて何か悪い夢なんじゃないだろうか
そう思いたかった、今すぐでもそこのドアを開けて彼が入って来そうだった、頭を優しく撫でてほしかった、一緒にカレーを食べたかった、しばらくジャスティンのベッドに大の字になって竜馬は死んだように眠った
竜馬は疲れ果てていた、小一時間ほど眠り、水を飲んだら少し元気が出た、そして何となくジャスティンのクローゼットを開けた・・・するとクローゼットの壁のちょうど竜馬の目線の位置に、ピンで封筒が張り付けてあった
竜馬はピンを抜いてその封筒を手に取り、朝方の紫色の日が差し込む窓辺に腰をかけ、封を開けた・・・するとジャスティンの荒い気性には不釣り合いなほどの、優雅な筆記体の文字が現れた
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―竜馬へ―
この手紙をお前が見ているということは、俺はもうお前の傍にはいないということだろう、死んだか何をしているかわからないが、最後に一つ、俺の頼みを聞いてくれ、クローゼットの床に入っている金を家族に渡してほしい、安心しろ、その金は綺麗な金だ
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クローゼットの床は簡単に剥がれた、そこには大きな紙袋一杯の現金が入っていた、竜馬は手紙の続きを読んだ
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俺はきっと・・・どこにいてもお前を恋しく思うだろう、死んで魂になってさえ、お前の笑顔を思い出すだろう、竜馬・・・お前は俺が見てきた中で一番魂の美しい人間だ、もうここらへんでやめとこう・・・わかるだろ?こーゆーのは・・・苦手なんだ
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グスッ・・「何でもすぐクローゼットに隠すんだから・・・」
途端に竜馬の胸がズキンと痛んだ、きっとジャスティンはこうなることを予想していたんだ、いつまでも一緒にいたかった、でもいられないこともわかっていた、竜馬は溢れる涙を止められなかった
「幸せって・・・なんだよジャスティン・・・」
便せんにポタリ・・ポタリと涙が滴り、文字をにじませた
「教えろよ・・・ジャスティン・・・」
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「カルロス・・・おい起きろ!起きろ!カルロス」
カルロスは不意に目を覚まし、最初は自分がどこにいるのかわからない様子で目を擦った、アルコール臭い自宅のリビングのソファにいつもと変わらず自分が寝ているところを確認し、そして目の前のソファーに座っている竜馬を見て怒りを露にした
「おう!おう!おうっ!不良留学生が!またこんな朝方に帰って来たぜ!今度という今度はホストファミリー協会に言いつけるからな!このろくでなしめが!」
大きな腹を揺らし、丸くて小さくてずるそうな目が竜馬を睨みつける
「カルロス・・・ホストファミリー協会なんざ、あってないようなものだってもう知ってるよ、それより僕・・・今日でここを出て行くことにしたんだ、だから今まで毎月一郎さんに僕の生活費仕送りしてもらってるよね?あれ全部返してくれる?」
竜馬は冷たく言った、するとみるみるカルロスの顔が怒りで真っ赤になった
「今までさんざん面倒を見てやった恩をやはりお前は仇で返すんだな!金なんかあるわけないだろう!」
カルロスは心底お前が嫌いだという顔で竜馬を見つめた
「面倒なんか見てもらった覚えはないよ、ちゃんと一郎さんのお金を返してくれたら、僕もホストファミリーに君の留学生を利用して金を搾取していることを言わないでおくって言ってるんだよ、頭悪いな、話聞いてる?」
とはっきり言う
「生意気言うな!俺を誰だと思っているんだ知ってるんだぞ!お前はアメリカに来てあのクソマフィアのジャスティンに、ケツを掘られることしか学ばなかったようだな」
カルロスは面白がって黄色い歯を見せて笑った
グフフフ・・・「何なら俺のをしゃぶらせてやってもいいんだぜ、男が好きなんだろ・・え?・竜馬?」
ふ~っ・・・と竜馬はため息をつき首を振った
「アホだアホだとは思っていたが、これほどとは・・・」
竜馬は顔をあげ、カルロスが凍り付くような視線でまともに見据えた
「しかたがないな・・・」
―ズガーンッ―
大きく脚を開いているカルロスの股間のすぐ手前のソファーに穴が開いた、弾薬の匂いがリビングに充満する、竜馬はカルロスの股間めがけてジャスティンのコルトを一発お見舞いした、もっとも本気で撃つ気はなかったので、股間の位置から少しずらした、しかしカルロスを脅すには十分だった
「動くなよカルロス、お前の股間を吹っ飛ばそうと思ったのに動いちゃダメじゃないか」
アワワワ・・・・「なっ・・・なっ・・・」
竜馬は氷のように冷たい目で目の前のカルロスを睨んだ、カルロスは口から泡を吹き、股間のズボンにシミがみるみる広がった、すっかりビビったカルロスは漏らしてしまった
カルロスはショックを受けていた、というより目で見ていることが信じられない様だった
「今まで何も知らない、たいけな外国人の子供と家族を騙してきたんだろ、お前のような「搾取目的の悪質ビジネスホストファミリー」は無くなった方がいいんだよ・・・いや・・・いっそのことお前のようなクズは人間やめろ 」
竜馬はガチャンッとコルトをカルロスの額に押し付けて、氷のような瞳で言った
「次は外さない、動くなよ・・・カルロス 」
「クックッ!クッ!・・・クローゼットの中に金庫がある!!そっそこに金がある!!全部持って行け!!だっ・・・だから命だけは助けてくれっ! 」
声を裏返してカルロスが言った
「いいかい?3月になったらホストファミリー協会に連絡しろ、僕は無事に大学に入学して一人立ちしたと言え、そして一郎さんにはもう仕送りをしなくていいって・・・お前もホストファミリーを辞めるとちゃんと言え、そして真面目に働け 」
カルロスは震えながら、言葉を忘れてしまったかのように何度もウンウンと頷いた
「ホストファミリー協会はお前に何があっても助けに来てはくれないよ、忘れるな、いつでも僕のコルトがお前を狙っていることを」
竜馬はクローゼットの金庫を開けた、たしかにそこには賃貸の借用書や、その他宝石や時計の貴金属、そして現金が束になって積まれていた、カルロスは銀行などは信じず、家に貴重品を置くタイプの人間だった
竜馬は他の貴金属などには目もくれず、自分がここに来た歳月分、一郎が仕送りしてくれたであろう現金分だけを抜き取った、 そしてふとクローゼットのカルロスのブーツのコレクションに目が止まった
それはこの家にきた最初の頃に、カルロスが自慢してた「アリゲータークロコダイル」の本革のブーツだった、怯えて震えているカルロスに言った
「これも一郎さんの金で買ったんだろ?貰っていくよ! 」
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「こんな姿になってしまって、申し訳ないんだけど・・・」
ホールストリートにあるロックハウンドのタトゥーショップの横に檻が設置されているアリゲータークロコダイルの「ワニのマック」は相変わらずその獰猛な姿で道行く人を驚かしているが、いたって本人は腹が減っている時しか動くことをしなかった
太くて頑丈な鎖につながれてはいるが、左右に広げている肢体は恐ろしい程獰猛で、足はしっかりと地面に踏ん張っている
少し笑っているような口元には、刃物のような裂肉歯が並んで見え、噛みつかれたらひとたまりもないだろう、そして今マックスは相変わらず話しかけている、竜馬にまったく関心を向けずに、昇ってくる太陽の方角に向かって大きく口を開けていた
竜馬はマックスの目の前にカルロスから取り上げた、クロコダイルのブーツを二足置いた
「違うかったらごめんね、もしかしたら君の知り合いかもしれないと思ったんだけど・・・」
竜馬はしゃがんでじっとマックスの様子をうかがった、するとマックスが その黒曜石のような瞳孔を「キュルッ」と縦線にし、 ゆっくりズルズル動き、まるで卵を抱えるように ブーツをお腹の下に入れて温めだした
竜馬はニッコリ笑って話しかけた
「よかった・・・これでもう一人じゃないね・・・」
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とばかりにマックスは瞳孔をまたキュルッと縦線にした
コメント
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うわあ、184話…読み終わってしばらく動けませんでした。 竜馬がジャスティンの手紙を見つけるシーン、胸がぎゅっとなりました。「どこにいてもお前を恋しく思う」って…もう、ずるいよ。 バス停でセドリックと並んで座る沈黙も、言葉はいらないのに伝わる哀しさがあって。 最後にカルロスに立ち向かう竜馬、強くなったなあ。あのコルトを構える目が、もうジャスティンの片鱗を宿してる気がして。ラストのワニのマックスのシーン、ブーツを抱える姿になぜかほっとしました。悲しいけど、ひとりじゃないよって言える竜馬に、私も救われた気持ちです。
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はるあ
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尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
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