テラーノベル
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カタカタと、心地よい規則的な振動が馬車の中に響いている。
最高級のサスペンションが衝撃を吸収しているため、揺れはほとんど感じられない。
窓の外には、格式高いアストリア公爵家の紋章が刻まれた豪奢な車体が、王都の美しい街並みを滑るように進んでいく景色が広がっていた。
今日から始まる、ルミナス王立学院での生活。その初日である入学式の朝、馬車のシートに腰を下ろしているのは、一卵性の双子であるシエルとステラだった。
「緊張しているか、ステラ」
正面に座る兄のシエルが、静かに声をかけてくる。
代々国王補佐官を務めるアストリア家の跡取りであり、若くして第一王子ジョシュアの筆頭補佐官を務めるシエルは、新入生とは思えないほど落ち着き払っていた。
仕立ての良い漆黒の学院制服を完璧に着こなし、その切れ長の瞳には知性が宿っている。
ステラは、膝の上できちんと揃えていた手をそっと胸に当て、淑女のお手本のような微笑みを浮かべた。
「いいえ、シエル。緊張というよりは……身が引き締まる思いですわ」
その声は鈴を転がしたように美しく、気品に満ちている。
緩やかに波打つプラチナブロンドの髪に、初夏の若葉を思わせる瑞々しいエメラルドグリーンの瞳。
弱冠十五歳にして「王国一の淑女」「高嶺の花」と噂されるステラは、ただ座っているだけで一幅の絵画のようだった。
「そうか。お前が五歳の頃から、どれほどの努力を重ねて皇太子妃教育を受けてきたか、俺は一番近くで見てきたからな。……だが、学院には様々な領地から貴族が集まる。中には、殿下の婚約者の座を羨み、不敬な態度をとる不届き者もいるかもしれない。何かあれば、すぐに俺に言いなさい」
シスコンというわけではない。
だが、シエルにとってステラは誇るべき自慢の妹であり、同時にその「芯の強さ」を誰よりも尊敬している。
だからこそ、理不尽な悪意に晒されることだけは看過できなかった。
ステラは一度、兄のまっすぐな瞳をしっかりと見つめ返し、深く頷いた。
「ありがとう、シエル。でも、心配はいりませんわ。私、アストリア家の名に恥じぬよう、そして……ジョシュア様が最も信頼を寄せるあなたのように、間違ったことには毅然と言い返せる強い人間でありたいのです。お隣に立つ者として、必ず誇り高くみせますわ」
それは、代々国王の盾として、そして今ではジョシュアの頼れる右腕として、堂々と前を歩む兄への心からの敬意だった。
シエルのような背中を自分も追いかけたい――そんな妹の純粋な憧れと決意が、その言葉には込められていた。
「やれやれ。殿下の前でその顔をするなよ? 彼の独占欲に火がついたら、入学式どころではなくなってしまう」
シエルは一瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐに嬉しさを隠すようにやれやれと肩をすくめる。
ジョシュアがステラをどれほど深く、深く溺愛しているか。
彼の補佐官であり親友でもあるシエルは、耳にタコができるほど聞かされているのだ。
「もう、シエルったら。冗談が過ぎますわ」
ステラは小さく頬を染め、恥ずかしそうに視線を窓の外へと戻した。馬車はちょうど、学院の象徴である巨大な白亜の正門をくぐるところだった。
格式高い学院の大講堂は、新入生と彼らの保護者、そして在校生たちの熱気に包まれていた。
ステラは新入生席の最前列、それも中央という、もっとも目立つ席に座っていた。背筋をピンと伸ばし、指先一つに至るまで洗練された所作で前を見つめる姿は、周囲の令嬢たちから「なんて美しいの……」「さすがアストリア公爵家のご令嬢」と、感嘆のため息混じりの囁きを誘っている。
やがて、厳かな鐘の音が響き渡り、式は新入生総代答辞の時間を迎えた。
『新入生総代、第一王子――ジョシュア・ド・ルミナス』
名前が呼ばれた瞬間、講堂内の空気が一変した。
壇上に上がったのは、夜空を切り取ったような艶やかな黒髪に、冷徹な氷を思わせる鋭く美しいサファイアブルーの瞳を持つ少年。
彼こそが、この国の未来を背負う最高の皇太子、ジョシュアだった。
無駄のない洗練された足取り。
圧倒的なカリスマ性を放つ佇まい。
ジョシュアが壇上から会場を見渡すと、その冷たい美貌に、多くの令嬢たちが息を呑み、顔を赤らめる。
誰もが恐れ多くて近付けない、氷の王子。
しかし、ジョシュアの視線が、最前列中央に座るステラと一瞬だけ交錯した。
(――ステラ)
声には出さない。
けれど、ジョシュアのサファイアの瞳が、ほんの一瞬だけ、春の陽だまりのように優しく揺れたのを、ステラは見逃さなかった。
冷徹に見える彼の胸の奥で、自分への甘い情愛が確かに脈打っている。
それを感じて、ステラの胸はトクン、と甘く高鳴った。
ジョシュアは再び表情を引き締めると、朗々とした、それでいて威厳のある声で答辞を読み上げ始める。
国を背負う者としての覚悟、そしてこの学院で学ぶことの意義。
完璧な内容と、完璧な発声。
(素晴らしいですわ、ジョシュア様。……私も、あなたに相応しい妃になるために、もっともっと頑張ります)
壇上の最愛の婚約者を見つめながら、ステラは心の中で、深く、深く愛を誓うのだった。
だが、そんなステラの背中を、嫉妬と羨望に満ちた、ドロリとした冷たい視線が見つめていることには、まだ誰も気付いていなかった――。
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推し活は活動源@ウィンブレ好き
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#シークレットベビー
朝永ゆうり
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ななな
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コメント
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読み終わりました!第1話からもう世界観がびっしり詰まってて贅沢だなって思いました。アストリア公爵家の格式、双子の兄妹の信頼関係、そして「氷の王子」ジョシュアがステラだけに見せる柔らかな眼差し――この三人の関係性の描き方が丁寧で、すごく引き込まれます。ラストの「嫉妬と羨望に満ちたドロリとした視線」の伏線が気になって仕方ないです。これから学院でどんな波乱が待ってるのか、続きが楽しみでなりません!