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鷹槻れん

53,239
篠原愛紀
821
厳かな入学式が幕を閉じ、新入生たちがそれぞれ教室や寮へと移動を始める中、ステラはシエルから手渡されたメモの通りに、人通りの少ない旧校舎の奥へと足を運んでいた。
蔦が美しく絡まるアンティークな扉を開けると、そこは学院の喧騒が嘘のように静まり返った、古い生徒会室だった。
窓から差し込む午後の柔らかな光が、室内の埃をキラキラと輝かせている。
「待たせてしまったね、ステラ」
背後から低く心地よい声が響いたと同時に、ステラの身体が、仕立ての良い制服越しに温かい腕でふわりと抱きしめられた。
包み込むような香木の甘い香りと、確かな体温。
「ジョシュア様……!」
振り返るよりも早く、ステラは愛しい婚約者の胸の中に収まっていた。壇上で見せていたあの冷徹な「氷の皇太子」の姿はどこにもない。ジョシュアはステラのプラチナブロンドの髪に愛おしそうに顔を埋め、深く息を吸い込んでいる。
「ずっと、こうしたかった。式の間、最前列で君が僕を真っ直ぐ見つめるものだから……本当は答辞なんて放り出して、今すぐ君を攫ってしまいたかったくらいだ」
「もう、ジョシュア様ったら、またそんな困ったことを仰って……」
ステラは赤面しながらも、その逞しい胸にそっと手を添えた。
五歳のあの日から、この腕の中だけが、ステラにとって全ての努力が報われる「特別な場所」だった。
ジョシュアは抱擁を緩めると、ステラの顎を長い指先で優しくクイと持ち上げた。
サファイアブルーの瞳が、熱を帯びてステラを凝視する。
「シエルから聞いたよ。馬車の中で、僕の右腕である彼のようになりたいと言ってくれたんだろう?」
「えっ……!? シエル、もうジョシュア様に伝えてしまったのですか?」
気恥ずかしさで顔を真っ赤にするステラを見て、ジョシュアは低く愉しげに笑った。
しかし、その瞳の奥にある独占欲は隠しきれていない。
「嬉しかったよ。でもね、ステラ。君は誰かの真似をする必要なんてないんだ。五歳の頃から、僕の妻になるために、どれほど血の滲むような努力をしてきたか、僕は全部知っている。今日の君の佇まいは、世界中のどの淑女よりも美しく、僕の自慢の婚約者だった」
「ジョシュア様……」
「だから、僕の前でだけは、完璧な淑女でいなくていい。ただの、僕の可愛いステラでいて」
そう囁きながら、ジョシュアはステラの額に、そして愛おしそうに両真珠のような目元に、優しくキスを落とした。
いつも張り詰めていた皇太子妃教育のプレッシャーが、彼の甘い愛撫によって、すうっと溶けていくのをステラは感じていた。
「はい……。ジョシュア様、私、これからもあなたに相応しい妃になれるよう、一生懸命頑張りますわ」
「ああ。でも頑張りすぎて倒れないように、僕が毎日こうして補給してあげないとね」
悪戯っぽく微笑んだジョシュアは、今度はステラの唇を見つめ、ゆっくりと顔を近づけていく――。
コメント
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ああ、もうこの甘やかな秘密の時間……! 壇上での“氷の皇太子”から一転、ステラにだけ見せる独占欲と甘さのギャップにやられました。「頑張りすぎて倒れないように補給してあげないと」なんて台詞、反則ですよ……! ステラの努力を全部知ってるからこそ「君は誰かの真似をしなくていい」と言えるジョシュアの優しさが、じんわり沁みました。二人だけの特等席、これからも大事に見守らせてください🤍