テラーノベル
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週末、翔太と健二と3人で実家へ行った。
「いらっしゃい!しょうちゃん、待ってたよー」
「ばぁば、きたよ。じぃじもいる?」
「じぃじね、美味しいご飯作ってるよ」
「あ、お母さん、これ、ケーキ焼いてきた、味は保証しないけど」
「お邪魔します」
ダイニングへ行くと、テーブルにはお寿司とサラダと、簡単なおつまみが並んでいた。
「あとは、俺特製のけんちん汁。もう出来上がるから座ってて」
お義父さんがまた料理をおぼえたらしい。
ビールも出して和やかにお祝いの宴が始まった。
「やっぱりさ、ここは乾杯だよね?」
お義父さんが言う。
「そうだね、じゃあ…綾菜と健二君、結婚記念日おめでとう!末永く幸せにね」
お母さんが乾杯の音頭を取る。
「お母さんと進さん、離婚おめでとう!これからはそれぞれ好きなことして元気に生きてってね」
「あはは、ありがとう」
「うん、ありがとう」
「離婚おめでとうって、変ですよね?」
健二が言う。
「もめずに離婚なんて、おめでたいよ」
私が答える。
「そうよ、浮気!とかじゃないから揉めないんだよ」
お母さんは、わざと浮気を強調してるような気がする。
釘を刺してるのかも。
健二の顔色がちょっと変わった気がしたけど、すぐに戻った。
「これ、美味しいですね。お義父さんが作ったんですか?」
「そうよ、健二君も料理してみたら?」
お母さんが健二に言う。
「え?いやぁ…仕事、忙しいんでちょっと」
「いまからおぼえとけば後々助かるよ、たとえば…」
「え?なんですか」
「離婚したときとか…」
「ぶっ!は?え?なんで…」
ビールを吹き出した健二。
慌ててティッシュを取る。
「いやぁだ、どうしたの?健二、こぼしちゃって」
「あ、慌てて食ったから、なんでもないよ」
「私が、健二君も料理したら?いつか離婚した時に助かるよって言ったんだけどね」
「離婚?私と健二が?ないないない」
ここでは、否定しておく。
まだ何もハッキリしていないから。
そうだ、ここでメモリーのことを話してみよう。
「あーっ!!そういえば!」
「びっくりした、何、綾菜、突然大きな声を出して!」
「結婚記念日のサプライズ、どうなった?」
「え?何か約束したっけ?」
少々慌てた様子の健二。
「違う、私がサプライズを仕掛けたんだけど。健二が何も言ってこないってことは、まだ見てないってこと?」
「なんのこと?」
「あ、今日は仕事用のパソコンバッグ持ってないか」
「持ってないよ、さすがに。パソコンがどうかしたの?」
「でも言ってしまうと、サプライズじゃないしなぁ…」
「言われないとわからないかもしれないよ」
やっぱり見てないんだ。
「あのさ、健二がいつも使ってる仕事用のメモリー、あるでしょ?こう、なんかこれくらいの、パソコンに刺して使うヤツ」
「あぁ、フラッシュメモリー?」
「それ!最近、一個増えてなかった?」
「え?」
「いや、気づかなかったけど…」
結局、この日、あの赤いフラッシュメモリーの行方はわからなかった。
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