リクエスト作品です!リクエストありがとうございました☺️☺️
ダンエビの撮影。
出演者もスタッフも総勢何十人、にぎやかで熱気にあふれている。
今日の撮影は、エビダンメンバーが海周辺でなにか体験するVTRをみて、それにちゃちゃ入れる、みたいな撮影らしい。
海の壮大なVTRがモニターに映る。
深い青。急に切り立つ崖のような海底。
海底なのか空なのか、分からなくなる距離感。
波音がスタジオのスピーカーからリアルに響く。
その瞬間、仁人の呼吸が少し浅くなるのを感じた勇斗。
視界がうっすらと揺れ、遠くの音が遠くじゃなくなる。
キラキラした照明も、観覧席のざわめきも、
一気に全部近づいてくるみたいで息ができない。
「仁人、おまえ大丈夫?」
隣の席の勇斗が小声で囁く。
返事が遅れてしまうほど、動揺していたようだった。
「…あー、ちょっと気持ち悪い」
勇斗の表情が一瞬で冗談じゃなくなる。
スタッフに気づいてもらえるように、でも騒ぎにならないように静かに手を挙げ、
カメラが切り替わるタイミングを見計らって
勇斗が仁人の腕をゆっくり支えながら席をたつ。
「ごめんなさい、仁人海怖くて気持ち悪くなっちゃって、一旦抜けます。すみません」
控えめな声だけど、きっぱりとしたトーン。
スタッフも理解してうなずき、2人はスタジオを抜けた。
楽屋に入るなり、仁人はソファに腰を下ろして辛そうに俯く。
楽屋の外からスタッフさんが救護スタッフを呼ぶ声が聞こえる。
勇斗が楽屋の外の様子を見に行こうと、少し立ち上がると仁人が勇斗の手首を掴む。
「……ごめん、」
直接「行かないで」とは言わないものの、どこにも行って欲しくない感じが滲み出ていてちょっと可愛いし、何よりも言わなくてもわかってくれるだろうって信頼してくれているのがわかって嬉しい。
「ここにいるよ、大丈夫だかんな。」
救護スタッフが来ると簡易的な薬と水を渡された。
仁人は震える指で薬を飲み込み、深く息を吸った。
沈黙の中、仁人の呼吸だけが小さく響く。
まだ波の記憶が脳裏に残ってるみたいだ。
勇斗はそっと背中に手を添え、一定のリズムでトントンと叩く。
仁人の喉がひくっと動く。
飲み込めなかった空気が逆流するみたいに、胸の奥がざわつく。
「っ……げほっ……」
声にならないようなえずき。
勇斗の手がぴたりと止まって、すぐにまた優しいリズムで背中を撫で始める。
「おい、仁人、大丈夫?吐いてもいいかんな」
仁人は必死に頷くけど、
顔色は一段と悪くなっていて、
目の焦点が合ってない。
薬は飲んだばかりだからまだ効いていないっぱい。
焦りだけが積み重なる。
また喉が波を思い出したみたいに締まり、
くぐもった声が漏れる。
「……っ、う、あ……やば……」
堪えようとしてるのか、口を一生懸命閉じている仁人。
勇斗の胸がぎゅっと痛む。
「仁人、呼吸ゆっくりな、俺見て」
勇斗が正面にしゃがみ込んで、
目線を合わせるように促す。
仁人は涙が滲んだような赤い目で
勇斗を見た。けど焦点が定まらない。
苦しさと不安と羞恥と、
全部がぐちゃぐちゃに混ざった顔。
「はやと……ごめ、っ……ほんと……やばい……」
途中でまた喉が詰まって、えずく。
反射だから止めようがない。
だけど声にするたび罪悪感が混ざってるのがわかる。
時間がゆっくり流れる。
少しして薬が効き始めたのだろうか、吐き気が少し良くなって気がする。
それでも仁人の顔色はまだ悪い。
「……やばい。まじでやばいわ。ほんとごめん、こうなると思わなかった」
仁人の声は弱くて、申し訳なさが滲んでて。
その度に勇斗の胸が締めつけられる。
「こっちおいで仁人」
勇斗はゆっくり腕を伸ばし、
仁人の肩をそっと引き寄せた。
最初、仁人は少し戸惑ったけど
力が抜けて、勇斗の胸に額を預ける形になる。
苦しい間の呼吸。
誰にも見られないところでだけ、勇斗の前でだけ見せる弱さ。
勇斗はもう片方の手で
仁人の後頭部に触れて、軽く髪を撫でた。
「ここにいるよ、大丈夫、大丈夫」
声を潜めて、耳元だけに届く音量で。
仁人は必死に耐えながらも、その声に反応するように、
勇斗の服を弱く握った。
「ごめん」
「ごめんじゃなくていい。
今は、しんどいってだけ言っとけばいい」
背中をトントン。呼吸の音。弱い力で握られる服。
外の賑やかな世界から切り離された静かな空間で、二人きりの空気だけが温度を持っていた。
コメント
2件
ま、まさか私のリクエストだったりしますかね!! 海洋恐怖症、その発想は私にはなかったです!! じんちゃんの佐野さんにしか見せないそして佐野さんに言葉に出さなくても伝わるだろという信頼!全て素敵すぎます✨ リクエストして良かったと思いました!