テラーノベル
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場がシンと静まりかえり、尊さんと怜香さんが微かに息を荒げる音が響く。
「法の裁きを受けろ」
最後に尊さんは低い声で言ってから、大股に部屋の出入り口に向かった。
ドアを開けると、外には男女数人がいる。
「お願いします」
尊さんが言ったあと、その人たちが室内に入ってきた。
「な……、何、何なの!!」
ヒステリックに叫ぶ怜香さんは、彼らに気圧されて後ずさる。
が、怜香さんが逃げようとするより前に、五十代ほどのがっしりとした体型の男性が彼女の腕を掴んだ。
「篠宮怜香さんですね。署まで同行願います」
男性は怜香さんに警察手帳を見せた。
「残る方々にも事情をお聞きしたいと思っています」
補佐らしい男性が声を掛け、亘さんと観念したらしい伊形社長が立ちあがった。
「篠宮尊さん、篠宮風磨さんにもあとで事情をお聞きします」
最後に女性刑事が兄弟に言ったあと、刑事たちと三人は出ていった。
「尊さん……」
部屋が静かになったあと、私は立ち上がり、尊さんに駆け寄る。
その時には彼の顔色は蒼白になっていて、額に脂汗を浮かべていた。
「大丈夫!?」
声を掛けた私に向かって、尊さんは小さく首を横に振る。
「尊、救急車を呼ぶか?」
風磨さんが声を掛けたけれど、彼はまた首を左右に振り、出入り口を指さした。
「……すまない。今日はもう帰ってくれるか?」
震える声で言ったあと、彼は我慢しきれなかったのか、大股に歩き出し洗面所に向かった。
「尊さん……っ」
私は小走りに彼を追いかけていく。
「行こう。あとは朱里さんに任せる」
風磨さんが言い、エミリさんと春日さんと一緒に部屋を出ていった。
尊さんは洗面所に入ったかと思うと、便器の蓋を開けて嘔吐する。
いつも悠然としていた彼が、ずっとしまい込んでいたトラウマを引きずり出され、体を震わせてすべてを吐き出そうとしている。
(……私が支えるんだ)
深呼吸した私は、スイートルームのキッチンに向かって冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを二本持ってくる。
それからティッシュボックスを彼の横に置いた。
嘔吐した時に必要な物をなぜ知ってるかって、以前にもこういう場面に遭遇した事があったからだ。
必要な物を用意したあと、私は腕時計と指輪を外し、腕まくりをして手を洗う。
「尊さん、全部吐けますか? お手伝いしましょうか?」
彼の口の中に指を入れるのも辞さない覚悟で言ったけれど、その頃には吐ききっていたようだった。
「…………悪い……」
彼は涙でグシャグシャになった顔で謝り、ティッシュで洟をかみ、うがいをしてから水を飲む。
吐瀉物を流したあとだったけれど、まだ嘔吐感があるなら、すべて吐いてしまったほうがいい。
「大丈夫。全部吐いていいんですよ」
私は尊さんの髪を撫で、微笑みかける。
そんな私の顔を見て、彼はクシャリと表情を歪めると、また新たな涙を流した。
「っ…………すまない……っ、――――すまないっ、〝あかり〟!!」
震えて謝罪する尊さんを見て、すべてを察した私は静かに涙を流した。
そして可哀想な彼を抱き締める。
「……〝あかり〟さんって、お姉さんですか? 妹さん?」
尊さんは身じろぎして私の腕を振り払おうとしたけれど、そんな事させない。私はさらに力を込めて、ギュッと彼を抱き締める。
「教えてください。本当のあなたを知りたいんです」
私たちは洗面所の壁にもたれ、床に座り込む。
尊さんの冷え切った手を握っていると、やがて彼がかすれた声で言った。
「……妹だ。歳はお前と同じ。生きていたら二十六歳だ。…………死んだのは、四歳」
それを聞き、胸の奥を冷たい手で握られたような感覚に陥った。
――酷い。
同時に、そんな幼子まで殺そうと思った、怜香さんへの怒りがこみ上げる。
コメント
3件
尊さん.... 最後までよく頑張ったね😢 偉かったよ....😭 今はただ、愛する朱里ちゃんちゃんと寄り添い、癒してもらってね🍀
↓うん…私もそう思う…
あかりちゃん。 生きていたら美人さんだったでしょうね。。。😭