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ソファに下ろされたあとも、
距離はほとんど変わらないまま。
近い。
呼吸が触れそうなくらいに。
「……今のはちょっと効いたかも」
そう言ったエリオットの顔は、まだ少し赤い。
なのに――
そのまま、ふっと笑う。
「でもさ」
指が、またネクタイにかかる。
今度は迷いがない。
くい、と引く。
「終わりじゃないよね?」
「……お前な」
チャンスが低く呟く。
でもエリオットは離さない。
むしろ、さっきより強く引き寄せる。
「ほら、“紳士さん”」
わざとらしく呼ぶ。
「まだ続きでしょ?」
距離がさらに縮まる。
チャンスの視線が、ほんの一瞬だけ揺れる。
「離せ」
「やだ」
即答。
笑っているのに、指はしっかり絡めたまま。
「これ、俺のだし」
「違ぇよ」
「今は俺が持ってる」
軽く首を傾ける。
「だから、返してほしいなら――」
そこで、わざと止める。
チャンスの目が細くなる。
「……何だ」
「どうするの?」
完全に煽り。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
チャンスが一歩踏み込む。
「っ、」
エリオットが息を呑む間もなく、
そのまま距離を詰めて――
耳元に触れる。
かすめるくらいの距離で、
柔らかく、軽く――キス。
「……っ!」
エリオットの肩がびくっと揺れる。
指の力が、一瞬だけ緩む。
その隙に、ネクタイがするりと抜ける。
チャンスはそれを掴んで、軽く振る。
「取り返した」
低く、少しだけ笑う声。
エリオットは耳を押さえたまま固まっている。
「……今の、ずるくない?」
「勝負だろ」
「そうだけど……」
顔がさっきより赤い。
完全に不意打ち。
チャンスはその様子を見て、少しだけ目を細める。
それから――
するり、と自分のネクタイを外した。
「え?」
エリオットが顔を上げる。
次の瞬間。
そのネクタイが、手首に触れる。
「ちょ、なに――」
抵抗する前に、くるりと巻かれる。
きつくはない。
でも、簡単には外せない程度に。
片手、もう片方の手首へ。
軽くまとめられる。
「……っ、ちょっと待って」
「さっき言ったろ」
チャンスはそのまま、結び目を整える。
「“姫扱い”するって」
「それとこれ関係ある?」
「ある」
短く言い切る。
エリオットの手首を軽く引いて、距離を詰める。
逃げ場が、またなくなる。
「囚われの姫君ってやつだ」
低く、静かな声。
エリオットは一瞬だけ言葉を失って――
それから、ゆっくり息を吐く。
「……はは」
小さく笑う。
さっきまでの照れが、少しだけ残ったまま。
でも、目はまだ負けてない。
「いいじゃん」
手首を軽く動かす。
ネクタイがきしむ。
「似合う?」
「似合いすぎだ」
即答。
エリオットは少しだけ視線を逸らして――
また戻す。
「でもさ」
ゆっくり、距離を詰める。
逃げられないはずなのに、自分から。
「それで終わり?」
挑発の声。
チャンスの眉がわずかに動く。
「……何がだ」
「“姫扱い”」
にやっと笑う。
「まだ足りなくない?」
沈黙。
空気が、また濃くなる。
チャンスは一瞬だけ目を細めて――
「……ほんと、懲りねぇな」
低く呟く。
そのまま、結ばれた手首を軽く引き寄せる。
「じゃあ、最後まで付き合えよ」