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#異世界ファンタジー
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ふ、と目が覚めた。
昨日までの、煩わしいほど眩しかった晴天はどこにもなかった。
どんよりと、鉛色の雲が空を厚く覆っている。
優羽は、少し重い頭を押さえながら、ゆっくりと上体を起こした。
きょろきょろと辺りを見回すが、誰も見当たらない。
もしかしたら……イズナは仕事中で、ジャックは森にいるのかもしれない。
優羽は、地面に手をついて立ち上がった。少しふらつく。
曇りの日……いつもの偏頭痛だ。
なんだか落ち着かなくて、周辺をうろうろしてみる。昨日まで賑やかだったのに、静かすぎた。
その時……木の影から、話し声がした。
「変わんないね、ほんと」
「今も昔と一緒。……ずーっと、泣き虫のまんまだね」
「ッ……」
優羽は、は、と息をのんで口を両手で塞いだ。
ライルが、泣き虫?
ダメだ。聞いちゃダメな、気がする。分かっているけど……。
見つからないように、息を殺す。そうしながらも、優羽の視線はその先に釘付けだった。
「あれ、何も言えないの?」
「……黙れ」
「ふふ、だって……泣きそうな顔してるじゃん」
ライルの息が、ひゅ、と詰まった。
優羽からは、木の幹が邪魔でライルの表情が見えない。
拳が、強く握りしめられていることだけが、映った。
ここからでは、声も聞こえにくい。
……好奇心が、優羽の体を無意識に動かした。
────ガサッ。
「っ!!」
落ち葉を踏み締めた音が、早朝の澄んだ空気に、大きく響いた。
「あれ、盗み聞き?」
「……優羽、っ」
ライルの視線が、こちらに向く。
目が、合った。優羽を見て目を見開いたその表情が……なんというか、泣きそうだった。
目頭がほんの少し赤みを帯びていて、肩が小さく震えていて。
優羽の心臓が、どきりと跳ねた。
こんな表情、するんだ。いつも軽くて、笑ってるライルが。
そして……ライルの前に立った影が振り返った。
ライルと似た黒いローブに、大きな鎌。肩にかかってさらりと揺れる白髪。
口元は薄く弧を描き、穏やかに微笑んでいる。
けれど、その真っ黒な瞳は冷え切っていた。
背筋が冷える感覚がする。
「泣き虫のお友達?」
「……ッ、その呼び方、やめろよ」
ライルが、彼を睨む。
だが、彼は「怖い顔しないでよ」と微笑むだけだった。
「バイバイ。久々に会えて嬉しかったよ」
「また来るね」
彼は、そう言ってにこりと笑った。
口元だけが笑っていて、どこか不気味だった。
彼がローブを翻し、歩いていく。数秒先で、ふっと姿が見えなくなった。
「……っ、ライル……」
優羽は、彼がいなくなった瞬間に、ライルに駆け寄った。
ライルの肩が、小さく跳ねる。
それから、息を吐いて俯きがちだった視線を上げた。
「……あははっ」
「そんな顔すんなって、優羽。俺は大丈夫だからさ」
ライルが、にっと笑った。
優羽が目を見開く。いつものライルだ。
……いつもの。
「あ……ご、ごめん!盗み聞き、するつもりじゃなかったんだけど……」
優羽が、誤魔化すように笑った。無理をしてるような、少し眉が下がった笑顔。
どんな顔をすればいいのか、分からなかった。
今の優羽には、見なかったフリをするしかなかった。
「あれ、優羽くん。おはよう!」
「イズナ……!おはよう」
イズナの明るい声に、優羽はほっと胸を撫で下ろした。
張り詰めていた空気が、少し緩む。
「あれ……何かあった?」
イズナが問う。勘が鋭い。
なんもない、とライルが答える。イズナは深く追求する気はないのか、それ以上は何も言わなかった。
ジャックが森から帰ってきて、神社で朝食を食べる。
天気が悪いからか……いや、ライルの口数が珍しく少ないからか。
今日はやけに静かな朝食だった。
「優羽くん」
「……」
「おーい、優羽くん?」
「えっ……あ、何?」
イズナの2回目の呼びかけに、優羽が顔を上げた。
ライルのことが気になって、ぼーっとしていた。
「どうしたの?なんか心ここに在らず、って感じ」
「ごめんっ!天気悪いから、なんかぼんやりして」
そう言って、優羽が笑った。「そう?」と、イズナはまだ信じていない様子。
ジャックも、黙って優羽を見つめていた。
ぽつ、ぽつ、ぽつ────。
雨が当たる音がして、優羽が空を見上げた。
神社に張っている結界が、雨を弾いている。
「なんだか……嫌な天気」
イズナが、小さく眉を寄せた。その時、ジャックがいきなり立ち上がった。
「ジャック?」
「何か来……」
バリィンッ────!!
ジャックが言い終える前に、結界が割れる甲高い音が響いた。
雨を防いでいた結界が壊れ、水滴が顔に落ちた。
イズナの目が見開かれる。ライルも立ち上がって、大鎌を手に取った。
「はははァ!!いいねェ、流石はオレの愛息だ!」
「はーぁ?それ、自分がやったんですけどー?」
「五月蝿い。無駄な言い争いをするな……壊したのは俺だ」
「はいはい、負けず嫌い達は黙っててね〜」
「そうだよ。誰が壊しても、変わらないんだからさ」
優羽達の背後から、数人の足音が聞こえてきた。
優羽が振り返る。一人、二人、三人……全部で、五人。
その中に……さっきの死神も、いた。
優羽が、思わずライルの表情を伺う。その表情は、やっぱり少し強張っているように見えた。
「ライル、この人達って……」
「……優羽」
「え?」
「下がって」
ドゴォンッ────
息つく暇もなく、視界が大きく揺れた。地面が、粉々に割れる。
「くっ……」
ライルは、片手で優羽を庇いながら後ろに下がった。
その瞬間。
────ヒュン!!
何かが、空を割いた。
「イズナ、右!!」
「……分かってるっ!!」
イズナが体を捻る。一本の矢が、地面に突き刺さった。
二本、三本と矢が追撃する。
どんどん、イズナとの距離が離れる。
優羽が前を向くと、少し遠くから、弓矢を持った影がこちらを狙っていた。
「だる〜……はやく終わってくんないかな」
その直後、攻撃が一斉に襲いかかってきた。
「……遅い」
優羽には、目で追えなかった。
バキバキと、木が倒れていく音と共に、さっきまで斜め後ろにいたジャックが……吹き飛ぶ。
「ッ……!!」
「ジャック……っ、あ!!」
遠くで、大きな音。そして……近くでイズナの悲鳴。
「よそ見しないでよー、狐ちゃん♡」
間延びした声が、イズナの背後から届く。
別方向からの攻撃。イズナが、結界を展開する。
透明な壁が、攻撃を弾き返す……が、イズナの足元が崩れた。
黒い影が伸びて、イズナを覆う。
「イズナ!!」
「ッ、優羽くん、来ちゃダメ!!」
震える足で、駆け寄ろうとする優羽。それを止めるように、イズナが手を伸ばした。
「ボクが食い止めるからっ」
「でも────」
「優羽、離れろ!」
ライルの声と同時に、優羽の視界が真っ白に染まった。
爆発音。
ほぼ耳元でそれが聞こえて、全身に衝撃が走る。
それを最後に、優羽の意識は手綱を手放した。
優羽が意識を戻したのは、その数分後だった。
「う……っ、痛」
キーン、と耳鳴りがする。足元がもつれてふらついた。
はっきりしない意識のまま、優羽は周りを見渡す。
ライルの姿が……見当たらない。イズナも、ジャックも。
「少し、痛かったかな?」
正面から、声が降ってくる。優羽は、勢いよく顔を上げた。
目が合う。
スーツ姿に、黒髪。見覚えのある赤い瞳が、優羽を射抜いた。
「なんで、僕、生きて……」
委員会の襲撃。この人を見て、優羽は彼らの目的を悟った。
「簡単だよ。君のことは……殺さず、生かせと命令したからね」
「っ、僕の、ことは?じゃあ、ライル達は?」
『殺さず生かせ』
その言葉に、安堵する自分と胸がザワザワする自分がいた。
優羽の言葉を聞いて、彼の瞳がすっと細められた。
それから、にこりと笑って。
「それは、私の幹部達次第だよ」
優羽の顔から、血の気が引いた。容赦なく襲いかかって来た5つの影。
あれが……夜神玲の幹部だったのだ。
雨で服が濡れて、冷たい。
「彼……ライルって言うんだね。いい名前だ」
「君がつけてあげたのかな?」
「……うん」
こんな状況で、この人は何を言っているんだろう。
優羽の頭は、周りの大きな音にばかり集中していた。
先程から、衝撃音や何かを弾く音、木が次々と倒れる音が聞こえている。
「……彼らが心配かな?」
体が後ろを向こうとする優羽に、彼は無表情で言った。
「っ、……」
優羽は、振り向いて走り出した。
どくどくと心臓が暴れている。委員長の瞳。怖い。何をされるか分からない……けれど。
ライルを。イズナを、ジャックを探せ。
動かないと、何も始まらない──。
しかし……優羽は、そこで恐ろしい光景を目にした。
大量のモンスター。あの、黒いモンスターが……草原にごろごろといた。
足がすくむ。優羽には、このモンスター一体すら太刀打ちできない。
ガキィン──────!!
金属同士のぶつかり合う音。その方向に振り返る。
「ライル……!」
そこでは、大鎌同士がぶつかり合っていた。今朝の死神が、ライルと正面衝突していた。
「強くなったんだね、泣き虫のくせに」
「ッ……二人がかりで来て、よく言えるな」
彼らの言葉が耳に届き、優羽は視線を巡らせた。ライルの真横から、大きな影。
頭に……ボルト?
「お前がオレの愛息を殺ったらしいからねェ!こいつのお友達だとしても、容赦しないさァ!!」
白衣を着たミイラ男……彼が、興奮気味な早口で話す。
ボルトが頭に刺さった、モンスター。あの姿を、優羽は忘れていなかった。
ジャックと出会ったあの時、ライルが倒した奴だ。
優羽が動揺していると、ミイラ男がこちらに気がついた。
「あれェ?君が期待の新星くんじゃないかァ」
「見ただろ?オレの愛息……フランケンシュタイン!!」
「ッ、!!」
優羽は、近づいてくるミイラ男から逃げるように後退っていく。
男は、それを見て下卑た笑いをした。
「優羽ッ!!」
ライルがこちらに気がついて、大声で呼ぶ。
白髪の死神も、きょとんとこちらを見た。
「あぁ、また君?」
光のない黒瞳に見据えられる。
優羽が口を開こうとした、その瞬間────大きな影が落ちた。
「っ──!!」
足がすくむ。目の前に、太い腕。
フランケンシュタイン。
それは、一瞬の出来事だった。
ゴン──という鈍い音がしてライルの体がふらついた。
「……え?」
目の前に立つ死神を見て、優羽が絶句する。
そして……立て続けに、嫌な音がした。
肉を貫く、嫌な音。
ズサッ……と、それが引き抜かれる。
ライルの顔が、苦痛に歪む。血が出る程唇を噛み締め……声を抑える。
しかし、体がそれを許さなかった。
「は、は、ッ……げほ、ッ……」
湿った咳。口元を押さえた掌から血が溢れた。
「……ッ」
ライル?
声が出ない。何が起こったのか、優羽理解できていなかった。
ザアアアア────。
雨が打ちつける音が、激しくなった。
その沈黙に、嫌気が差すほどよく響く。
「ッ、げほ、げほ……ッ!!」
ライルがまた咳き込んで、地面に手をついた。
がくり、と膝が折れる。
「ら、ライルッ……!!」
やっと声が出て、優羽は一歩前に出た。
「人間は攻撃しちゃダメと言われたんだがなァ、まさか庇ってくれるなんて!!」
ミイラ男が、横で愉快そうに笑った。
「……」
白髪の死神が、無表情でライルを見下ろす。
「……変わったね」
その言葉に、ライルは腹を押さえながら見上げた。
脂汗が滲み、黒髪が頬に張り付く。息が浅い。
「何、が……ッ」
「変わったよ」
彼は、ライルの質問には答えない。その代わり……す、と口角を持ち上げて言った。
「でも……その結果死ぬなんて、ほんと皮肉。哀れだなぁ、ライル」
……死ぬ?その言葉を聞いて、崖から突き落とされたかのような気分になった。
すっかり飽きた様子のミイラ男が、背を向けて去っていく。その後ろを大人しく着いていくフランケンシュタイン。
それから、白髪の死神もくるりと背を向けた。
優羽のすくんでいた足が、ようやく動き出す。
震える足で、膝をつくライルに駆け寄った。
「ライル、しっかり!!」
「優羽……無事で、よかった」
ライルが、力なく笑った。余裕なんて無いくせに、へらりとしている。
「あはは、!!そんな、顔すんなって」
「無理だよ、ッ!!ライル、もう喋っちゃ駄目。傷……!!」
優羽が、ぼろぼろと涙を溢しながら捲し立てた。
怖い。大切な仲間が、目の前で血を流していることが。
死ぬなんて、嘘だ。喋らなければ。ちゃんと、応急処置をすればきっと。
「ライル、ッ……」
優羽の表情を見て、ライルの胸がズキリと痛んだ。
そっと、優羽の頰に手を伸ばして涙を拭う。
優羽の頰に、血の跡がついた。
「あー……やっぱいいなぁ、この名前」
びく、と優羽の肩が震える。
ライルが微笑んだ。細められた瞳が、宝物に触れるように、優しくて。
「嬉しかったんだ、俺。君が名前を付けてくれたこと」
ライルの、深い紫色の瞳が揺れた。
そして……さっきまで浅かった呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。
「そんなこと、言わないで……っ!!まだ、たくさん呼ぶよ、!!」
優羽の叫びに……答えは返ってこなかった。
その、瞬間────。
ぐにゃり、と視界が歪んだ。目が回る。気持ち悪い。
優羽は、思わず地面に手をついた。
「優羽!!」
「ライルくんっ……!!」
遠くから聞こえた声は、優羽には届かなかった。
視界がチカチカと光って、虹色のノイズがチラついた。
心臓が暴れている。体がおかしい。
なんだか、眠、い────
「っ、……」
意識が、だんだんと覚醒してきた。
太陽の眩しさを感じて、手のひらで目元を覆った。
ゆっくりと手を下しながら、空を見上げる。
……あの時の天気とは、全く違うな。
優羽のぼんやりとした脳が、そう呟いた。
あの表情を、あの声を思い出して。優羽の頭が、ズキズキと痛んだ。
イズナと、ジャックは……
……その時。
「グルルルル……」
「ア゛ァァァ……」
「……え?」
優羽が、ばっと立ち上がる。そして、振り返った。黒いモンスターが、優羽に襲いかかってくる。
どこかで……この状況、なかったか。
ここに来たばかりの時。あの時は、怖くて振り返らず、とにかく走っていた。
モンスター達が襲ってくる、さらにその後ろ。
優羽が、目を見開いた。
大きな鎌。黒いローブが翻る後ろ姿────。
「……!!」
優羽は、思わず駆け出した。
「ライルッ!!」
コメント
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ごめん一気にハート押したから通知やばいかも😭😭😭 まじで毎回話面白すぎる🫵🫵🫵🫵💖💖💖💖💖💖書くの上手すぎ… 戦闘すきすぎる💥💥💥💥💥💥💥💥💥💥💥💥🤦♀️🤦♀️🤦♀️
自分じゃ出来ないほどすごいものを書いている...まじでコメント書いて申し訳ありません
うおぉ…!!戦闘書けるのマジで天才っ!!! どんどん傷ついていっちゃうのとか、自分の無力感とかを書くのがうますぎる…!ファンタジーさも増々だしね!! セリフも、解釈一致(?)すぎる!物語の移り変わりのテンポは流石としか言いようがない👍️ てかライルくん癖すぎるし気になりすぎる…((( 続き楽しみにするねー!!