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「おいで、恵ちゃん」
サッと体を流した涼さんは、濡れた髪を掻き上げて妖艶に笑う。
(うう……)
こういう雰囲気に慣れていない私は、頭を低くして、けれど涼さんの局部を見ないように顔を逸らし、両手で顔を隠しながらそちらに進む。
「逮捕された犯人じゃないんだから」
涼さんはクスクス笑い、「ゴール」と言って私を抱き留める。
「さて、洗うよ」
そう言って彼が見覚えのあるボトルを手にしたので、私は「ん?」となる。
ジョー・マローンのライムバジル&マンダリンのボディソープは涼さんが自宅で使っている物で、一緒にお風呂に入った時は私もそれで洗われる。
「ホテルのアメニティ、違う奴じゃありませんでした? ……っていうか、ホテルにボトル……?」
分からなくなって首を傾げると、彼はなんて事のないように言う。
「いつもの匂いのほうが安心するだろうから、新品をホテルに届けるように頼んでおいたんだ」
「いつもの匂いって……、犬猫じゃないんですから……」
そう言いながらも、ちょっと安心している自分がいる。
涼さんは気分によって香水を変えるタイプで、夜にしっとりと飲む時はメゾン・マルジェラのレプリカ、ジャズクラブをつけるけれど、仕事とかでシャッキリいきたい時は、ジョー・マローンのライムバジル&マンダリンなど、柑橘系のスッキリした香りを選ぶんだそうだ。
他にも家でゆっくり寛ぎたい時とか、スポーツをする時、ショッピングをする時など、気持ちを上げるために使い分けているとか。
私は涼さんに沢山の香水をプレゼントされて、いまだ何が好きなのか分からないままだ。
でも彼と一緒に暮らすうちに、「この系統は好きかも」というのが分かってきている。
あまり甘い匂いは好きじゃないかもしれないけど、涼さんがつけていると不思議と嫌じゃない。
多分、彼の体臭も相まって、自分にとって心地いい香りになっているんだと思う。
「洗うよ、恵ちゃん」
十分に私を濡らした涼さんは、こちらもまた用意してもらったらしい、泡立てネットでボディソープを泡立てると、パフッと胸にホイップクリームみたいな泡をつけてきた。
「何してるんですか」
「男の夢、泡ビキニ」
「豆腐の角に頭ぶつけてください」
「死ぬ時は、恵ちゃんに蹴られて死にたいな」
「恋人を馬にしないでください」
そう突っ込むと、ギュッと抱き締められた。
「わっ……、ど、どうしたんですか」
「恵ちゃんが俺の事を〝恋人〟って言ってくれるたびに、胸がギュッとなる」
「……乙女か……」
「恵ちゃん、可愛すぎて有罪です。俺の家に禁固百年」
「もー……、涼さん、頭いい人のはずですよね? なんでそんなに残念な感じになるんですか」
「恵ちゃん、可愛い」
「オウムか」
「恵ちゃんのためなら、テンポ180で求愛ダンス踊るよ」
「ちょ……っ、もぉ、もおおお……、むふっふふふふ……」
涼さんは泡のついた手でヌルヌルと私の肌を撫で、洗ってるんだからセクハラしてるんだか分からない。
おまけにテンポ180での求愛ダンスを彼が踊ってるのを想像して、ツボってしまった。
「待って……っ、笑う……っ」
「はい、笑顔いただきました~。腕上げて」
「んっふふふふふ……」
笑い始めたら意外と長い私は、涼さんに洗われながら笑い続ける。
「恵ちゃん、俺の事も洗ってよ」
「えー、しょうがないですね」
私は彼がさっき使っていた泡立てネットにボディソープを塗りつけ、クシュクシュしてから泡を扱き取り、その手を涼さんの胸元に当てた。
「はい、男の夢。泡ビキニしたかったんですよね?」
「ちがう……」
涼さんは笑い崩れたあと、私を抱き締めて体をヌルヌル擦りつけてきた。
「や……っ、やだ……っ、なんかこれ……っ、変なアレみたい」
「んー? 変なアレって?」
彼は私の言いたい事を分かっているくせに、わざと言わせようとする。
「泡の王国!」
「あはははは! じゃあ、俺は国王になろうかな。恵ちゃん王妃ね」
涼さんは笑いながら私の背中も洗い、ついでと言わんばかりにお尻をニュ……と掴んでくる。