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「ははは、ねぇ? どうだったんだろ。ま、こんだけ生きてるしね。結婚するんだって思ってた人もいたけど、なかなかねー」
「そっか、そりゃいましたよね、相手くらい」
言いながら木下は少し汗ばんでいた髪をかき上げ、背中を壁に預けた。
「その相手を逃したあとは、まぁ、あれよ。こんな女のとこには誰もこなくてね、独り身を楽しんで生きるてるわけ」
(……楽しんでるっていうのは、つよがりだけどね、今は)
言葉にまとめてみると、ありきたりすぎる理由。これが自分のこれまでの人生かと思うと何だか虚しい。
ほのりは少し冷えてきた足先をきゅっと丸めた。
「吉川さん美人やし、気づいてへんだけで多分付き合いたい男いっぱいおった思いますけど」
「ないない、私男運ないの」
間髪入れずにほのりが否定すれば、木下は目を見開く。
「そうなんすか?」
「うん、最初に付き合ってた人は随分前に別れたけどね。浮気されてその後すぐ相手妊娠させて結婚しちゃったし」
「うお、妊娠させたってか……」
「その後ちょいちょい出会った人には貢いで終わっちゃった感じでさ」
「貢ぐ!?」
木下がこちらに身を乗り出してきたので、ついつい距離をとってしまったなら「あ、すいません」と短く謝罪の言葉。
彼のことだからすぐに何かしら反応が返ってくるかと思いきや、謝られたきり沈黙が訪れてしまったではないか。
(……あ、なんか会話はずしてるわ)
返答に困る内容だったと少し反省する。
質問されたからと言って、正直に話す必要などどこにもないというのに。
「やー、そういやさ、ほら! 私って歳食ってるからお金ありそうに見える?」
「え? どうっすかね、別に、金のあるなしはわかりませんけど。年齢……は、どうなんでしょうね? 見る人によるんか分かりませんけど、僕は、綺麗やなって見てますけど」
(んんん……)
胸がときめいてしまったことを隠したくて変な唸り声が漏れ出そうになった。
慌てて、自虐ネタ的な笑いに持って行こうと発言したはずなのだけれど、そうはいかなかったようで。
今度はほのりが返答に困ってしまう。
(そうゆうとこだよ! 木下くん! この子そのうち誤解した自称彼女な女の子たちに刺されでもしないか心配だわ)
彼は本当に相手を気分良くさせる言葉選びが抜群にうまい。
乗せられてしまわないよう、ここは歳上らしく聞かなかったことにして対応する。
「……あるように、見られてたみたいでね」
「あ、金がっすか?」
「そうそう」
綺麗だ綺麗じゃないだの話題が流れて安心したほのりは、ホッと一息だ。あんなボロが出てしまいそうな空気は遠慮したい。