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#王子
宮殿に向かう馬車の揺れに身を任せながら
私の心臓は未だかつてないほどの速さで鼓動を刻んでいた。
窓の外を流れる景色が、徐々に庶民の活気ある街並みから、高くそびえ立つ白亜の城壁へと変わっていく。
鉄製の巨大な正門を馬車が通り抜けた瞬間
私は自分の置かれた状況の重大さに、改めて目眩がしそうになった。
(本当に……本当にお城に来ちゃった……!)
馬車が止まり、扉が開かれる。そこに広がっていた光景に、私は思わず息を呑んだ。
馬車が巨大な白亜の正門を潜り抜けた瞬間、空気の密度が変わった。
整然と立ち並ぶ騎士たちが一斉に槍を立て、ガシャン、と鉄の音が響く。
私はそのあまりの威圧感に、馬車の座席の端で小さく身を縮めた。
馬車が止まり、扉が開かれる。
そこに待ち構えていたのは、執事長どころではない、帝国の屋台骨を支える重鎮たちだった。
「陛下───ッ! よくぞ……よくぞご無事で……!!」
真っ先に声を上げたのは、燃えるような赤い髪を逆立てた、鎧姿の巨漢だ。
彼こそが皇帝の盾、近衛騎士団長。
その隣には、冷徹そうな銀縁眼鏡を指で押し上げる
理知的な風貌の男性が氷のような無表情で立っていた。
アイゼン様が悠然と馬車を降りる。
私はその後ろから、震える足取りで地面に降り立った。
「騒ぎすぎだ、カイル。少し街の様子を見ていただけだ」
「少しではありません! 護衛を振り切り姿を消されてから三時間! 我ら近衛騎士団、全員が極刑を覚悟いたしました!」
団長が咆哮に近い声を上げた直後、その鋭い視線が私を捉えた。
「……陛下。その後ろにいる、薄汚れた小娘は……何者です」
「ひっ……!」
団長が腰の剣に手をかけた。
周囲の騎士たちの殺気が一斉に私に突き刺さり、あまりの恐怖に心臓が止まりそうになる。
けれど、その刃が抜かれるよりも早く、アイゼン様が私の前に立ちはだかった。
「カイル、やめろ。彼女は俺の命の恩人だ」
「……恩人、とおっしゃいましたか?」
今度は、隣で沈黙を守っていた宰相が口を開いた。
彼の冷ややかな眼差しが、鑑定するように私の全身をなめる。
「左様。路地裏で意識を失っていた俺を救ったのは、このノエルだ。彼女の力によって、長年俺を苛んでいた魔力の暴走と痛みが……今は完全に凪いでいる」
その言葉に、団長と宰相の顔色が劇的に変わった。
二人は顔を見合わせ、信じられないものを見るように私を凝視する。
「まさか……。大陸中の名医や聖女を呼んでも、一分たりとも鎮まらなかった陛下の呪いが……?」
宰相が、動揺を見せて私に歩み寄った。
彼は私の手を執り、その魔力の残滓を確かめるように見つめる。
「……ノエル、と言ったか。貴女が陛下に何をしたのか、詳しく聞かせてもらいたい」
私は震える声で、自分の中に宿る「癒やし」の力について説明した。