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疲労を和らげ、心を静めるだけの実家では役立たずと蔑まれていた小さな力であることを。
話し終えると、先程まで殺気を放っていたカイル団長が、突然その場に膝をついた。
「ノエル殿……! 疑ってしまい、申し訳なかった! 貴女は、我ら騎士団が守るべき主君を救ってくださった! この恩、一生忘れない!」
「へっ!? や、やめてください、頭を上げてください!」
さらに、冷静だったはずの宰相が、私の両手をがっしりと握りしめた。
その瞳には、執念にも似た光が宿っている。
「……ノエル様。貴女はまだ、ご自分の価値を理解していないようだ。陛下の不眠症は、強大すぎる魔力が脳を焼き続けているために起こる、国家存亡に関わる重大事なのです」
宰相は、アイゼン様を一瞥してから、私に向かって深く頭を下げた。
「お願いだ。この宮殿に留まり……陛下の『添い寝係』となってはいただけないだろうか。陛下の不眠症が改善するまででいい、その力で陛下を安らぎへ導いてほしい」
「そ、添い寝…!? 皇帝陛下と、ですか……!?」
あまりの言葉に、頭が真っ白になる。
隣では団長までもが
「頼む! この通りだ!」と地面に額を擦り付けんばかりの勢いだ。
「タダでとは言いません。皇帝の妻として嫁ぐ代わりに貴女を公爵令嬢に匹敵する待遇で迎え、一生遊んで暮らせるだけの報酬を約束しましょう」
ハルトマン宰相の提示した条件は、私のような「出来損ない」にはあまりに過分なものだった。
でも、それ以上に私の心を動かしたのは、アイゼン様の「無理を言うな、困っているだろ」という静止だった。
彼は黙って私を見つめていた。
そこには「皇帝」としての威厳ではなく
ただ一人の人間として、安らかな眠りを切望する切実な色が混じっていた。
「……私でお力になれるなら、お易い御用ですが…アイゼン様はいいのですか…?」
「ああ、頼む」
アイゼン様の低い声が、ストンと胸に落ちた。
実家でゴミのように扱われてきた私の力が、ここでは、この人のためには、何よりも必要なものだと言ってもらえた。
「……わかりました。私にできることなら、精一杯務めさせていただきます!」
私の答えを聞いた瞬間、周囲の騎士たちから、安堵の溜息と静かな歓喜の声が漏れた。
アイゼン様は、私を見据えて言った。
「感謝する、ノエル」
こうして私は、彼らの必死の懇願と、自らの意思によって
皇帝アイゼン様の妻、もとい「添い寝係」として
この険しい運命の渦中へ足を踏み入れることになった。
私の背後で、宮殿の荘厳な扉が重々しく閉まる音がする。
それはまるで、私の平凡な日常が完全に断ち切られた合図のようで、胸の奥がじんわりとする。
しかし同時に、私を必要とする誰かがここにいるという確かな温もりが
凍えた心を少しずつ溶かしていくのを感じていた。
#王子