「クルル…現実逃避してる暇なんてないよ?」
「え、」
後ろを振り向くと獣の姿をした魔物が無数にいた。
コウモリのような翼に鋭い爪。
こんなのに勝てるはずもないと俺は震えた。
が、先生は違った。
「クルル。ボツリヌストキシンA。」
「は?!」
先生がとんでもないことを言い放つ。
ボツリヌストキシンAとは
1gで1,000万人以上の命を奪うことも可能な毒素だ。
「そ、そんなの…何処に…」
「お前の真横。瓶があるだろ。丁度1g。」
「…これですか。」
「そうだ。くれ。」
先生がマスクを被る。
俺も先生にボツリヌストキシンAを渡し
マスクを被った。ペストマスクのない
サーフィーにはガスマスクだ。
カポッ…
先生が蓋を開ける。
その瞬間魔物が苦しみ始めた。
「ボツリヌストキシンAは
弛緩性麻痺(筋力を低下させること)を特徴としている。」
「魔物は毒に弱いから、すぐに倒れる。」
先生が瓶の蓋を閉める。
サーフィーは端で震えたままだ。
俺はというと、魔物に近づいて
少しつついたりしていた。
「柔かいですね。鱗はないのですか?」
「ない。人と変わらぬ。」
「ふぅん。」
「(体を)開くか?」
「開きたいですけど
サーフィーは大丈夫なのですか?」
サーフィーに目をやるとサーフィーが頷いた。
「兄ちゃんの手術はよく見てたから大丈夫。」
「けど、解体してどうするの?」
サーフィーが先生に向かって言う。
先生は少し考えて言った。
「何度も解体して体の構造も分かっている。」
「だが魔物の病について調べたい。」
俺はこのとき思った
『あぁ…この人は魔物を治療しようとしているんだな』と。
「なるほどね〜。俺は結果をメモしとくよ。」
「助かる。」
サーフィーがカルテのようなものを取り出す。
そう。本格的に魔物の病を調べるのだ。
「電気メス」
「はい」
俺が電気メスを渡すと
いつも通りすぐには切らなかった。
「どうしたんですか?」
「いや…」
「この魔物の体の構造…初めてだ。」
よく見てみると腫れた顔に剥き出しになった骨。
六本の手に真っ黒の肌だ。
「…まぁいい。開腹。」
先生が素早く魔物の腹を切る。
それから皮膚を開き臓物を丸出しにした。
「メモメモ…」
サーフィーがそれを絵にしてメモをした。
人や動物と似ていて心臓もあれば肺もあった。
だが腎臓の形は歪で蛹(サナギ)のような形をしている。
血の色は紫に近い赤色だ。その中であるものが目にとまる。
「先生…これって子宮じゃないですか?」
魔物の腹の部分に動く袋のようなものがあった。
それを先生はメスでゆっくりと開く。
「これは__」
空気が静まった。
袋の中には順調に成長している胎児が居たのだ。
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