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人間界に戻り、日菜たちとコノハは自分の家に帰った。その翌日。
「トト、ララ、おはよう……」
眠たい目をこすり、一緒に寝ていた双子に挨拶する日菜。
「日菜ちゃん、おはよう。よく眠れた?」
「うん。あれ、トトは?」
珍しくトトがまだ起きてきていない。いつもなら誰よりも早起きのトト、日菜たちは’少しだけ違和感を覚えた。
「兄ちゃんまだ眠ってるみたい。よっぽど疲れてたのかも」
「そうだね。私も迷惑かけちゃったし、寝かせてあげようよ」
数時間後。
「あれ、まだトト寝てるの?」
「うん……なんか揺すっても起きなくてさ」
その日、トトは夜になっても目を覚まさなかった。身体に異常は見られない、呼吸もしっかりしていた。しかし、二日三日経ってもトトは起きなかった。
「絶対におかしいよ。ララ、なんか心当たりない?」
「僕も考えてはいるんだけど、全然わからなくて……」
ララが治癒魔法をかけるが、反応はない。その後も色々試してみるララだったが、全く効果はなかった。
「どうしよう、このままトトが起きないなんてことになったら……」
「うーん……。コノハにも手伝ってもらおうか……」
ララは心乃葉の家に転移、事情を話した。
「それは心配だね……。分かった、今すぐ行くよ」
他の人間にバレないようにこっそり二人で日菜の家に転移。
「やっほー、日菜。元気?」
「うわ! びっくりしたあ。やっぱりいきなりは心臓に悪いよ」
「ごめん日菜ちゃん。外に転移すればよかったね」
ララは軽く反省。それより、心乃葉にトトの様子を見てもらうことに。
「ずっとこんな感じなの?」
「うん、何しても起きなくて、僕たちも打つ手がなくなっちゃったんだ」
「私のせいかな……私が迷惑かけちゃって、それで起きるのが嫌になっちゃったとか……」
日菜は涙目になっている。そんな日菜の頭を撫でる心乃葉。
「大丈夫。日菜のせいじゃないよ」
「そうそう。兄ちゃんがそんなことでふてくされるわけないもん。心配し過ぎだよ」
「う、うん、そっか……」
妖精界から情報を得られない、医者に見せることもできない。死んだように眠り続けるトトに、三人は静かに目を向ける。
「少し、気晴らしに外に行こうか」
心乃葉の提案で日菜の家の近くの森に出かけることに。ララがトトをおぶって転移した。
「ここがもう一つの妖精界への入り口……」
心乃葉はまじまじと木の幹に開いた穴を見ていた。ここに入れば簡単に妖精界に行けるが、今行けば危険にさらされてしまう。城の地下に避難している女王たちは大丈夫かと、思いをはせる心乃葉。
「この森みたいにきれいな妖精界があんな姿になってるなんて、想像もつかないよ。兄ちゃんもこんなになっちゃって、僕どうしたらわからないよ……」
ララは膝の上にトトの頭を乗せ、額をなぞり、ため息をつく。
「人間界もわからないって、女王様が言ってた……」
日菜も不安でいっぱいだった。もし怪物たちが人間界に攻めてきたとしたら、太刀打ちできるだけの力が今の日菜には当然ない。だからこそ誰よりも不安に駆られていた。
「トト、なんか夢でも見てるのかな」
心乃葉がトトの顔をのぞき込む。その顔は少し歪んでいるように見える。
「うなされてるのかな、兄ちゃん、苦しそう」
「さっきはそんな様子なかったのに、トト、大丈夫?」
無駄なことだとわかっていても、日菜はトトに声を掛ける。トトの額に触れると、少しだけ熱を帯びていた。
「もしかして悪化してる?」
心乃葉は症状を見て何かを思い出しそうになっていた。しかし、なかなか思い出せない。
「とりあえずお家に戻ろう。兄ちゃん、大丈夫だからね」
再び日菜の家へと転移する。ララはトトをベッドに寝かせ、布団を掛けた。
「私、これ知ってるかも」
心乃葉は思い出した。何が原因でトトが眠り続けているのか、ようやく分かったのだ。
「コノハ姉ちゃん、どうしたの?」
「トトの目を覚ますことができるかもしれない」
日菜の問いかけに、心乃葉は一つ一つ説明を始めた。
「ここは、どこだ?」
トトは暗闇を歩いていた。
「おーい、誰かいないのか?」
呼びかけても声がこだまするだけだった。どことなく、悪魔の森に似ている。
「昨日、妖精界から戻ってきて、眠りについて、それから……」
トトはどうしてこんな場所にいるのかわからなかった。寝るまでのことは鮮明に覚えているが、そこからの記憶がなく、今がいつで何時なのか、体内時計でも見当がつかなかった。
「分かんねえ、とりあえず進むか」
目的もなく、出口も見つからない。毒性は感じられないが、精神が少しずつやられていくような気持ち悪さがトトを襲う。
「本当、誰もいない」
「……と」
トトの頭上から何か聞こえる。
「なんだ?」
「……と……ぶ」
ノイズのようなものでよく聞こえない。しばらくしてその音は聞こえなくなった。
「はあ、なんか疲れたなあ」
徐々に体が熱くなっていくのを感じるトト。歩くのさえやめてしまった。
「俺、このままなのか……? ララやコノハ、日菜ちゃんは……」
悪い思考が頭をぐるぐるする。次第にその思考にももやがかかる。トトは上手く考えがまとまらなくなっていた。
「お母様……」
寝そべりながら母のことを思い出す。こんなことならもっと甘えておけばよかったと、トトは後悔する。
「君、どうしたの?」
何者かが突然、トトに話しかけた。その姿はトトにそっくりだ。
「お前、誰だ? また俺の偽物、なのか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。僕も不思議だよ、同じ姿の人がいるなんて」
悪魔の森であったドッペルゲンガーとは違う。偽物とも本物とも、断言しなかった。
「俺はトトだ。前にも同じようなことがあったんだ。ということは、ここは悪魔の森なのか?」
「奇遇だね。僕もトトっていう名前なんだ。ここは、何というか、森ではないかな」
「ああ、そりゃ奇遇だ。俺今動けねえんだよ、体がだるくて、熱くてさ……」
トトはもう意識がなくなりそうになっていた。それを見下ろすもう一人のトト。
「今寝ないほうがいいよ。嫌な予感がするんだ。僕まで消えてしまいそうな、そんな予感がするんだ」
「なん、だ、それ。お前は俺、じゃない。まあ、忠告は受け取る、か……」
歯を食いしばり立ち上がるトト。改めて自分と似た存在と向き合う。少しずつ乱れた息を整え、静かに口を開いた。
「少しだけ楽になったような気がするぜ。ありがとよ」
「いやいや、僕は何も。君は、ここで何をしてるの?」
それはいくら考えてもわからなかった。トトも知らぬ間に、こんな場所に迷い込んでいたのだから。
「特に何もしてないさ。お前こそ、何してるんだよ」
「僕は仲間を探してたんだ。まあ、見つけたのはそっくりさんだったけどね」
相手はトトとは違い、お気楽に話をしている。トトを傷つけるような素振りもない。
「俺はここから抜け出したい。お前、出口を知ってるか?」
「残念ながら僕が入ってきた場所は閉じてしまったよ。もちろん、僕の意志じゃ開けられない。僕は逃げてきちゃったから、もう開けてもらえないんだ」
しょんぼりと相手は悲しげに話す。トトは疑問に思う。これは自分の分身ではないのか、自分の姿に酷似しているということは何か意味があるのではないかと。
「お前、本当に俺のこと知らないのか? ちなみに俺はお前を知らない」
「君は僕に似ている気がするよ。ああ、見た目の話じゃなくて、性格の話。だから、知っているかと言われれば知っているのかもしれないね」
尚更何者なのか分からなくなった。ドッペルゲンガーとはまた違う不気味さがあった。
「逃げてきたって言っていたが、お前は帰るつもりないのか」
「帰りたくても帰れないかな。でもそれでいいんだ、僕が決めた道だから」
「そうか、俺は何が何でも帰らせてもらう。出口を見つけるの手伝ってくれねえか?」
「もちろんいいよ。今の君なら帰りを望んでいる人がいると思うからね」
トトとその存在は共に出口を見つけるため歩き出した。
「魔力消失症候群?」
日菜が心乃葉から聞いた病名をそのまま繰り返す。ララはその病名に少しだけ聞き覚えがあった。
「それってもしかして……」
「アカデミーで習ったの。魔力が枯渇した状態、それと貧血が重なると起こる病気。眠り続けて、魔力が回復することはなく、最終的に衰弱死してしまう」
この病気は非常に恐ろしく、治癒魔法で魔力を外から供給するのは不可能で、魔力がなければ血液も体内で生成できないため、徐々に衰弱していくのだ。
「じゃあ、このままだとトトは……」
恐ろしいことに気づいた日菜。このままだと残酷な未来が待っている。
「一刻も早く薬を調合しないと大変なことになる。でも、もちろん薬は妖精界にあるし……」
「どうしようもないってこと? そんな、兄ちゃん……」
転移で妖精界と人間界は行き来できない。妖精界にあるものを人間界に魔法で持ってくることもできない。できるのは妖精界内、人間界内での転移、転送で、いくら魔法といえど、次元や世界を超えては使えない。
「私たちはザーラにマークされてると思うし、今妖精界がどんなことになっているのかわからない」
「僕と兄ちゃんは人間界に何かあった時に対処しなくちゃならない。僕もむやみに妖精界へは行けないよ」
何かにうなされている様子のトト。熱はさっきよりひどくなっていた。
「でも、トトがいつまでもつか分からないよ! もしかしたら明日急に死んじゃうかも……」
日菜は心配で不安でたまらなかった。この病気は人によって耐えられる期間がバラバラで、その人の魔力残量、血液、耐久力によって左右されてしまうため、トトの体の中がどんな状態なのか分からない今は刻一刻と争う状況なのだ。
「兄ちゃん、やっぱりあの時、無理してたんだよね」
「ザーラと戦った時、かなり魔力を消費してたみたいだし」
ララと心乃葉は前回の戦いを振り返る。トトに任せすぎてしまった、後悔しても遅いのだが、トトは昔からそうやって全てを背負う癖がある。
「トト、ごめんね。私のせいでアジトまで助けに来ることになっちゃって。もう心配かけないように、迷惑かけないようにするから、目を覚ましてよ」
日菜の必死の言葉はトトに届かない。どんどん悪化していく症状に、どうすることもできない三人。ララはトトの手を握り、日菜は抱きつき、心乃葉は頭を悩ませていた。
「なんかさっきより体が熱い……」
「大丈夫? 僕はなんともないんだけどなあ」
トトは少しだけ回復したものの、相変わらず体はだるく、熱も下がらない。歩幅は少しずつ狭まり、速度も落ちていく。相手のほうに変化はない。
「お前はいいな、望んでここに来たやつはペナルティ無しってか」
「うーん、そうでもないかも。別にいい気分ではないから」
相手の正体も分からずじまいだ。トトの頭の片隅にはあのドッペルゲンガーが浮かび上がっているが、あの偽物よりはマシだと思いながら足を進める。
「う、頭が痛い、これ本当に出口あんのかよ。ああ、イライラしてきた」
「まあまあ、ゆっくり進もうよ。君も具合が良くないし、余計に悪化しちゃうよ」
「うるせえよ、俺が何したっていうんだ。ここから出せよ……!」
地面か床かもわからないものを拳で殴る。辺り一面暗闇、壁すらも見つからない。トトの額からは冷や汗が滴り落ちる。
「お、落ち着いて。本当に辛そうだよ。さあ、僕につかまって」
「どうして、どうして俺に構うんだ」
「言ったでしょ、僕は仲間を探しに来たんだ。それに、僕のそっくりさんを見捨ててどこかには行けないだろう?」
「ああ、お気楽な奴だ。人の心配なんてしたって、そんなこと知るかっていつも裏切られるんだ。俺の気持ちは振り回されてばかりだよ」
トトは優しい。それゆえに言い過ぎてしまったり、怒鳴ってしまったり、気持ちとは裏腹に言葉がきつくなってしまう。その気持ちを理解してもらうことが、少し困難なのだ。
「僕にはわかるよ。君の気持ちが痛いほどわかる。でも、心配しちゃうから仕方ないよね」
「俺、未来を聞いたことがあるんだ。森でさ、『絶望と葛藤、そして『欲』のためにした選択に苦しめられる』だって、お前、心当たりあるか?」
「うん、そのせいで僕はここにいる。君は怯えているね、そんなのでたらめかもしれないのに」
「確かにな。でも、俺はそう思えなかったんだ。お前と俺は、同じ道を辿るのかもな」
不安に駆られたトトは、相手に思いをぶちまける。そして、再び共に歩き出す。
「君の未来は、君にしか決められないよ」
「そうだと、いいんだけどな」
暗闇の中で似た者同士は出口を探し続けるのだった。