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そう、お前宛に書留が届いてるぞ」


昼過ぎに仕事に使う道具を取りに一旦会社に戻ってきたそうは、いつになく重い表情をした公宣きみのぶからA4サイズ相当の封筒を手渡された。


差出人を見ると『御庄みしょう偉央いお』からで。


(思ったより時間かかったな)

と思ってしまったそうだ。


偉央いおは電話では「すぐに送ります」と言っていたけれど、実際のところなかなか踏ん切りがつかなかったのかも知れない。


ショッピングモールでそう偉央いおからの着信を受けてから、実に半月近くが経過していた。



その間、結葉ゆいはは立ち位置が宙ぶらりんのまま。


そうは、そんなある種の膠着こうちゃく状態に、内心ヤキモキさせられていた。


結葉ゆいはも一見普段通りに過ごしているように見えたけれど、きっと何も思わなかったわけじゃないはずだ。


相手からのリアクション待ちの期間というのは、実際の時間経過よりも長く感じられるものだし。



(さて、どうしたものか……)


公宣から渡された荷物の宛名は山波やまなみ建設内の山波想じぶんになっているけれど、中身はほぼ結葉ゆいは宛だろうと言うのは開封しなくても分かる。


そうは、果たして開けるべきか否かをしばし逡巡して。


迷いを吐き出すみたいに大きくふぅーっと吐息を落とすと〝開封しよう〟と心に決めた。


一度自分がサラリとでも中身を確認しておいた方が、結葉ゆいはに渡す時に心の準備が出来るな、と思ったから。



***



「社長、数分ばかり会議室をお借りします」


勤務中なので父子おやことはいえ言葉遣いには気をつけているそうだ。


その辺りをちゃんとしておかないと、なぁなぁになりそうでイヤだったから。


これは、そう山波やまなみ建設に就職すると決めた際、父親と取り決めたルールだった。



以前結葉ゆいはも交えて会議室で父親と対峙たいじした時、つい結葉ゆいはを守りたい一心でそこの辺りをないがしろにしてしまったのを苦々しく思い出したそうだ。


いつ如何なる時にも冷静さを失ってはいけないのに。


もしかしたら今後偉央いおと向かい合わねばならない時が来るかもしれない。


その時に備えて、感情のコントロールをもう少し上手くならねば、と思った。



***



そうが封書を手にしているのをチラリと確認した公宣は、「分かった」と一言だけ返すと、それ以上は何も言ってこなくて。


そんな父親の態度が、今は有難いなと思ったそうだ。


結葉ゆいは居候いそうろう生活を快く許してくれているとはいえ、本件に関しては彼女自身のプライベートな部分だ。


面倒を見てくれているからと言って、余りズケズケと入り込んで欲しくないというのがそうの勝手な思いだった。


(ま、これに関しちゃ俺自身も部外者なんだけどな)


何となく、結葉ゆいはへの個人的な想いが強すぎて、当事者みたいな気持ちになってしまいがちだけれど、時折自分の立ち位置をしっかり見つめ直しておかないとマズイことになりそうだな、と溜め息を落としたそうだ。



会議室の扉を閉めて念のために中から施錠すると、そうは手にした封書をじっと見つめた。



(小切手と離婚届……だよな、きっと)


もしかしたらそれプラス、結葉ゆいは宛の手紙があるかも知れない。


封書に書かれた美麗な文字を見て、そうはもう一度小さく吐息を落とした。



御庄みしょう偉央いおという男は、自分とは対極の位置にいるかのような人間だと言うのがそうの印象で。


そうは文字だってお世辞にも綺麗とは言えないし、何より偉央いおのようなインテリタイプでもない。



結葉ゆいははああいうタイプが好きなんだろうか。


ふとそんなことを思って、心の中にモヤモヤとした気持ちを覚えてしまったそうだ。


結葉ゆいは、お前、元々は俺のことが好きだったんじゃないのかよ。それが何であんな男と……)



などと、いま考えても仕方のないことを思ってしまって、フルフルと頭を振ると、一旦気持ちをクリアにする。



(馬鹿か、俺は)



いま成すべきことはそれじゃない。



そうは作業着のそでペン差しにいつも差して持ち歩いているカッターナイフを手に取ると、己の中の迷いを切り裂くみたいに封を切った。



***



「ただいまぁ〜」


夕方、いつも通り十九時しちじ頃にそうが帰宅してきて、結葉ゆいはは日課のようにそうを玄関先で出迎えた。


そうは弁当箱の入った小さな袋を手にして、左肩にいつも仕事に行く時に持って行っているリュックをかけていて。


作業服姿のそうは、いつ見ても男らしくてかっこいいな、と思ってしまった結葉ゆいはだ。


偉央いおは公私ともにキチッとスーツを着こなしていることが多かったけれど、そうは圧倒的に平日は作業着率が高い。


じゃあ休日はどうかというと、パーカーにジーンズ、みたいなラフなスタイルを好むみたいで。


スーツを着たそうが、結葉ゆいはには想像がつかないのだ。


そういう全てが何だか結葉ゆいはには逆に新鮮に感じられた。



***



「お疲れ様、そうちゃん」


言って、スッと手を差し出してそうの手からお弁当箱の入った袋を受け取ったら、今日も綺麗に完食してくれたのか、軽くて嬉しくなる。



「今日の卵焼き、いつもと違ってたな」


しみじみとそんな喜びに浸っていたら、不意に言われて、結葉ゆいははドキッとしてそうを見上げた。


「もしかして……美味しくなかった?」


不安に揺れる瞳でそうを見詰めたら「まさか! その逆! すっげぇ美味かった!」とニヤリとされて。


「なんか切り口が鮮やかでふた開けた瞬間、滅茶苦茶ワクワクしたんだけど」


子供みたいに笑うそうに、結葉ゆいははホッと胸を撫で下ろす。



「だし巻き卵にね、小さく刻んだカニカマと小ネギを入れてみたの」


イメージ的には「茶碗蒸しみたいなお味になったら良いなぁと思って作ったの」と続けたら「茶碗蒸し……」とそうが驚いた顔をする。


そうちゃん、茶碗蒸しが好きだって純子さんがおっしゃってたから」


言ったら「うん。すげぇ好き」とニカッとされた。


さすがにお弁当箱の中に茶碗蒸しを入れるわけにはいかなかったから、そんな感じの味が出せたらいいなと思って作った卵焼きだった。



「そういやその隣に入ってた鶏肉とり、柚子胡椒使った?」


そんな風味のする照り焼きチキンが入っていて、口に入れた時に広がった柚子の風味が堪らなく旨いと思ったそうだ。


「うん。柚子胡椒、冷蔵庫にあった小瓶を使わせていただいたの」


気に入ってくれたかな?と思いながらそうを見上げたら、彼はすぐに察してくれたみたいに「すっごい好みの味で食った瞬間驚いた」と微笑んでくれる。


「何となく弁当箱ん中から柚子の香りがするなぁとは思ってたけど、まさかそれが照り焼きからだとは思わなかったわぁ」と心底感心したように言ってくれたそうに、


「喜んでくれたなら良かった……」


ホッとして微笑んだら、「けど……」といきなりトーンを落とした声音でつぶやかれて、結葉ゆいはは思わず「えっ」と声を漏らす。


「でも……?」


(卵焼きと照り焼きは大丈夫だったけど、他に何かキライなものが入ってた、とか?)


そう思って、ゴクっと唾液を飲み込んで、続けられるそうからの言葉を待つ結葉ゆいはの顔を、そうが何故か心配そうに覗き込んでくる。


「俺のために無理とか……したりしてないか?」


いつもいつも「こんなものまで」とそうが驚くほど色んなおかずを入れてくれている結葉ゆいはに、そうは彼女を無理をさせているんじゃないかと心配になったと言って。


そんなそうに、ホッとした顔をして、

「無理なんて全然してないよ?」

結葉ゆいはは小首を傾げてみせる。


「実はね、ここ数日はせりちゃんと一緒に分担しておかず作ったりしてるの……」


冷凍庫に作り置きの手作り冷凍食品もあるのよ?と説明したら、そうは瞳を見開いて驚いて。



「マジですげぇな、結葉ゆいはせりも」


心底感心したように言われた結葉ゆいはは、「せりちゃんはお仕事しながらだから本当すごいと思う。――けど私は今のところずっと家にいるから全然すごくなんてない……」と吐息を落とした。


早く仕事を探さないといけないのに、何だか偉央いおとのことが解決しないことにはなかなか本腰を入れる気になれない……なんて言ったら、甘えていると叱られてしまうだろうか。



「早めに職安ハロワ、行かなきゃいけないんだけど……」


そうから預かった弁当の包みを無意識にギュッと握ってしまってから、慌てて力を緩めると、


「いつまでも山波家みなさんのご厚意に甘えてばっかりじゃ、ダメだもんね」


と一生懸命笑ったら「別にそんな無理して急ぐ必要ねぇだろ」とそっと頭を撫でられた。

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