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週の半ば、水曜日の夕方。
シェアハウスのリビングには、のんびりした空気が流れていた。
丈一郎が台所で晩ご飯の下準備を始め、
流星が「今日のおかずなに〜?」と顔をのぞかせている。
そんな中、和也は少し遅れて帰宅した。
和也:「ただいま〜」
真理亜:「おかえり、和也くん」
リビングから声をかけたのは――真理亜だった。
彼女はソファに座りながら、資料を閉じて和也を見た。
真理亜:「ちょっと、話せる?」
和也:「ん? ……ええよ」
真理亜は少し笑って、和也に隣に座るよう促した。
真理亜:「あなたの“恋がわからへん”って話、……前に、叔母さんから少しだけ聞いたの。自分で話すつもりなかった?」
和也は、肩をすくめた。
和也:「なんか、“恋しなあかん”って思ってたけど、ほんまは、自分がどんな感情持ってるんかも、ようわからんままで……誰にも言う勇気なかっただけ」
真理亜はしばらく黙ってから、そっと言った。
真理亜:「昔ね、私も似たような気持ちを抱えてたことがあるの」
和也の目が驚いたように動く。
真理亜:「私、記憶障害があるやん? 過去の“好き”とか“嫌い”も、曖昧で。“誰かに惹かれる”って感覚が、最初はわからへんかった。みんなが当たり前みたいに話す恋愛とか、どこか他人事やったんよ。でも、ふと思ったの。“名前のつかへん気持ち”も、否定せんでええんやって」
和也は、視線を落としながらゆっくりと言った。
和也:「……俺、“好かれる”ことはようある。でも、“返せへん自分”が、どこか申し訳なくなるねん。“この優しさが紛らわしいなら、もう誰にも近づかんほうがええんちゃうか”って」
真理亜:「優しいことと、好きになることは、イコールやない」
真理亜がまっすぐに言った。
真理亜:「和也くんが“誰かを特別に思えない”って、それは“足りない”やないよ。“違う”だけ」
その言葉に、和也の肩の力がふっと抜けた。
和也:「……ありがとう。ほんまに、そう言ってもらえると……ホッとする」
その夜、寝る前のリビング。
流星が急に聞いてきた。
流星:「なあ大橋くん。お前、誰のこと好きなん?」
突然の質問に、シェアハウスの空気がピンと張りつめる。
和也:「え、いきなり!?」大吾:「出た流星の直球!」
謙杜:「興味あるけど、聞く勇気なかったやつ〜!」
和也は、一瞬驚いた顔をしながらも、
ニッと笑ってこう返した。
和也:「……今のところ、“恋”って意味では、誰のことも好きちゃう。でも、大事な人はおる。いっぱいおるで」
その答えに、流星は少し間をおいてから、ふっと笑った。
流星:「そっか。なら、それでええやん」
丈一郎が「俺らは“家族”やからな」と言い、
謙杜が「お兄ちゃん的にはそれで正解!」と軽口を叩く。
その夜、和也はベッドの中で思った。
和也:(この気持ちは、名前がつかんでもええ。でも、それでも“誰かと一緒に笑いたい”って思えるなら――それはちゃんと、本物や)