テラーノベル
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静かにしてなきゃ。
「別に求めてないんだけど」
離れていなきゃ。
「よくあんなに触れるよね」
関わらないように、
「うるさいよねぇ」
迷惑にならないように、
「お節介っていうか、KYだよね」
目立たないように、
「ほんっとジャマ」
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
「そっちが…ッ」
「…朝、か」
気だるい体を起こして、カーテンを開ける。ムダに明るい外が、私のスイッチを無理やりオンにする。
そんな朝が、大嫌いだ。
「おはようございます」
「おはよー。早いねぇ」
部室に荷物を置いて、水筒だけ持って弓道場へ向かう。まだ私とモカ先輩しか着いておらず、的付けもされていなかった。
水を撒いて、ほうきで表面を整える。紐をピンと張って、的を置く。的を付けている間に何人か先輩達がやってきた。的の位置を確認してもらう。
この時間が大好きだ。私も弓道の中に入っているような気がして、嬉しいから。
「拝礼します」
2礼2拍手1礼。これが拝礼だ。武道では欠かせないものだと思う。
「じゃあ1年生はゴム弓もって家庭科室の前で。多緒は素引きね」
「はい」
昨日、1発でゴム弓を合格し、今日から素引きだ。
「足踏みの時は弓をこうやって…そうそう」
「お、おぉ…✨️」
「胴造りのときに膝の上に置いて…体が倒れてるよー」
「お、おぉ…?」
私のリアクションが面白かったのか、先輩は笑っていた。
「よし、じゃあやってみよう」
「はい」
足踏み・胴造り・弓構え・物見・打起し・大三・引き分け・会・離れ・残心・弓倒し
これが射法八節だ。弓道はとにかくこれの繰り返し。だがしかし、奥が深く、誰もこれを完璧の形でできる人はいないと言う。
「うん、うまいね。でもちょっと反り腰になってるかなぁ」
「あ、あぁ〜、忘れてました…」
「じゃあそれ意識して、で、手の内の親指が曲がるから伸ばして」
ゲン先輩から修正点を言われ、もう一度素引きをする。
「すごいねぇ多緒。一発で直っちゃう」
「えっへへぇ」
褒められて少し、いや、めちゃくちゃ嬉しくなる。そして調子に乗り、休憩しないで素引きをしていると、いつの間にか足がガチガチになっていた。
「ちょっと休憩しな〜」
「はーい」
レイ先輩にそう言われ、巻藁屋の端の方に座る。何人かの先輩と話しながら休憩できるから、退屈にならない。すると、木戸先輩がリト先輩に少し愚痴を言っていた。
「なんかあっちの1年生外周してるんだよね。たぶんあれサボってんだと思う」
「なんか最近そうだよなー」
他人事のように聞き流す。実際、他人事だから。私は外周なんて大嫌いだし、外周するなら筋トレしていた方がマシというぐらいだ。
たまに、レイ先輩に言われて外周することはあるけれど。
「1年外周禁止にしようかなー。練習しないくせにテスト受けたいとか言うし。おかしいよなー」
「多緒ぐらい真面目にやってほしいよね」
「私は…外周が嫌いなだけです」
「ははっ笑たしかに」
こういうとき、どうやって返せばいいのか分からない。だから、笑いが取れることしか言わない。っていうか言えない。
1年生の部活中の態度が悪いのは知っていた。実際、私も1年生だし、1番近くにいたからだ。それに加え、私はあの人たちとはタイプが合わない。ノリに乗れない。
この前、大会の時にカナ先輩たちとお昼ご飯を食べていた時に言われた。
「多緒ちゃん孤立してるよね。大丈夫?」
「やっぱタイプ違うよねー。私達も多緒ちゃん側だもん」
先輩たちにいらない心配をさせるのはよろしくないと思い、好きで一人でいると言った。本当に、あの人たちとは反りが合わないから一人でいる。
それでも、お互いの射型を見合う時はちゃんと会話する。そして、実際に触って直したりする。それがあの人たちにとっては気持ち悪いと感じるらしい。
「えっとー、1年で自主的に外周行く人がいると思うんですけど。サボりの口実で行ってるなら外周禁止にします」
部活終わりの挨拶の時、リト先輩がそう言った。私には関係ないことだけど、自分の事のように受け取ってしまうこの性格は、怒りしか生まなかった。
「1年生返事しな」
「はい」
外周していない私だけ、なぜか返事をした。
サボるという行為の意味がわからず、そのまま聞いた。
「サボる口実で外周してたん?」
部室の空気が少しピリッとした気がした。
「いや違うんだよ。ナミが足の手術したから」
手術という嫌なワードを聞き、反応してしまう。
「え、ナミ手術したん?」
「そうそう。だからそのリハビリ的な感じで」
いや、なんでナミに聞いたのにカノンが答えるんだよ。それに、そんなの部活中じゃなくてもできるじゃん。ナミの足を言い訳にしてるだけじゃん。
会話が成立しないことへの苛立ちに、つい言ってしまった。
「そんなんだからゴム弓受からないんだよ」
気づいた時にはもう遅かった。
「いやでもウチら多緒みたいに才能ないし」
もういいや。
「武道に才能もクソもない。武道に必要なのは努力とやる気だけ。お前らにはそのどちらも足りないの、自覚してる?してないよね。だって受かってないんだもん。サボってるんだもんね。私が一発でゴム弓受かったの才能だと思ってんの?そりゃおめでたい頭で心配になっちゃうよ。あんたらが喋ってる間もずっとゴム弓引いてた。先輩に質問して、要点をノートにまとめて、動画撮って比較研究して、誰よりも努力してるわけ。私の努力を才能っていう軽い言葉で潰すんじゃねぇよ」
最後に、これだけは言いたいと思って、でも、相手に伝わらないと意味が無いから。だから、深く深呼吸をして、前を向いた。
「弓道は武道だ。スポーツじゃない。そして私は弓道歴がアンタらと同じでも、武道歴は今年で10年になる。私はお前らとは違う」
なんとなく、その場の空気が気まづくなってその日は逃げた。
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