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麗太
【前回までのあらすじ】
魔神王の名前が絶妙でワロス。
◇◇◇
走る。足裏が焼ける。
「たつ……ッはしッ……辰夫ーッ、はしれぇえええええ!!」
私は全力で駆けながら、息も絶え絶えに叫んだ。
「ガハッ……わかっ……ガハッ……もっ、はやくぅうう!!」
辰夫も咳き込みながら必死に巨体を揺らす。
『──逃がさん。”生”は、我が糧なり』
瘴気の波が爆ぜ、奈落が反転した。
ズォオオオオオ!!
「うわぁぁぁ!」
地鳴り。肺が鳴る。
背後で洞窟が崩れ始める。
天井から岩が降り注ぎ、足元の地面が次々と割れていく。
「くそ! 崩ッ……ハァハァ、はやッ」
「サ……ガハッゼハッ……ラ殿! こ……ガハッ……ままでは!」
『追いつかれる!』
石を蹴る。壁に手をつく。
曲がり角を曲がり、崩れる通路を飛び越え、ひたすら前へ。
「あ……ッ、そこ!」
崩れた岩の向こうに、小さな隙間が見えた。
「ッこ、あそこ!! 隙間!! ハァッハァ……は! 入れぇ!?」
「狭ッ……ハァ、ですが──いけます!」
辰夫が素早く人型に変形する。
「ユズリ……ハァッ! 岩! 砕くよ!」
『任せて!』
ドガァァン!
籠手の一撃で岩が砕け、人が入れるくらいの穴が開いた。
「隠ッ、ハァハァ、ぞ!」
「は、はい!!」
『え!? 逃げないの!?』
「追い……ハァッ、で勝て……わけない!……コヒュッ、れて気配……消ッ!」
三人で、転がるように岩の隙間に滑り込む。
「ユズッ……ハァ、籠手、光……消して!」
『わかった!』
金色の文様が消える。真っ暗な岩の隙間。
「息を……ハァハァ……殺して……」
「……」
辰夫が呼吸を止める。
「硬質化する……」
──ギュゥンッ。
私の体が岩質化して完全静止した。
『サクちゃん!? あ! 私も籠手になりきる!』
ユズリハからクタっと力が抜けた。
「(※石の声で)私は岩。呼吸の概念を超えた存在」
『(※無機物的な声で)私は籠手。止まるとは、世界から切り離されること。だから今、私は最も自由』
「二人とも!? 哲学的にズルいですぞ!?」
カモフラージュできない辰夫は混乱したのか、
人型のまま、その場に正座し、小声でツッコんだ。
『「ツッコミうるせー! 空気読めよ竜王!!」』
「……二人とも……見つかりますぞ……」
辰夫の頬を伝う涙がキラリと光った。
*
──ズズン……ズズン……。
魔神王の足音が通路を通り過ぎる。
「(※石の声で)……通り過ぎた」
『(※無機物的な声で)……私は籠手…』
「…………」(※正座でガクブル)
ズズン……ズズン……。
魔神王の”何か”が通路を通り過ぎていく。
隙間から影だけが見える。巨大で、形が定まらない。
『──娘……どこだ……気配が消えたか……』
声が洞窟に響く。
その声は、世界の底から湧くみたいに重かった。
(やべ……探してる……)
私は息を殺した。
『……』
「……」
ユズリハも辰夫も、一筋の汗を流しながら固まっている。
ズズン……ズズン……。
足音が遠ざかっていく。
でも、まだ存在は消えない。奈落のどこかに、魔神王はいる。
──空気が重い。
(……魔神王の名前、テラ=ワロス……)
肩が、小さく震えた。
「……テラ……ワロス……様」(※ボソッ)
「……ぇ?サクラ殿、なにを?」(※正座で超小声)
『サク……ちゃん!?』(※超小声で私を二度見)
「……ンッ」(※必死に堪える)
「……くッ」(※正座してる肩が震える)
『……ッふ』(※籠手がカタカタと震える)
「……ワロス……ッ……さま……」(※プルプル震えて涙)
「ンフッ……くっ……」(※正座してる体を丸めて悶える)
『……ちょ……やめ……んクッ』(※つられて涙目)
「わ、笑い……こ、堪え……てるッ……」(※涙ボロボロ、肩が震えている)
「ブホッ……グッ……キッ……!」(※正座してうずくまりプルプル)
『わ、私も……ワロス、様……ッ』(※籠手から水(涙)が出てる)
私たちの限界が近い。
絶対に音を立ててはいけない極限状態の中で、
笑いを殺したまま激しく震える。
──ズズン……。
魔神王の足音が、不意に近づいた。
「……ッ」(※正座した体を丸めて固まる。涙だけ流れている)
『……ッ』(※涙(水)を流したまま固まる)
──ズズン……ズズン……。
「ブホッ……!」(※運命の悪戯か、鼻水が出た)
(……)(※鼻水が揺れる)
(──終わった。みんなにまた会いたかった)
「……っぷぷぷ!!(サクラ殿!!)」
『……んふっふふふ!!(サクちゃん!!)』
──ズズン……
足音が、止まった。
鼻水はまだ揺れている。
──。
(いやぁああああああああ!?)
ズズン……。
足音が、ゆっくりと通り過ぎる。
(……せ!せせせせセーフ!!)
張り詰めていた何かが、ふっと緩んだ。
「……はぁ……」
体を起こした私の顔は、笑いすぎた涙でぐちゃぐちゃだった。
『なんで……こんな……』
「ワロス様、寛大であれ……」
辰夫が真顔で涙を拭く。
「……あの名前が悪い……」
しばらく私たちは、そのまま震えていた。
動けない。
(……長い……)
私は暗闇の中で思う。
(でも、ムダ様が言ってた……)
『待つってのは、相手に時間を使わせる攻撃だ。相手が探してる間、こっちは休んでる。休んでる方が有利。有利なら勝ち。つまり、じっとしてる奴が最強。』
(……最強……ざまぁ……)
『サクちゃん、なんか暗闇で自信満々な顔してる』
「私、今最強だから」
「え?なぜです?」
辰夫の目だけが私を見る。
「動いてない。ムダ様が言ってた、じっとしてる奴が最強だって」
「……それを今、実践してるんですか」
「そう」
「……なるほど」
辰夫が少しだけ納得していた。
『まったく理解できなかったんだけど』
ユズリハから力が抜けた。
*
「……ふぅ……」
私は小さく息を吐いた。
『やり過ごした……?』
「まだです……圧がまだ奈落のどこかに……」
「……しばらくここで待機。魔神王が別の場所に行ったら動く」
『でも……出口はどうやって……』
「知らん。とりあえず生き延びるのが先」
「……そうですな」
『そうね』
「焦って見つかるより、慎重に行く」
岩の隙間で、三人は息を潜めた。
外では瘴気が渦を巻いている。
魔神王の圧が、奈落全体に広がっていく。
(……やべぇな……本当にやべぇ……)
これまでの魔神族と桁が違う。
(……でも……諦めない……)
(エスト様に会いたい……みんなに会いたい……)
私は拳を握りしめた。
「……ハァ……絶対に、生き延びる……」
小さく呟いた声は、岩の隙間に吸い込まれていった。
外では、魔神王の存在がゆっくりと移動していく。
まだ、隠れていなければならない。
まだ、動けない。
でも──いつか、必ず。
(つづく)
◇おまけ◇
奈落の風が止まった。
音のない世界に、三人だけが残された。
誰も、すぐには口を開かなかった。
「……我、今回は投げられませんでしたな」
辰夫がゆっくりと口を開いた。
『そういえば!!』
ユズリハが凄い勢いで私を見た。
「あ、そうか……辰夫やユズリハ投げて逃げるのアリだね」
「ナイですぞ……シャレになりません」
『あぁッ悪魔が気付いた!?』
「ふはは……この状況でもその軽口、心強いですぞ」
「それにしてもさ? 魔神王の目、辰夫の気配は眼中に無かったみたいだね。ノーマルレアだからかな?」
『そうだね、ノーマルレアだからだね!』
──奈落の瘴気がゆっくりと流れだす。
「……ふはは……」
辰夫の頬を伝う涙がキラリと光った。
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:静止の暴力】──
『待つってのは、相手に時間を使わせる攻撃だ。
相手が探してる間、こっちは休んでる。
休んでる方が有利。有利なら勝ち。
つまり、じっとしてる奴が最強。
だから俺は動かない。
……GWだけど、友達も彼女も居ないし』
解説:
待つのは攻撃だ。
相手に時間を使わせる。
その間、こちらは回復してる。
だから動かない。
……GWは人多いし、会う奴いないし。呼ばれてないし。
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