テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#怪異
イキリ火の玉
946
「もういい、スマホを返せ」
しばらくして梶は手を伸ばしてそう言った。やはりスマホを持たせてもらえるほど甘くはなかった。
「俺は少し眠る。お前は好きにしていい」
梶は努を車から降ろすと鍵をかけた。思えば拉致されて初めての自由だ。だけどこんな状況で何をすればいいか分からなかった。
努はとりあえず集会所に戻った。しかし扉の前に長髪の木村がいて手でシッシと追い払われた。どうやら親分とミサが中でなにかやっているらしい。
パンチ頭の沢村と金髪リーゼントの島は村の奥に向かってブラブラと歩いていた。ちぃこがトンネルに向かっている姿が見えたけど巨漢の安田と一緒だったので声をかけるのを諦めた。
仕方なく村を散策してみることにした。時計も携帯電話もないので時間はわからなかったけどそろそろ正午というところだろう。
まだ春には早い時期なので田んぼは土色をしていたけど畑のほうは何か冬野菜を育てているようだった。
何かの作業をしている人はチラホラを見えたけど、そのほとんどがみすぼらしい格好をしている村人だった。こんな小さな村にも階級があるのかと思うと嫌な気持ちになった。
村人たちは努に気づいてもチラッと見るだけですぐに作業に戻った。自分が村人の立場だったら外のことを色々聞くのにと思いながら歩いていると、村の北側にある川に突き当たった。
川幅は目測で20メートルほど。流れは緩やかに見えるので泳いで渡れなくはなさそうだったけど、川の向こうにも森が広がっているので渡れたとしても森の妖怪がいるかもしれない。
いや、そもそも本当に妖怪がいるのかどうかも怪しいけど、この寒い時期に川を泳ぐのはどのみち気が進まなかった。
「おにーさん」
後ろから声をかけられて努は軽く悲鳴を上げて振り返った。そこには二人の若者、集会所で見た中学生くらいの男子がいた。
「アハハ、驚かせてごめん」
声を掛けた方が楽しそうに謝った。
「や、やあ」
努はぎこちなく挨拶をした。一人はまだあどけなさが顔に残っているが身長は高く大人の努とそれほど変わらない、短髪で真面目そうな好青年だ。
もう一人は肩までかかりそうな髪に華奢な体つき、唇がやけに赤い女の子みたいな少年だった。どうやら声をかけてきたのはこちらの少年らしく、ニコッと笑いながら努を見上げている。
二人とも農村らしくはあるがちゃんとした服を着ている。若者の少ない村にとっては選ばれた者なのだろう。
「えっとキミたちは……」
「ウチはホタル、こいつはセイジって名前だよ」
女の子っぽい少年ホタルは好青年のセイジに腕を絡ませて自己紹介をした。セイジのほうは真面目な顔のままでホタルを気にした様子はない。
「ホ、ホタル君にセイジ君ね。キミらは、あれ、同級生?」
この村に学校なんてあるはずないのに変なことを訊いてしまった。
「同級生?」
案の定ホタルは不思議そうな顔で訊き返してきた。
「あ、ごめん。二人は友達かな?」
「アハハ、友達だって」
ホタルはセイジを見上げて口元に手をあてて笑った。所作が一々女の子っぽい。
「この村に10代は僕ら二人しかいませんから」
セイジは笑顔もなくいかにも優等生っぽい口調で答えた。
「そっか、ははは、そうだよね」
年上の威厳を保とうとして努は少し不自然なしゃべりかたになっていた。
「ねえねえ、お兄さん、外のこと教えて欲しいな」
「あ、うん、いいよ。ははは」
どこか女の子っぽいホタルに見つめられて少し緊張していた。
「えっと、なにが聞きたい?」
「なんでも。はやっているものとか、この村にないものとか」
「うん、じゃあ……」
それから努は外のことを話した。この村にないもの。電車、電気、テレビ、電気、スマホ、パソコン、インターネット。次に歴史。戦国時代から太平洋戦争、そして戦後の発展などもかいつまんで話して二人の年代だと学校に通っている。学校はこういうものだと説明した。もちろんそれは努が知っている知識の範囲だけだ。
さらに流行り物を話した。歌やファッション、芸能人、アイドル、マンガやゲーム。
ホタルは何を話しても興味津々で聞いていて色々と質問もしてきた。セイジも興味深そうに聞いてはいたが口は挟まなかった。
コメント
1件
第14話読んだわ! ホタルとセイジ、この閉じた村で唯一の10代同士って設定がもう気になる…。ホタルの無邪気な感じとセイジの真面目そうなギャップ、そしてホタルの「友達だって」って笑い方が意味深でゾクッとしたわ。外の世界に憧れてる様子が伝わってきて、この先どう絡んでくるのかめっちゃ楽しみ! でも一方で、梶にスマホ返せって言われた直後にこの出会いって、何か計算されてる感もあるよね…。続きが気になりすぎる🔥