テラーノベル
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「……おい、佐藤。状況をもう一度言ってみろ」覆面パトカーのハンドルを握り潰さんばかりの力で握り締めながら、俺はハンズフリーのスピーカーに向かって低く吐き捨てた。
雨の降らない、四月の忌々しいほど晴れ渡った青空。
警視庁本部から城南署への移動中、現場に駆り出されていた佐藤から入ってきた第一報は、俺の血の凍り付くような内容だった。
『せ、先輩……! 〇〇大学のキャンパス内で……女子学生の飛び降り事件が発生しました!』
電話の向こうで、パトカーのサイレンと野次馬の狂乱した悲鳴が聞こえる。佐藤の声はガタガタと震えていた。
『それだけじゃないんです……! 現場に……現場に、入学式だった渚ちゃんがいて……!!』
「……なに?」
『渚ちゃんが、倒れた被害者を見た瞬間、過呼吸を起こして倒れ込みました……! それで……言ったんです! 「自殺じゃない、背中を押された。上に犯人がいる」って……!!』
「……ッ!!」
脳内で、何かがブチリと弾ける音がした。
三年だ。
あの忌々しい葛城のヤマが解決し、両親の真相を突き止めてから、渚のあの「力」は完全に消えていたはずだった。
苦しみに耐え続けたあの子が、ようやく手に入れた「普通の女子高生」としての平穏な三年間。
今日からは憧れのキャンパスで、普通のキャンパスライフを送るはずだった。
それなのに——なぜ今さら、また出やがった。
「……渚の容体は!?」
『今、大学の救護室に寝かせてます! でも、まだ全身の震えと吐き気が止まらなくて……! 「また声が聞こえる、頭の中に誰かが入ってくる」って、泣きながら……!』
「クソがッ!!」
俺は前方の信号が赤に変わるのと同時に、ダッシュボードから赤色灯を引っ張り出して天井に叩きつけた。サイレンを鳴らし、アクセルを床まで踏み込む。
「佐藤! 現場の講義棟を即座に封鎖しろ! 落ちてきた女子学生の直近にいた人間、特に屋上や上層階にいた奴らの身元を全員洗え!」
『は、はいッ!!』
「俺は10分で着く! それまで渚から目を離すな! 誰も渚に触れさせるなよ!!」
電話を叩き切ると、俺は煙草を咥える暇もなく、狂ったようにパトカーを走らせた。
頭の中を駆け巡るのは、激痛に耐えながら泥の上に倒れ込んでいた高校時代の渚の姿だ。
あの子がどれだけの思いをしてあの力を受け入れ、そしてどれほどの救いを感じてあの力を失ったか、俺と佐藤は誰よりも知っている。
「……なんでだよ……! なんでまた、あいつなんだ……!」
ハンドルを叩きつけながら、俺の腹の底で凶暴な怒りが跳ね上がった。
神だか霊だか知らねぇが、ようやっと手に入れたあいつの『普通』を奪い返しに来やがったのか。
19歳になったばかりの、これから幸せになるべき少女に、また死者のゲロ吐くような無念を背負わせようってのか。
「……冗談じゃねぇぞ」
現場の大学キャンパスが見えてきた。
大勢の学生たちが集まり、警察の黄色い規制線テープが張り巡らされた、血生臭い惨劇の現場。
パトカーをタイヤが悲鳴をあげる勢いで急停車させ、俺は車を飛び出した。
「渚……!!」
あいつの止まっていた時間が、また動き出してしまった。
なら、俺のやるべきことは一つだけだ。
犯人を引きずり降ろし、この最悪な悪夢を、もう一度俺たちの手で終わらせてやる。
俺は警察バッジを胸から引っ張り出し、駆け寄ってくる現場の捜査員どもを押し退けて、渚のいる救護室へと殴り込むように走った。
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コメント
1件
めっちゃ引き込まれました…!! 最初の電話のシーンから一気に現場の緊張感が伝わってきて、息するの忘れそうだった。 「お前の『普通』を奪い返しに来た」って台詞が、めちゃくちゃ胸に刺さる…。 渚ちゃんの苦しみがまた始まっちゃうのかと思うと切なすぎるけど、でも刑事として闘う覚悟がカッコよすぎて泣きそう。 「俺のやるべきことは一つだけだ」——この言葉、痺れました。 続き、絶対読みます。