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——その日、雨が降っていた。
ナイトレイブンカレッジの石畳を、
音もなく濡らす細やかな雨。
天から降り注ぐ無数のしずくは、
地上に落ちると弾けて消えていく。
その場所で、少女はひとり、眠っていた。
わずかに動く髪。伏せられたまつ毛。
名前はネリネ・フィセター。
自由奔放で、気まぐれで、
どこか夢と現の境に生きているような少女。
彼女の姿は、
まるで泡に包まれた夢の人魚のようだった。
「……またこんなところで寝ているんですね」
傘を差して近づいた青年の声に、
少女はまぶたをわずかに上げた。
声の主は、ジェイド・リーチ。
リーチ兄弟の片割れであり、オクタヴィネル寮の副寮長。
そして、ネリネにとっては——
「……じぇいど、うるさい……ボク、寝てるの」
「ええ、知っています。いつも通り、ですね」
「今日の雨、いい音してる。……だから寝たいの」
「……あなたという人は」
呆れたように笑いながらも、
ジェイドは彼女の隣に腰を下ろす。
ふたりの間に流れる空気は、
静かで、穏やかで、どこか懐かしい。
けれど、この平穏は永遠ではない。
少女の「泡」は、
やがて誰かの「魔法」によって壊される。
それが偶然なのか、運命なのかは、
まだ誰にもわからない。
——これは、泡に閉じ込められた少女と、
泡の外で手を伸ばす少年の、
やさしくて、少しだけ残酷な物語。