風鈴を揺らす熱風が、地面から陽炎を立ち上らせている。
歩みを進める太陽から逃れようと縁側を転がると、障子の角に頭をぶつけた。
「…………。」
無言で顔を顰める。
クスリ、と小さな影が揺れた。
「随分参ってらっしゃいますね。」
襟元を片手で煽ぎながら視線を動かす。
声の主は、何やら焦茶の木箱を抱えていた。
「何だそれ。」
日本がふふん、と得意げに古びた直方体を机に置く。
何が始まるのかと上体を起こすと、淡い水色のカラクリが現れた。
「冷たすぎて頭の痛くなる食べ物を作ります。魔法の道具ですよ。」
「ふぅん。」
ほんのり笑いながら、日本はその上部のフタをカパリと開き、コップの中に積まれた氷を入れ始めた。
窪みの中に皿が置かれ、細い指が側面のハンドルに触れる。
風が来るのかと思いきや、歯車の音と共に透明な破片が降り積もっていく。
変わった機械だと眺めていると、日本は仕事を終えたようだ。
ガラス皿の上で姿を変えた小ぶりな山が卓に置かれる。
「……俺もやってみていいか?」
日本はふんわりと目を細めた。
「えぇ、勿論。……じゃあ僕、お先にいただきますね。」
いそいそと横へ移動し、所在なさげに揺れる取っ手を掴む。
自分の手を介して氷が液体に近いものに戻されていく感覚が楽しく、頼んで大きな器に変えてもらった。
「ふふ、楽しいですか?」
「ん。」
サクリ、と日本の匙が氷をつつく。
細い喉が冷たさを嚥下し、小さく息を吐いた。
「……これ、知ってる気がする。」
不意に呟くと、一対の宝玉がこちらを見やる。
「甘いやつかけるんだろ。かき氷、だったか?昔親父が言ってた。」
「正解です。」
でも、といつもと色の違う唇がわずかに緩んだ。
「……ここまでは、知らないでしょう?」
ちろり、と差し出された小さな舌。
水氷とシロップの冷たさが残っているのか、しっとりと光っていて、息を呑むほどやわらかそうだ。
暑さとも涼しさともつかない、全く別の情動が背を伝う。
真っ青でしょう、びっくりしましたか。なんて声が聞こえて、ようやく我に返った。
「ふふっ、ロシアさんの目の色みたいですね。」
お揃いだ、とくすぐったそうに日本が笑う。
無邪気な声に本能を抑止されながら、どうにもできず肩を抱く。
ふわりと押し返されるようなやわらかさ。
こちらを見上げる瞳が一瞬震えて、甘えるように閉じられた。
ふっ、と力の抜けた隙を縫い、口内の花弁に優しく触れる。
溶け残りの破片が音微かにを立てた。
お揃いだと評されたスカイブルーの甘さを感じ、舌の先が少し震える。
唇を離すと、息がすっと抜ける音がした。
見ると、日本の整った顔が熱でとろりと溶けている。
目の縁も、頬の上も、ほんのりと赤に染められていた。
「………確かに、冷たいな。」
少し茶化して笑うと、潤んだ瞳に軽く睨まれた。
自分の口元にそっと触れる。
舌の根に残った味は、夏が溶けても消えそうになかった。
(終)
コメント
2件
可愛い…可愛すぎるぞこの露日!!かき氷機に夢中になるロシアくん無邪気で可愛いし、舌ペロする日本くんあざとかわいい…別の色のシロップかけたかき氷食べて、キスしながら舌の色混ぜるとかして欲しいわ(欲望大爆発) こんな素敵な露日の生活が通年で見れるなんて最高ですねありがとうございます🙏😭