テラーノベル
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ゆっくり歩きながら、市を眺める。
宝石やアクセサリー、洋服に、食器など、商品は様々だ。
珍しい本も売っていて、シュメリが足を止めていた。
「食べ物屋もいっぱいあるな。ピザにサンドウィッチ、スープもある」
「僕、サンドウィッチが良い!」
サンドウィッチに挟まれた鶏肉が、とても美味しそうだ。
「バルトは?」
「同じでいい。あと、コーヒー」
「わかった。リンネとそこにいて」
シュメリがサクサク買い物してくれる。
貴族様なのに、こういう庶民の店にも慣れた様子だ。
「気取っているくせに、何のかんの面倒見が良い奴だよな」
バルトがシュメリを眺めながら褒めた。
面倒見は、確かに良いと思う。
捕まえた暗殺者に仕事を斡旋したり。
僕のことだって、とても大事にしてくれる。
「バルト!」
手にサンドウィッチとコーヒーを持って、シュメリが小走りに戻っていた。
バルトに、こしょこしょと耳打ちしている。
「リンネ、ここでサンドウィッチを食べて、待っていてくれるかい?」
「うん、わかった」
僕にサンドウィッチと飲物を渡すと、シュメリがバルトの手を引いて行った。
「どうしたんだろう」
二人の姿を見守りながら、僕は鶏肉のサンドウィッチにかぶりついた。
「んー! 美味しい」
シュメリの家の高級ご飯も美味しいけど、こういう庶民的な料理もいい。
「まるで、バルトが作ってくれたご飯みたい……あれ?」
また、頭の中に過去の記憶が浮かんだ。
バルトはよくスープを作ってくれた。
僕がお肉好きだから、必ずお肉を付けてくれた。
「一緒にご飯を食べて、一緒に寝てたんだ」
まるで親子みたいに一緒に暮らしていたんだ。
僕は、ぎゅっとシャツを握った。
「だから、……これが似合う」
シュメリの声が聞こえた。
猫耳をクリクリと動かして、キョロキョロと広い市を探す。
サンドウィッチ屋のすぐ隣の店で、シュメリとバルトが商品を見ながら話している。
「いや……なら、こっちの色が好き……」
「似合うのは……水色だろ」
「まぁ、悪くないか」
僕は、二人をぼんやり眺めた。
(何を、選んでいるんだろう……あ!)
小説の内容を思い出した。
買い物イベで、シュメリはバルトにシルバーのブレスレットを送る。
『首輪の代わりだよ』
そう言って、バルトの首輪を外すんだ。
(あぁ! どうしよう。二人の仲がまた進んじゃうよ)
僕はサンドウィッチを持ってオロオロした。
そうこうしているうちに、二人が戻ってきた。
「サ、サンドウィッチ、美味しいなぁ」
夢中で食べている振りをして、チラチラとバルトの左腕を窺う。
腕にアクセサリーがない。
(まだ渡してないのかな)
「リンネ」
シュメリが、袋を僕に見せた。
「ん? それ、何?」
「良いものを見付けたんだ」
まさか、バルトへの贈り物のアクセだろうか。
僕はソワソワしながらシュメリの手元を見詰めた。
シュメリが袋から中身を出す。
「水色のリボン?」
あんまり、バルトっぽくない。
それに小説ではシルバーのブレスレットだったのに。
「リボンデザインの、チョーカーだよ」
シュメリが僕の首にチョーカーを宛がった。
「うん、リンネに良く似合う」
「濃い色味より、淡いほうがいいな」
隣のバルトも満足そうだ。
「それ、僕に?」
「他に誰がいるんだい?」
シュメリが当然のように言い放った。
「リンネに似合う色を、二人で探したんだぞ」
バルトまで、僕のためっていう。
だって、アクセサリーはシュメリがバルトに贈るはずなのに。
「付けてあげるから、ちょっと待ってね」
シュメリが大きなリボンに口付けた。
白い魔力がふわりと浮いて、リボンに吸い込まれた。
「バルトも」
「俺も?」
「保護者だろ。さぁ」
ちょっと驚いた様子で、バルトがシュメリからチョーカーを受け取った。
リボンにキスをして、魔力を吹き込む。
「これでもう、リンネは迷子にならないよ」
そう言いながら、シュメリが僕の首にチョーカーを付けてくれた。
大きな水色のリボンが首の横にきて、可愛い。
「ありがとう、シュメリ、バルト」
「よく似合ってるよ」
「良かったな」
シュメリとバルトが微笑んでくれる。
すごく嬉しい。
こんな風に、大切にしてもらえて、嬉しいよ。
(でも、アクセサリーをもらうのは、僕じゃなくてバルトのはずで)
何かがズレているのだと思った。
前から、何となく思ってたんだ。
この世界は、僕が知っている小説とは、何かが違う。
その原因は、僕なんじゃないかって。
(いないはずの猫魔が二人の間にいるから、物語が変わっちゃったんじゃないかって)
どうして、こうなったんだろう。
邪魔者は、僕だった。
だって僕は、二人が出会う前から、二人に出会っていて——。
丸太の家、森の景色、空が見える草原の丘。
拾って育ててくれた人間と、時々出会う騎士。
前世の、僕の夢。
フラッシュバックしそうになった意識が、ギリギリで戻ってきた。
僕は、どうなった?
前世の僕は死んで、今の僕はリンネだ。
(リンネって、名前は……そのままの魂で、この世界に生まれ変わりますようにって)
僕が自分で付けた名前だ。
ドクンと心臓が揺れた。
視界が、グラリと傾いた。
「リンネ!」
シュメリが僕を支えてくれた。
「……シュメリ」
「大丈夫かい?」
「どうしたんだ?」
バルトが僕に駆け寄る。
「シュメリ、バルト。僕は、ここにいても、いい?」
「何を言っているんだい。当然だろう」
「何で急に、そんなこと思ったんだ」
シュメリもバルトも優しいから、そう言ってくれる。
「リボンのチョーカー、すごく嬉しい。僕、二人と一緒にいたい」
僕はシュメリとバルトの手を強く握った。
強すぎて、手が震える。
「リンネ……?」
二人が不安そうに僕を見つめる。
「ずっと一緒にいたいよ。我儘言って、ごめんなさい」
誰に謝っているのか、許しを請いているのか、わからない。
でも、離れたくないんだ。
ずっと一緒が良い。
たとえ、この世界が小説の展開と変わったとしても。
(僕をこの世界に置いてください)
僕は泣きながら、必死にそう願っていた。
コメント
1件
ひゃ〜〜!!第27話、めっちゃエモかった!!😭💕 市で買い出しからの、まさかのチョーカーがリンネへのプレゼントだった展開…!「迷子にならないよ」って魔力込めて付けてくれるの、優しさが染みるよ〜〜✨ でもそのあと「僕がいると物語が変わっちゃう」って自己否定し始めるリンネが切ない…!!「邪魔者は僕だった」とか泣けるやん…!😢💦 でもシュメリとバルトが「当然だ」「ずっと一緒だ」って言ってくれてホッとした…!三人の絆が深まってるのが伝わってきて、胸いっぱいになったよ!!この世界でリンネが幸せになりますように…っ🙏💕
お股ポテト
29
はるにし
72