「やっばい!マジでやばい!俺、終わったかもしれない…!」
楽屋に、佐久間大介の悲鳴が響き渡った。
スマホの画面を食い入るように見つめ、わなわなと震えている。
「どうしたの佐久間、そんなに慌てて」
近くで雑誌を読んでいた阿部亮平が、優しく声をかけた。
「阿部ぢゃ〜ん!!!」
佐久間は、救いを求めるように、阿部にスマホの画面を見せる。そこには、『来週放送!人気クイズ番組!スペシャルゲスト:佐久間大介(Snow Man)』の文字が。
「俺、クイズ番組なんて出たことない!アニソンイントロクイズ以外、何も答えらんないよぉ!」
「あはは、確かに佐久間がクイズ番組は珍しいね」
「笑い事じゃないって!助けて阿部ちゃん!俺に、勉強を教えてください!」
床に土下座でもしそうな勢いで泣きつく佐久間に、阿部は「しょうがないなぁ」と、嬉しそうに口元を緩めた。頼られるのは、いつだって嬉しい。特に、この太陽のように明るい男に頼られるのは、格別だ。
「わかったよ。じゃあ、今から特別授業を開講します!」
「さすが阿部先生!一生ついていきやす!」
こうして、楽屋のテーブルを挟んで、阿部先生による「佐久間のためのスパルタ(?)お勉強会」が始まった。
「まず、歴史からいこうか。最近よく出るのは、戦国時代かな。例えば、この織田信長だけど…」
「おだのぶなが!知ってる!あのアニメで、女の子になってるやつでしょ!?声優さんが俺の好きな…」
「…うん、そうだね。じゃあ次、この徳川家康は…」
「いえやす!あのアニメだと、狸の獣人なんだよね!それがまた可愛くてさぁ!」
授業は、開始5分で暗礁に乗り上げた。
佐久間の脳内では、全ての歴史上の人物が、何かしらのアニメキャラクターに変換されてしまうのだ。
「…化学式も出るかもしれないな。例えば、水の化学式は…」
「H2O!知ってる!セーラームーンの、マーキュリーの必殺技で出てくるやつ!」
「…じゃあ、二酸化炭素は…」
「CO2!なんか強そう!地球温暖化肉弾攻撃!みたいな!」
「…佐久間」
「はい、先生!」
「…少し、真面目に聞いてもらってもいいかな…?」
阿部は、こめかみを押さえながら、溜息をついた。
このままでは、クイズの知識が増える前に、自分のHPがゼロになってしまう。
「ごめんごめん!でもさー、阿部ちゃんの教え方、面白くてつい!」
「おだててもダメだよ」
阿部は、呆れつつも、この天真爛漫な生徒をどう導けばいいか、必死に頭を働かせる。そうだ、彼の土俵で戦うしかない。
「…じゃあ、こう考えよう。このクイズ番組は、いわば“異世界”。僕たちは、そこに挑む“勇者パーティー”だ。僕は魔法使い(知識担当)、佐久間は戦士(元気とガヤ担当)。いいね?」
「おお!いいね!俺、戦士!」
「で、歴史上の人物は、いわば“ボスキャラ”だ。信長は炎属性、家康は土属性…。それぞれの弱点(年号とか出来事)を覚えて、倒していくんだ」
阿部が、佐久間の世界観に合わせた途端、彼の目の色が変わった。
「なるほど!そういうことか!じゃあ、このペリーってボスは?黒船っていう、でっかい乗り物で来るんでしょ?絶対、最終形態あるじゃん!」
「うーん、まあ、ある意味ね…」
それからというもの、授業は驚くほどスムーズに進んだ。
佐久間の、アニメで培われた驚異的な記憶力と妄想力は、「勉強」というフィールドでも遺憾無く発揮された。
数時間後。
当初の目的だったクイズ対策は、いつの間にか、「歴史上の人物で最強パーティーを組むなら誰か」という、壮大な二次創作トークに発展していた。
「いや、だからさ、信長のカリスマ性と、孔明の知略、そして宮本武蔵の剣技があれば、どんな魔王も倒せるって!」
「ふふ、確かにそうだね。佐久間と話してると、勉強も楽しくなるな」
阿部は、心の底からそう思った。
ただ知識を詰め込むだけじゃない。楽しむこと。それが一番の力になる。それを教えてくれたのは、紛れもなく、目の前の太陽のような男だった。
その時。
今まで熱く語っていた佐久間が、ふっと真顔になった。
そして、ニシシ、と悪戯っぽく笑う。
「…ねぇ、阿部ちゃん」
「ん?」
「俺、別にクイズ番組、そんなに不安じゃなかったんだよね」
「え?」
佐久間は、阿部の手から、そっとペンを取った。
「だって、分かんなくても、隣に阿部ちゃんがいるじゃん?って、プロデューサーさんに言ったら、じゃあ阿部くんも一緒に出てもらおう!って」
「……え、そうなの!?」
初耳だった。
つまり、この勉強会は、全て。
「そう!阿部ちゃんと、二人っきりで、イチャイチャ(勉強)したかっただけでしたー!」
そう言うと、佐久間は、阿部の頬に、ちゅ、と軽いキスをした。
「はい!俺の勝ち〜!」
してやったり、と満面の笑みでピースサインをする佐久間。
阿部は、一瞬、呆気に取られて固まった後、顔を真っ赤にして、天を仰いだ。
教えていたつもりが、いつの間にか、完全に、彼の掌の上で転がされていた。
「…ほんと、敵わないな…」
その敗北は、クイズに全問正解するより、ずっとずっと、幸せな味がした。
コメント
6件
ああああああああありがとうございます😭
続きまた書いてください! 楽しみに待っています!
やばいー! 嬉しい!! 続きを書いてくれてありがとうございます!! これからも楽しみにしてます!