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壊れたドアの向こうに、マフィアの車の音が遠ざかっていく。
ピザ屋の中は静まり返っていた。
オーブンの余熱だけが残っている。
カウンターの前。
エリオットはいつもの顔。
にこにこ。
そして――
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し前に引かれる。
「……」
チャンスが言う。
「お前」
エリオットは首を傾げる。
「ん?」
「今さらだけど」
ネクタイを軽く指でつまむ。
「マフィアのボスの息子?」
エリオットは笑う。
「うん」
「うんって」
チャンスは頭をかく。
「……意味わからん」
エリオットは楽しそうに笑う。
そしてまた。
ぐい
「癖」
チャンスが言う。
「それ今やるな」
エリオットは肩をすくめる。
「落ち着く」
チャンスはしばらくエリオットを見る。
それから聞く。
「じゃあ」
少し間。
「なんでピザ屋やってる」
エリオットはネクタイをくるくる巻く。
少し考えて。
それから言う。
「楽しい」
チャンスが眉を上げる。
「それだけ?」
エリオットは笑う。
「うん」
「嘘だろ」
エリオットは肩をすくめる。
そしてカウンターに頬杖をつく。
金髪の天然パーマが揺れる。
「チャンス」
「ん」
「俺ね」
少しだけ声が落ち着く。
「疲れるの好き」
チャンスが瞬きする。
「……は?」
エリオットは笑う。
「ピザ作って」
オーブンを見る。
「忙しくて」
「汗かいて」
ネクタイをくるくる。
「帰るとクタクタ」
チャンスが言う。
「変わってる」
エリオットはにこっとする。
「知ってる」
少し沈黙。
それからエリオットは続ける。
「あと」
「?」
「父さんのお金」
少し間。
「興味ない」
チャンスが聞く。
「マフィアの金だぞ」
エリオットは軽く笑う。
「だから」
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し近くなる。
エリオットは言う。
「自分で稼いだ方がいい」
チャンスは数秒黙る。
それから小さく笑う。
「……ピザで?」
エリオットは胸を張る。
「ピザで」
チャンスは吹き出す。
「ボスの息子が」
エリオットは楽しそうに言う。
「ピザ屋」
そしてまた。
ぐい
チャンスが呆れた顔で言う。
「ほんと」
「ん?」
「変なやつ」
エリオットはにこっと笑う。
「よく言われる」
チャンスは少しだけ真面目な顔になる。
それから言う。
「でも」
エリオットが首を傾げる。
「?」
チャンスはネクタイを軽く持つ。
「嫌いじゃない」
エリオットの目が少しだけ丸くなる。
それから。
にこっと笑う。
「よかった」
そして。
最後にまた。
ぐい
チャンスが言う。
「……それやめろ」
エリオットは楽しそうだった。