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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 薄暗い墓所――洞窟の中は、狭い通路がどこまでも続いていた。

 至る所に人骨が飛び出していたが、やはりどれもこれも壁を削って造った偽物でしかなく、中には踊りを踊っていたり、座禅を組んでいたり、そうかと思えば、まるでおトイレ中のような姿で彫られているようなものもあって、ご丁寧に大便らしきものまで綺麗に再現されていた。

「……いったい何なわけ、これ。本当に脅しが目的?」

 わたしが口にすると、クロは、

「さぁな。彫ってるうちにだんだん飽きてきたか、そうでなければ逆に変にテンションが上がってきたんじゃないか? 魔法使いって、そういうところがあるだろう。同じことの繰り返しだと飽きてきて変わったことをしたくなったり、楽しくなってきてその場のノリで色々とやらかしたり。ここを作った魔法使いもそうだったんじゃないか? 見てみろ」

 と嘴で示した先を見てみれば。

「……何じゃこりゃ」

 少し先の壁に、もはや人骨とすら呼べない、ただの棒人間のようなモノが、まるで非常口の看板に描かれた抽象的な人物画のごとく彫られていた。

「飽きたんだろうなぁ、ここで。この先はもう何も彫ってないし」

「えぇ……?」

 わたしは呆れつつ、けれど自身も似たような飽きっぽさや享楽的な側面があること思い出し、なんとなくここを作った魔法使いに同情した。

 まぁ、ここまであれだけの人骨を彫ってれば飽きもするよね。

 なんて思ったところで、

 ――ヒュンッ、バシンッ!

 突然右側面の壁から風を切るような音がしたかと思うと、何か細い棒っ切れがわたしの頬を叩いたのである。

「――痛ったぁ! なにっなにっ? 何なわけ?」

 頬を擦りながら懐中電灯を向けてみれば、壁が細く掘られており、そこから枯れ果てた枝のようなものが飛び出してゆらゆらと揺れていた。

 これがわたしの頬を叩いたのだ。

「なによ、これ!」

 怒りに任せて枝を引き抜いてやると、その枝は握った先からボロボロと崩れていった。

 それを見て、クロは首を傾げつつ、

「……脅し、だろう、たぶん」

 どこか自信なさげにそう口にした。

「脅し? これが?」

「う~ん。わからん」

 もはやここまでくると本当に脅しなのか、果たしてここに噂に聞くアーティファクトが隠されているのか、本気で怪しくなってくる。

 確かに僅かながら、それっぽい魔力を感じられるのだけれど……

 こうしてさまよい歩いていると、脅しというよりは、ただ単純に驚かせにきているだけのように感じられてならなかった。

 それからしばらく歩き続けていると、やはり所々に思い出したように色々な仕掛けが隠されていた。

 幽霊のような姿をした案山子の群れ、何故か逆さ向きの女の生首――を模して造られたらしいボロボロの張りぼて、天井から吊るされたひょうたん、目の錯覚を利用した僅かな(しかも見事に引っ掛かって一瞬冷や汗をかいた)段差などなど……

「ほんと、何なのココ。お化け屋敷でも作ろうとしてただけなんじゃないの?」

「しかし、何のために? こんなところにそんなもの造ってどうするんだ」

 と首を傾げるクロ。

 わたしは首を横に振りつつ、

「そんなの、解るわけないでしょ? 相手は私たちと同じ魔法使いだよ? 魔法使いなんて、大概その場の雰囲気や思い付きで色々やらかしちゃう人たちばっかりじゃない。クロだって、さっき似たようなことを言ってたでしょ? 案外、本当は魔力を秘めた魔法道具なんてここにはなくて、趣味で作ったお化け屋敷ってだけだったりするんじゃないの?」

「おいおい、もしそうだったら、とんだ無駄足じゃないか!」

 クロは叫び、苛立ったように翼を広げると、羽ばたきながら壁から飛び出した案山子の頭をその嘴で激しく突いた。

 そのせいで辺り一帯に巻きあがる土埃に、わたしは咳き込みつつ、

「もう! やめてよクロ!」

 と叫んだ、その時だった。

『……マ……ター、応答……ます』

 突然耳元で聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。

 自宅に置いてきた、わたしのひいじいさんが残したアーティファクト。

 クロとは別のもうひとりの相棒で、その名もアイボ。

 これまた私の名付けた安直なネーミングだ。

『マス……ター、マスター』

「聞こえる。聞こえるよ、アイボ」

『マスター、お怪我は』

「大丈夫、クロも平気」

 再びザザッと音がして、やがてクリアにアイボの声が聞こえてくる。

 どうやら無事に地力の流れる場所まで来られたようだ。

 とりあえずこれでひと安心、とわたしはため息を吐く。

『良かったです、マスター』

 機械的だけれど、どこか安堵したようなその声に、わたしは、

「早速で悪いんだけど、アイボ」

『はい、マスター』

「わたしたちの現在の位置情報を調べて。それから、この墓所に隠された、地力とは別の魔力の流れも辿れる?」

『――しばらくお待ちください』

 と声がして数秒後、

『マスターたちの現在地座標確認。および地力とは別の大きな魔力の流れを検知』

「場所は?」

『そこから百メートル上です』

「OK。案内頼める?」

『お任せください、マスター』

 アイボの声が、とても心強かった。

 やっとの思いで抜け出した穴の先。

 周囲を見回せば、そこはお寺の裏の山の上。

 明らかに人の手によって整地されたのであろう、割と広めの岩場だった。

 その岩場をこれでもかというくらいの明るさで照らすのは、奇麗でまん丸い白い月。

「――すごい」

 ただ、その一言に尽きた。

 あれだけ洞窟の中をさまよい歩いて疲れ果てたわたしの身体に、月の魔力が染み渡っていく。

 ……そうか、そういうことなんだ。

「この月が、この洞窟の宝なんだ」

「なんだそりゃ!」

 とクロは目を真ん丸く開いてわたしに顔を向け、

「こんなもの、どこで見たって一緒じゃないか!」

「そうかな?」

 とわたしは軽く笑い、

「苦労して見るから余計に奇麗に感じるってこともあると思うよ。たぶん、この洞窟を作った人もそういうつもりだったのかも。わざわざお化け屋敷みたいな作り方をしたのだって、きっとここにゴールした時に感動するためのお膳立てだったのかもよ?」

「ますます意味が解らない!」

 ぷんすかするクロ。

 そんなクロを見ながら苦笑していると、

「――なっちゃん!」

 上空から、わたしを呼ぶ声がして顔を上げる。

「……真帆」

 そこには、箒に腰掛けた魔女仲間――楸真帆の姿があった。

「もう! 探したじゃないですか!」

 珍しく怒り口調で言う真帆に、わたしは、

「どういうこと? 私のこと、探してたの?」

 と首を傾げた。

「シモフツくんから聞いてなかったんですか?」

 シモフツくんとは全魔協の職員、シモハライくんのことだ。

 真帆は昔から彼の事をシモフツくんとあえて間違えて呼んでいる。

「あぁ、もしかして迎えって真帆の事だったの?」

「はい」

 と真帆は頷いて、

「指定された場所になかなか来ないから、何かあったんじゃないかって心配したじゃないですか。魔力磁石を頼りになっちゃんのことを探して、ようやく見つけましたよ」

「ごめんごめん。色々トラブルがあってさ」

「……まぁ、無事で何よりでした」

 真帆は小さくため息を吐いてから、

「そんなことより、例のアーティファクトは見つかりましたか?」

「あぁ、うん。アレだよ」

 言ってわたしが指差した先、大きな満月を見上げた真帆は、

「――なるほど、月の魔力でしたか」

 と呟くように口にして、

「確かに、ここは他より月の魔力が多く降り注いでいるみたいですね」

「だろ?」

 そこでわたしは真帆の手にしているモノに気が付いて、

「真帆、それは?」

 と思わずソレを指差す。

「あぁ、これですか?」

 と真帆は小さな徳利を軽く振り、

「ここに来る途中、常葉さんに会ってきたんです」

 常葉さんというと――

「ああ、あの虹取りのじいさんか」

 そうですそうです、と真帆は頷き、

「はい、どうぞ」

 と言って小さな盃を差し出してくる。

「今日は満月でしょう? なっちゃんと月見酒――もとい、月見虹でもしようかと思って、分けて貰ってきました。採りたてですよ?」

「お、いいねぇ」

 わたしは真帆から盃を受け取り、近くの岩場に腰掛けた。

「クロもさ、いつまでも怒ってないで、あの月を見ながら一杯やったら?」

 わたしの言葉に、どこかいじけていたクロも、

「……そうだな。そうでもしないと、やってられん!」

 ため息交じりに言って、ばさりとわたしの肩に飛び乗った。

 それから真帆もわたしたちの隣に腰を下ろし、同じ形をした盃をもう一つ取り出すと、それぞれにとくとくと虹を注いでいった。

 それから月に向かって互いに盃を掲げて。

「それじゃあ、なっちゃん」

「うん」

 私たちはふたり頷きあうと、その盃をチンと鳴らして。

「「──お疲れ様」」

……魔力の墓所・了

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