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イニディア村に悪魔が襲撃してきたあの日から、数日が経った。
ジーク「もーちょい左ー」
アリィ「これくらい?」
ジーク「バッチリだ!」
アリィ「はいよー。」
ジークとアリィは慣れた手つきで、店の看板を治す。ジークの後ろから、成人男性の平均身長の半分程しかない男性が話しかける。
男性「元より随分綺麗になって丁度良かったわい。」
アリィ「あっ、アドルフさん。」
アドルフと呼ばれた男性は返事を返す。
アドルフ「嬢ちゃん、脚立に乗っている時に振り返るのは危ないからやめなさい。…にしてもて慣れてるのぉ。」
ジーク「小銭稼ぎで何回かやったことがあるもので…」
アドルフ「そうかしこまらんでもいいわい。言ったじゃろ?お前さんが持っていったアレは元々テスター用じゃ。感想を教えてくれれば、それで十分だわい。落ち着いたら、教えてくれるのを楽しみにしてるぞ。」
ジーク「は、はぁ…。」
脚立から降りたアリィが、アドルフ達の元に駆け寄る。
アリィ「終わったよー。」
アドルフ「おお、ありがとうのぉ。リニューアルしたみたいでええのぉ。開業したばかりの頃を思い出すわい。」
アリィ「アドルフさんって凄いポジティブ…。」
アドルフ「何も最初からポジティブだった訳ではないぞ?長く生きて考えが自然と変わっていったんじゃ。」
アリィ「…アドルフさんって何歳なの?」
アドルフ「今が確か…150か160くらいじゃったかのぉ。」
アリィ「100以上!?」
アリィの驚く顔を見て、アドルフはほっほっと笑う。
アドルフ「もしや嬢ちゃん、儂を人間だと思ったんじゃな?」
アリィ「えっ違うの!?」
アドルフ「儂は人間じゃなくて地底人という種族じゃよ。」
アリィ「ち、ちてい…?」
アドルフ「お前さん達セヌス国の出身じゃろ?」
ジーク「そうだけど…伝えた覚えないというかどうやって分かったんだ…。」
アドルフ「ほっほっ。坊主、お前さんが頼んでくれた弓を見て分かったんじゃ。あの弓には他のと違い、ある珍しい特徴があるからのぉ。二つに分けられる弓は、セヌス国では有名じゃからのぉ。」
アリィ「確かに…ジークと同じ弓はあまり見たことないかも…。確かジークのおじいちゃんから、貰ったんだよね?」
ジーク「ああ。」
アドルフ「いい素材が使われてるから、かなりの値打ちものじゃな。まぁ他の国で売る時は、商会に申請書を出さないと違法じゃがな。」
アリィ「どうして?」
アドルフ「法外な値段で売る愚か者が居るからじゃよ。おっと…話が逸れたわい。とにかく…セヌス国の出身なら地底人を知らないのも仕方がないわい。なんせあの国に地底人は非常に少ないからの。」
アリィ「そうなんだ…ジークは知ってたの?」
ジーク「まぁ不要な素材を売るために定期的に、街に寄ってたから、見たこと自体はあるがこうじっくり会話することはなかったな。」
アドルフ「地底人というのは、その名の通り地底で暮らしている者達のことじゃよ。今は儂のように地上で暮らす者も出てきたから、ちょっと意味が変わったがのぉ。」
アリィ「今はどう変わったの?」
アドルフ「成人しても人間の半分程の身長の者を指すようになったのぉ。儂らの祖先らは、土を掘って住居を作り暮らしとった。じゃから身長はあると邪魔じゃったんじゃろうな。」
アリィ「おお…!地底で暮らしてた理由は?」
アリィは新たな知識に目を輝かせ、アドルフに質問する。
アドルフ「昔、儂らは太陽がダメだったんじゃよ。まだ詳しくは分かってないんじゃが、太陽の光は僅かに有害な物質を含んでるようでの。人間なら問題じゃないんだが…儂らはダメだったようじゃ。今は儂のように進化の過程で耐性が付いた者が、チラホラいるという訳じゃ。」
アリィ「へー!教えてくれてありがとう!」
アドルフ「構わんよ。」
ジーク「あっ、そういえば弓の修理は…」
アドルフ「ああ、安心するといい。修理は出来るぞ。まぁちと珍しい材料じゃから買いに行っていての。ちと時間がかかるわい。それでもええかの?」
ジーク「出来るなら全然大丈夫。ありがとう。」
アドルフ「商売なんじゃから構わんよ。」
アリィ「ん…?」
アドルフ「どうしたんじゃ嬢ちゃん、おおマリアか。」
アリィとアドルフの視線の先には、何かを探すように辺りを見回しているマリアが居た。
ジーク「なんか探してるのか?」
アリィ「こっちに気づいてないみたい。」
アドルフが、マリアの近くに寄る。
アドルフ「マリア、何か探しものかの?儂も手伝ってやろうか。」
マリア「あっ、アドルフさん。はい…実はアカネの修理をしていたんですけれど…」
アドルフ「けれど?」
マリアは不安そうに答える。
マリア「予備の記憶メモリがどこにも無いんです…。あれだけの数があったのに…」
アドルフ「なんと…!ふむ…全てというと動物が持って行ったという可能性は低いようじゃな。」
マリア「もう村中片っ端から探してて…やっぱり…」
アドルフ「落ち着け、マリア。少なくともここはまだ、探していないんじゃろ?」
マリア「ええ…」
アドルフ「儂も手伝ってやる。お前さん達2人も、働かせ続けて悪いが手伝っておくれ。」
アリィ「大丈夫!私達も探すよ!」
ジーク「ああ。」
マリア「3人ともありがとう…。」
数時間後、アドルフの気遣いも虚しく最後の望みをかけて必死に4人は探したが、何時間経っても記憶メモリは見つからなかった。
アドルフ「もう暗くなってきてしまったわい。今日はここで引き上げよう。」
アドルフの声は届いていないのか、マリアは無我夢中にひたすらに探し続ける。
アドルフ「マリア。」
それでもマリアの耳には届かない。
アリィ「…今日はもう暗くて見つけにくいし、明日また一緒に探そう。大丈夫、きっと見つかる。」
アリィはマリアの肩に、手を軽く起き穏やかな声で話しかける。
マリア「アリィちゃん…。」
上げた顔は今にも泣き崩れそうで、酷い顔だった。
ジーク「マリアさんが帰ってこなかったら、ベツさんきっと大騒ぎだから帰ってあげないと。」
マリア「…そうね。あの子に心配させちゃいけないわ。…3人ともありがとう。」
アリィ「記憶メモリのこと、ベツさんにも帰って相談しよっか。」
ジーク「何か知ってるかもな。」
アリィとジークは、マリアの手を引いて研究所に帰っていく。
ベツレヘム「おかえりなさい。3人とも。マリア、ご飯作っちゃって大丈夫だった?」
マリア「…ええ、ありがとう。」
ベツレヘム「どうしたの?元気ない…?」
マリアはだんまりとしている。アリィが代わってベツレヘムに、アカネの記憶メモリについて今までの段階のことを話す。
ベツレヘム「…本当にどこにも無いの?」
マリア「あそこ以外は…」
ベツレヘム「分かった。カイオスにも相談してみる。3人とも今日は疲れたでしょうし、休んでください。2人は大丈夫だろうけれど…マリアのこと言ってるんだからね?」
マリア「分かってる…」
そうして、翌日。アリィとジークの部屋にコンコンとノック音が鳴る。扉を開けると、ベツレヘムとまだ眠たそうにベツレヘムの服の裾を掴んだマリアが立っていた。
ベツレヘム「まずは朝食にしましょうか。ほらマリア動ける?」
マリア「んぅ…昨日あまり寝れなくて…」
ベツレヘム「無理もないよ。ゆっくりでいいから。」
そうして食事の席に着くと、ベツレヘムは話を切り出した。
ベツレヘム「昨日、あの後すぐにカイオスに相談しました。」
マリア「……」
アリィ「…どうだった?」
ベツレヘム「結論から言いますと、記憶メモリは全て紛失、破損しています。ただ1つを除いて。」
ジーク「待ってくれ。」
ベツレヘムの話をジークは遮る。
ジーク「なんで破損してることが分かるんだ。紛失ならまだしも…」
ベツレヘム「イニディア村で出たゴミの処分は、基本燃やしています。遠くの何も無い場所に行って。でもイニディア村から頻繁に出ることが出来るのは私達二人だけ。私は普段出稼ぎに行っていてるのでカイオスが担当なんです。ちょっと複雑な事情なんですが…」
アリィ「カイオスさんはたまたまゴミ袋に記憶メモリがあったのを見たことがあるってこと?」
ベツレヘム「そうです。でも当時は気にも止めていなくて。というのがですね…その〜…」
ベツレヘムは言いづらそうに口をもごもごさせる。
ジーク「大丈夫だ。なんでも言ってくれ。」
アリィ「うん。私達は大丈夫。」
ベツレヘム「えっと…マリアが大丈夫じゃないというか…えっとですね…」
ベツレヘム「ゴミ屋敷だったんです…ここ。少し前まで…」
マリア「んぐっ…!」
水を口に含んでいたマリアがむせて咳き込む。アリィが背中をさするが、アリィの心配は杞憂であり元気に言い返す。
マリア「ち、違うの…!あれは…!///」
ベツレヘム「初期のベータ版の記憶メモリまで保管してて…だからてっきり断捨離したくらいに、私達は思ってまして…。」
アリィ「それは捨てちゃって大丈夫なの?」
ベツレヘム「はい。もうベースは完成してましたし、アップデートを重ねていく上でかさばっちゃって。」
マリア「うぅ…誰か埋めてぇ…///」
マリアは恥ずかしそうに顔を下に向ける。
ベツレヘム「…とにかくカイオスの話だと、それらは回数を重ねる毎に徐々に増えていき、全てご丁寧に二つに綺麗に割れてたそうです。」
ジーク「ということは…機械で割ったのか?」
ベツレヘム「私達も最初その路線で考えました。ですが、すぐに可能性は低いことに気づいたんです。そういった使用用途の機械はウチの村にはありませんから。本来の使用用途では無い機械でやれば必ず、歪みなどが出ます。でもそれらは本当に綺麗に割れてたようで…」
アリィ「踏んじゃったとかは?」
マリア「それは無いわ。記憶メモリは第2のコアのようなものだもの。踏んでもヒビひとつ入らないよう設計されてる。…ただ…」
ベツレヘム「マリアが考えているように、これが最も高い可能性です。…アカネ君自身が壊した。」
アリィ「そっか…!アカネ君そういえば凄く力があったしその気になったら、綺麗に割ることだって…!」
マリア「どうして…」
ベツレヘム「ジークさん。」
ジーク「?俺?」
ベツレヘム「アンドロイドに、いえ、アカネ君に心はあると思いますか?」
ジーク「き、急になんなんだ…」
ベツレヘム「直感でいいので。」
ジーク「…それなら…アカネ君に心はあると思う。じゃなきゃ説明がつかない行動をしてた。」
ベツレヘム(自身はなさげ…。元々の分析力が高いのかな…まだ”こっち”の結論は出そうにない…。)
ベツレヘム「…ありがとうございます。非現実的な話ではありますが、もしあるのだとして仮定した場合の話です。…私はただ1つを除いてと言いましたね。」
マリア「ええ。」
ベツレヘム「どうやら、カイオス自身が持っていたみたいで…」
マリア「それは本当なの!?」
ガタッと音を立て、マリアは椅子から思いきり立ち上がる。
ベツレヘム「落ち着いて。まだ話は終わってないから…どうしてかは分かりませんが…1度置いていかれてしまうと、敏感になるのかもしれませんね。」
アリィ「……。」
ベツレヘム「ですが、アカネ君が自ら壊したと仮定した時、記憶メモリをセットしたところでアカネ君が戻ってくるか戻ってこないか。」
ジーク「心がってことか?」
ベツレヘム「そうです。だから今はそのままカイオスに保管してもらっています。」
マリア「そう…。」
アリィ「ん?ちょっと待って」
アリィが皆に呼びかける。
アリィ「ノアさんどこ?」
3人はえっと顔を見合わせる。
一同「あっ…!」
森の中で1人、仰向けに横たわっているヒトがいる。
ノア「ねぇこれ動けないんだけど、僕いつ気づいて貰えると思う?」
彼はリスに話しかけていた。