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直樹を送り出した後、私は震える指でスマホの時計を見た。
午前10時
ちょうど今頃、直樹の会社のパソコンに
人事部かコンプライアンス委員会からの呼び出し通知が届いているはずだ。
私はリビングの掃除をしながら、その瞬間を想像する。
「何かの間違いだ」と鼻で笑い、自信満々に会議室へ向かう直樹の姿を。
ところが、昼過ぎ。
私のスマホが、狂ったように鳴り響いた。
直樹からだ。
「……もしもし」
『おい詩織!お前、会社に変なメール送ったか!?』
受話器越しでも分かる、直樹の怒号。
声が裏返り、相当に動揺している。
「えっ…何のこと?私は家で掃除をしてるけど……」
『とぼけるな! 箱根の領収書の件だ! 経理だけじゃなく、コンプラまで出てきやがった。……いいか、今すぐ会社に電話しろ」
『「あの日は私も一緒でした。間違いありません」って、泣きながらでも説明するんだ!』
「……そんなこと言われても。私、昨日は莉奈さんとお会いして……」
『莉奈……!?お前、莉奈と会ったのか!?』
電話の向こうで、直樹の息が止まったのが分かった。
「ええ。莉奈さんから、直樹さんと箱根で楽しく過ごしたお話を聞いたわ。……会社の方に、私との『会議』だったって嘘をつかせるのは、莉奈さんに失礼じゃないかって……」
『バカかお前は!余計なことを……っ!』
そのまま、通話は一方的に切れた。
私は冷めた目でスマホの画面を見つめる。
直樹、あなたは今、自分の保身のために私に「嘘」を強要した。
それもすべて、このスマホに録音されているとも知らずに。
夕方───
玄関のドアが乱暴に開き、直樹がなだれ込んできた。
髪は乱れ、ネクタイは歪んでいる。
「……詩織、お前のせいだ。全部お前のせいで、俺は謹慎処分になった!」
「謹慎……?」
「ああ。箱根の件だけじゃない。……経理が過去3年分の領収書を洗い直すと言い出した。莉奈とのランチも、タクシー代も……全部だ!」
直樹はリビングのテーブルを拳で叩いた。
「お前が莉奈に余計なことを言わなきゃ、あいつだって上手く誤魔化したはずなんだ」
「あいつ、会社で泣き出しやがって……『直樹さんに無理やり協力させられた』なんて、裏切りやがった!」
莉奈が裏切った?
……ふふ、やっぱりね。
彼女のような女は、自分が助かるためなら、真っ先に泥舟から飛び降りる。
私がカフェで見せた「怯える妻」の姿を見て
彼女は「直樹と一緒にいたら共倒れになる」と確信したのだろう。
「お前が……お前が無能なせいで、俺のキャリアがめちゃくちゃだ!どうしてくれるんだよ!」
直樹が私に掴みかかろうと手を伸ばした。
その時、私は一歩も引かず、真っ直ぐに直樹の目を見た。
「……自業自得じゃない、直樹?」
「……あ?」
「私を1円単位で追い詰めて、私の貯金を200万も盗んで。……そのお金で他の女と贅沢をして」
「…それで会社のお金まで誤魔化して。……それを私のせいにできると思っているの?」
私の冷え切った声に、直樹が気圧されたように足を止めた。
「……お前、何を……」
「謹慎で済んで良かったわね。でも、これはまだ『始まり』よ」
私は微笑んで、寝室へ向かった。
背後で直樹が「ふざけるな! 誰のおかげで食えてると思ってるんだ!」といつもの言葉を叫んでいる。
でも、もうその言葉に力はない。
明日からは、その「食わせているお金」さえ、あなたには入ってこなくなるのだから。
私はPCを開き、WEBデザインの仕事の最終納品ボタンを押した。
入金予定額、30万円。
【残り89日】
猫塚ルイ

#ざまあ
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