ねえ、何で皆そんなにフラグ立てるの?
一瞬、何を言われたか……いいや、まだ何も言われてないんだけど、変なことを言われた気がして、私はぱどぅん? と聞き返しそうになった。失礼だからやめたけど、真剣に私を見つめているアメジストの瞳を見ると、開いた口は勝手に閉じていく。
(それって、滅茶苦茶にフラグなんですけど?)
アルバもそうだったけど、次から次へと死亡フラグを立てていく周りの人達を見て、少し引いていた。確かに、最後の戦いだからって言うのは分かっている。でも、それはそうとして、いくら何でも死亡フラグを言いすぎなのではないかと思った。死亡フラグを立てないと死んでしまう呪いにでもかかっているのだろうか。
(考えれば、そういうゲームみたいなところあるし、ゲームだしそうかも知れないけど)
現実で死亡フラグを言ったから死にました、はあまり聞かないけれど、ゲームやアニメで死亡フラグを言った、立てた人は大体死んでいる。この世界を、現実としてみるかゲームとしてみるかでこの死亡フラグが完成される=死んでしまうになるかは変わってくるんだろうけど……
(まあ、攻略キャラだから死ななってことにしておこう……じゃないと怖すぎる)
攻略キャラから死なない。そう考えることにして、私は、ブライトの次の言葉を待った。
「伝えたいこと? 今じゃダメ?」
「……はい。全て終わった後に、話そうと思います」
(アンタが死ななきゃね)
とは、さすがに言わなかったけど、私は顔を引きつらせる。
何を言われるのか想像つかないし、ブライトが久しぶりに(といったら、もの凄く失礼極まりないのだけど)真剣な顔で言うんだ。きっと大切なことに決まってる。
私なりに、何を言われるか想像し、頭を捻った。そして、一つの答えにたどり着く。
(まって、それってエンディング! つまり、告白じゃ無い!?)
バトルとか、世界滅亡とか言われすぎて、此の世界が、このゲームが何だったかをすっかり忘れていた。一応乙女ゲームなのだ。そして、私を中心にまわっている、エトワールストーリ―であれば、攻略キャラから告白されるのは必然。しかし、ヒロインストーリーと違うのは、エトワール、私から告白しないと、その恋は成就しないと言うこと。
(つまり、この戦いが終わるまでに相手を決めなさいって事!?)
そういうことだろうと、勝手に結論づける。
もし決められなかったら、またやり直しとか、この鬼畜ゲームはありそうだから、私はこの戦いを制するのは勿論、添い遂げる相手を決めなければならないみたいだった。
(でも、恋愛らしい、乙女ゲームらしい要素がなかったせい……にしちゃいけないけど、誰が良いとか分かんない!)
リュシオルに相談できれば良いのだけど、もう戻れないし、そもそも「あの人にしちゃいなよ~」「分かった~」で済むような問題じゃ無い。だからこそ、真剣に選ばないといけないのだが。
(……候補…………は、いるけど、私がその人に恋してるとか、好きとかそういう感情抱いているとかは分からないし)
この人とならやっていけそう……かもしれない、見たいな人はいる。でも、その人を恋愛感情的な意味で好きかと言われれば分からないのだ。人見知りで、人を信じられない時期があったからか、人を知ろうとしなかった。それが、今こういう状況になっている。
どうしようもないのだ。
「エトワール様、どうしたんですか? そんな、怖い顔して」
「こ、怖い顔になってた?」
「え……あー、気のせいですね」
「濁し方下手すぎる。まあ、ちょっと考え事していたからかな」
ブライトに指摘されて、もの凄く眉間に皺が寄っていたことに気がついた。私はかたまった筋肉をほぐしながらブライトを見る。
先ほどまで真剣な表情だったのに、いつもの優しい好青年という感じに戻っていた。まあ、ブライトの笑顔って裏がありそうで怖いんだけど。その、裏表があるというよりかは、考えすぎて、人には言えない秘密を抱えているけど、それを表に出しちゃいけないから! 的なあれ。伝わるかは分からないけれど。
「考え事、ですか? 僕でよければ何か力になれることがあるかも知れませんが……」
「ううん、大丈夫! その、魔法とか戦略的なことじゃなくてね……あーえっと。もし、もしもだよ? 混沌を倒せるか、封印できたとして、聖女がこの世界にとどまれるとしたら……そしたら、誰かと結婚しなくちゃいけないのかなあって」
「結婚ですか」
「え? そんなに驚くこと?」
「いいえ、エトワール様の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったので」
「私のことなんだと思ってるの?」
じゃあ、さっきの話したいことが~の下りは、告白じゃ無い? そう思ってブライトを見れば、少しだけ耳が赤くなっているような気もした。気のせいと言うことで放置して、私はこくりと頷いた。
聖女は役目を終えたら消滅する、とかいわれているのに、そういう設定とか言ってるくせに、ゲームでは愛の力で留まって攻略キャラと結ばれてハッピーエンドで終わるのだ。
なら、エトワールもそうなんじゃないかと。まあ、そうなんだろうけど。ブライト達からしたら、あり得ない事なんだろう。
でも、あり得るからこそ、私は結婚という単語を出したのだ。ブライトにこれが解決できるわけが無いのだ。ブライトは攻略キャラだから。選ばれる側だから。
(まあ、攻略キャラでありながらその枠を跳び越えてしまってる人はいるんだけどね)
中身転生者とか言う……
あの黄金を頭に思い浮かべながら私は、群衆の中リースを探した。あんな目立つのすぐに見つかるだろうと思ったけれど中々見つからない。まあ、見つけたところで何を話すわけでも無いし、と目線を戻せば、さっきの話が気になったのか、ブライトはさらに追求してきた。
「その、エトワール様は気になる人がいるんですか?」
「あっ、えーと、いや、そういう意味じゃ……でも、世界救っちゃったらもうそれしかないかなあとか、あはは……」
話を逸らそうとしたが、理由も理由らしくなっていなくて、ブライトに怪訝な顔を向けられる。そんな顔しなくても良いのにと思っていると、後ろから、バッと目を隠された。
「うわぁあああ!」
「んな、叫ぶなよ。誰だと思う?」
「そんなの、てか、この声、こんなことするの……アンタしかいないわよ! アルベド!」
「声だけで当てられるんだな。エトワール。お前、俺の事好きすぎるだろ」
「誰が……」
声、そして、匂いで……いいや、こんな馬鹿な事するの一人しか思いつかないと、私はあの紅蓮の名前を呼ぶ。すると、嬉しそうに声を弾ませて、その手を離したアルベドは私の顔を覗き込むようにして後ろから顔を覗かせた。
背後に気配なしで近付かれると、寿命が縮まる。そして、相変わらず、気づかれないように忍び寄れるのが凄いと思った。そこだけは、感心する。
「後、背後に立たないで」
「何で?」
「怖いから」
私が、ぴしゃりと言えば、アルベドに笑顔が一瞬崩れたような気がした。いや、誰でも怖いと思うんだけど……とは、こっちが怖くて言えなかった。
「久しぶりです。レイ卿」
「ああ、久しぶりだな。ブリリアント卿。エトワールと二人きりで楽しそうにお喋りして。いったい何を話してたって言うんだ?」
「世間話ですよ。何故、そんなに会話の内容が気になるんですか?」
いつもより強気なブライトに違和感を覚えつつも、静かに火花が散っているような気がして、私は首を傾げる。
この二人って仲悪かったっけ……と。確か、アルベドはブライトのことを嫌っていたみたいだけど、ブライトからアルベドを挑発することは無かったし。これが、挑発と言えるものなのかは分からないけれど。
「別に、気にならねえよ。ただ、エトワールと二人きりって言うのが気にくわなかっただけだ」
「何でアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ」
「ん?」
「ん? じゃないの。アンタに関係無いじゃ無い。私が、誰と話してたって」
「まあ、関係無いな」
「なら、何でそんなに気になるの?」
私がそう聞くと、アルベドは少し考えるような素振りを見せた後、私のことを指さした。
「好奇心と、個人的なきょーみ」
「意味分かんないんだけど」
それが、答えだと言うアルベドを見ながら呆れてものも言えなかった。
ブライトもそれを見て、少し引いたような顔をしていて、アルベドは本当にこれが面白いと思っているのだろうか。忘年会で滑った人みたいになってると、個人的に思いながら、まあアルベドだしいつもの事かと流すことにした。
「まあ、どうでも良いけど、そろそろ出航なんじゃ無い?」
「今日は、冷たいんだなあ。エトワール」
「冷たいというか、緊張しているだけ」
「緊張ねえ」
「アルベドは緊張しないの?」
此奴がするわけないかと思いながら、私はアルベドに尋ねる。アルベドはその笑みを崩さずにクスリと笑った。
「するさ。世界が滅ぶかも知れねえからな」
「あっそ」
最後、笑いが堪えきれず、ニヤリと笑ったのが分かって、私は興味なさげにそう吐き捨てた。矢っ張り、腹の中が分からない人。私の周りはそんな人ばかりだ。
ただ一人を除いて。
「エトワール」
「りー……じゃなくて、殿下。出航の時間?」
「ああ、そうだが……何でこの二人がいるんだ?」
存在感を放ちながらやってきたリースは皆の間に割って入って私の前にやってきた。ブライトもアルベドも驚いたような顔をしていたが、立場上あまり強く出られないのか、何も言わなかった。まあ、貴族と皇族じゃあねえ……と、私は息を吐く。
リースも、この二人といたことが気にくわなかったのか、少しだけムスッとした顔をしていた。本当に面倒くさい男達ばかりだ。
「出発するんでしょ。そのために呼びに来たんなら、早くいこう」
「そうだな。では、また後で。生きていればな」
と、リースは私の腰を抱いて歩き出す。アルベドとブライトにそんな台詞を吐いて。
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