俺は他人に触られるのが嫌いだ…
勿論、仕事の時は我慢するものの
あの男に触られた事を思い出し…いつも気分が悪くなる
自分の顔も身体も全部が嫌い…
夢の中で、あの男が笑いながら俺の事を【可愛い】と言うのを聞く度に…嫌悪が増して、堪らなくなる
知識の無かったあの頃は、自分が何をされたのか分からず…ただ痛いと泣いていたが…
知識が付いて全て理解できる様になった時、自分は穢されて…汚されてしまったのだと愕然とした
心の防衛本能なのか、あの最悪な日から随分と経った今では…男の顔が思い出せない
耳元に聞こえた荒い息や…触れられた時の汗ばんでネットリとした手の感覚、気持ち悪くて逃げたくて…
あの激しい嫌悪感は、何十年経った今でも忘れる事が出来ず…夢にまで見て苦しんでいると言うのに…
どうしても、あの男の顔だけが思い出せない…
体調が悪い時…疲れている時に限って、あの夢を見る事が多く…
グループが売れて仕事が忙しくなってきた今現在では、あの夢を頻繁に見る様になってきた
夢を見て飛び起きた時、涙を流している事や…叫び続けて声が枯れていた事も何度もある…
グループのメインボーカルを任せてもらっている身としては、声が枯れるのは致命傷で…どうしても避けたい事だった
誰も知らない、幼なじみの涼太にでさえ話せなかった…あの日の出来事
全て終わった後、男が言った…【絶対、誰にも言うなよ】の言葉が呪いの様に今も身体を縛り続け…
それが心の中に重くのしかかり…心の身体も疲弊して…俺は今、誰にも心を開けなくなっていた
寝不足の酷い隈の隠し方は、もう手慣れたもので…自宅で自分で出来る様になった
肌のケアも滞りなく、睡眠不足で荒れた肌は…いつもより多めにクリニックに通い、高めの施術する事で何とか保っている
「おはようございます」
何事も無かったかの様に、爽やかに挨拶をして
「よろしくお願いします」
メイクと髪型を整えてもらい、笑顔でカメラの前に立つ…
もう手慣れたモノで…指示通りに動きながら表情も変えて要求に答えていく
「お疲れ様でした」
サクサクと順調に進んでいった撮影は、あっという間に撮り終わり
後は、出来上がりを待つだけとなった
『誰が、こんな写真喜ぶんだろ…?』
自分の顔が嫌いな俺は、どうしてもそれが理解出来ない
周りから容姿を褒められる度に、心の中で自問自答するものの…自分の魅力と言うものが分からない
誰とも深く関わろうとして来なかった俺は、外面と要領良く誤魔化す事が上手くなり…
それでも何とか世間体を保ち、仕事も順調に増えて来ている
周りから見れば、順風満帆な様に見えるのかも知れない…
そんな自分も一皮剥けば、俺に言わせるとゴミクズ同然で
あの一件以来…人生の全てを狂わされた俺は、自分の将来なんかに夢も希望も全く持っていなかった
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