テラーノベル
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シェアハウスの廊下は、夜になると少し冷える。
リビングの灯りだけがついていて、他の部屋のドアは閉まっている。
その中で、
いるまの部屋の前に、こさめは立っていた。
ノックしようとして、
やめて、
また手を伸ばして、
止まる。
「……」
さっきの、いるまの顔が離れない。
泣きそうだった顔。
笑おうとして、笑えてなかった顔。
こさめは、小さく息を吸って、
コンコン、
と叩いた。
「……いるま」
返事はない。
でも、
中にいる気配はあった。
「入るよ」
そっとドアを開ける。
部屋の中は暗くて、
いるまはベッドの上に座っていた。
壁にもたれて、
うつむいてる。
「……いるま」
名前を呼ぶと、
びくっと肩が揺れた。
でも、
顔は上げない。
「……来んなって、言っただろ」
弱い声。
拒絶の言葉なのに、
全然強くなかった。
こさめは、
ゆっくり近づいて、
ベッドの前で止まった。
「ねえ」
返事はない。
「いるま」
「……」
「なんで、一人で抱えるの」
その言葉に、
いるまの指が、ぎゅっとシーツを掴んだ。
「……別に」
「別にじゃない」
こさめは、しゃがんで、
いるまの顔を下から見ようとする。
「つらいでしょ」
「……」
「怖いんでしょ」
「……」
「また、いなくなるのが」
その瞬間、
いるまの呼吸が止まった。
図星だった。
完全に。
「……なんで」
震える声。
「なんで、お前がそんなこと」
こさめは、
少し笑った。
悲しい笑顔。
「同じだから」
「……え」
「僕も、そうだったから」
いるまが、
ゆっくり顔を上げる。
目が赤い。
「……」
こさめは、
その目をまっすぐ見た。
「信じたら、壊れると思ってた」
「……」
「好きになったら、消えると思ってた」
「……」
「だから、最初」
小さく息を吸う。
「いるまのこと、怖かった」
いるまの目が揺れる。
「優しいから」
「……っ」
「優しい人ほど、いなくなるって思ってたから」
沈 promote silence.
そして、
こさめは、
そっと手を伸ばした。
いるまの手に触れる。
びくっと震えたけど、
離さなかった。
「でも」
こさめは言う。
「いるまは、違った」
「……」
「ちゃんと、ここにいる」
「……」
「逃げないで、いてくれた」
いるまの目から、
涙が落ちた。
ぽろ、
ぽろ、
止まらない。
「……こさめ」
名前を呼ぶ声が、
壊れそうだった。
「……怖い」
本音。
「また、全部なくなるのが」
こさめは、
迷わず言った。
「なくならないよ」
「……」
「僕がいる」
「……っ」
「いるまの隣にいる」
その言葉に、
いるまの顔が歪む。
子どもみたいに。
「……ほんとに」
「うん」
「……ほんとに、いなくならない?」
こさめは、
少しだけ考えて、
正直に言った。
「わからない」
「……え」
「未来は、わからない」
いるまの目が、また揺れる。
でも、
次の言葉で、
止まった。
「でも」
こさめは、
いるまの手をぎゅっと握る。
「いなくならないように、する」
「……」
「いるまの隣にいるために」
「……」
「ちゃんと、いる」
いるまの涙が、
また溢れる。
「……なんで」
震える声。
「なんで、そこまで」
こさめは、
少し照れたみたいに笑った。
「好きだから」
時間が止まった。
いるまの思考も、
呼吸も、
全部。
「……」
「好きだよ、いるま」
はっきり。
逃げずに。
「……っ」
次の瞬間、
いるまが、
こさめを引き寄せた。
ぎゅっと。
強く。
壊れそうなくらい強く。
「……ばか」
泣きながら言う。
「遅ぇよ」
「……ごめん」
「……ずっと」
いるまの声が震える。
「ずっと、好きだった」
こさめの目が見開く。
「……」
「怖くて、言えなかったけど」
「……」
「お前がいなくなるのが怖くて」
こさめは、
いるまの背中に手を回す。
優しく。
「もう、逃げないよ」
「……」
「いるまの隣にいる」
いるまの肩が、
少しずつ、
少しずつ、
力を抜いていく。
「……こさめ」
「うん」
「……好き」
小さな声。
でも、
ちゃんと届いた。
こさめは、
少しだけ離れて、
いるまの顔を見る。
泣き顔。
ぐちゃぐちゃ。
でも、
綺麗だった。
「……僕も」
こさめは、
そっと、
額を合わせた。
「大好き」
廊下の外。
実は。
「……」
「……」
「……」
なつ、らん、、他メンバー全員、
ドアの前で盗み聞きしていた。
「……」
「……」
なつ、小声。
「……くっついた?」
らん、小声。
「……くっついてるね」
すち、小声。
「……あれ…?」
全員、
無言でガッツポーズ。
でも、
その夜、
二人はまだ知らない。
このシェアハウスが、
作られた本当の理由を。
そして、
なつが、
どうして、
壊れた人たちを集めたのかを。
コメント
1件
マジで続き気になりすぎる!