テラーノベル
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事務所でのあの打ち合わせから、三日が過ぎた。吉田仁人の日常は、表面上は何一つ変わっていないように見える。朝、満員電車に揺られてオフィスへ向かい、PCと格闘し、定時になれば帰路につく。
けれど、その内側は、あの日、佐野勇斗に手首を掴まれた瞬間の熱に、今もじわじわと焼かれ続けていた。
「……っ」
デスクで書類をめくるたび、ふとした瞬間に自分の右手首に目がいく。
勇斗の長い指が触れた場所。脈打つたびに、あの時の「心臓、すごい速いよ」という甘い囁きが、脳内でリフレインする。
(……あんなの、ただの挨拶だ。向こうはコミュニケーション能力の塊なんだから、深い意味なんてあるわけない)
そう自分に言い聞かせても、あの時、自分を見つめていた勇斗の瞳の熱だけは、どうしても「仕事上の愛想」という言葉で片付けることができなかった。
「吉田くん、顔赤いけど大丈夫? 風邪?」
「えっ、あ、いえ! ちょっと暖房が効きすぎてるだけです!」
隣の席の同僚に声をかけられ、仁人は過剰なほど大きく肩を跳ねさせた。
慌てて冷たいペットボトルを頬に当てる。
バレるわけにはいかない。自分が今、日本中を熱狂させるアイドルの私邸のような距離感に一瞬だけ踏み込んでしまったこと、そしてその感触を、今も宝物のように反芻していることなんて。
帰宅後のルーティンも、少しずつ変質していた。
これまでは、一方的にインスタグラムを眺め、ストーリーを保存し、配信でその魅力を「解説」するだけだった。
けれど今、仁人の手の中にあるスマホには、一つだけ変わったことがあった。
個人用とは別に用意した、仕事用のメッセージアプリ。
そこに並ぶ、『佐野勇斗』という名前。
『仁人くん、お疲れ! さっき今回の写真集の試し刷りが届いたんだけど、これ見てほしいな。仁人くんの曲のイメージ、もっと膨らむと思うんだよね』
届いたメッセージには、まだ世に出ていない写真集のカットが数枚、無造作に添付されていた。
夕暮れ時の海辺で、物憂げに遠くを見つめる勇斗。
光と影が織りなすその美しさは、これまでに見てきたどの写真よりも生々しく、胸に迫るものがあった。
(……なんで、俺にこんなの見せるんだよ)
仁人はベッドに倒れ込み、スマホを顔の前に掲げた。
ファンとして、これ以上の幸せはない。けれど、同時に「吉田仁人」という個人として彼と接することの重圧が、心臓をぎゅっと締め付ける。
勇斗は、仁人が自分の熱狂的なファンであることなど知らない。だからこそ、こんなにも無防備に、こんなにも真っ直ぐに、心の内を晒してくるのだ。
『ありがとうございます。……すごく、綺麗ですね。特に二枚目の、影の落ち方が素敵です。このイメージに合わせて、ストリングスの構成を少し変えてみます』
必死に冷静を装った返信を打つ。
一分も経たずに、既読がついた。
『やっぱり! 仁人くんもそこ気に入ってくれると思った。感性が似てるのかもね。嬉しいな。……あ、今度の日曜、空いてる?』
心臓が、喉から飛び出しそうになった。
「空いてる?」という問いかけ。それが仕事の打ち合わせを指しているのか、それとも別の意味なのか。
仁人は震える指で、「はい、空いています」とだけ返した。
その夜も、仁人は配信のスイッチを入れた。
溢れ出しそうなこの感情を、どこかに逃がさなければ、自分が自分でなくなってしまう気がしたからだ。
「……はい、皆さん。こんばんは。仁人です。……今日は、ちょっとだけ、真面目な話をしようかな」
いつもの「限界オタク」のテンションではない。
マイクに向かう仁人の声は、どこか落ち着いていて、けれど隠しきれない熱を帯びていた。
「皆さんも、ずっと追いかけてる人がいると思うんですけど。……もし、その人が自分の想像よりもずっと優しくて、ずっと仕事に対して真面目だったら……どうしますか? ……俺はね、最近、すごく怖いんですよ。その人の光が強すぎて、自分がただの影だってことを、忘れそうになっちゃうのが」
コメント欄には、『どうしたの?』『仁人くん、なんかあった?』という心配の声が並ぶ。
仁人は自嘲気味に笑い、ギターを手に取った。
「……なんてね。ただの独り言ですよ。……さあ、今日も歌います。この曲は、まだ名前もないけど。……誰かに届くことを願って」
勇斗の写真を見ながら、彼のために綴り始めた旋律。
それを配信で披露するのは、勇斗への裏切りのような気もした。けれど、こうして「仁人」という仮面を被って歌うことでしか、彼への肥大しすぎた想いを浄化する術を、仁人は持っていなかった。
歌い終えた瞬間、視界の端でスマホの画面がチカッと光った。
メッセージの送り主は、もちろん彼だ。
『仁人くん、日曜日、18時に恵比寿のこの店で待ってるね。仕事の話もしたいけど、純粋に仁人くんとゆっくり話したくて。楽しみにしてるよ』
地図のURLと共に送られてきたのは、隠れ家のようなシックなイタリアンの情報だった。
仁人は、マイクの前で固まった。
「……純粋に、ゆっくり話したくて……?」
それは、ただのビジネスパートナーにかける言葉としては、あまりにも甘すぎる響きを持っていた。
画面の中のリスナーたちは、仁人が今、推しからデート紛いの誘いを受けていることなど知る由もない。
「……ごめん。今日は、ここまで。……おやすみなさい」
強制的に配信を切り、仁人は暗い部屋の中で一人、熱くなった顔を両手で覆った。
壁のポスターの勇斗は、相変わらず完璧な笑顔でこちらを見ている。
けれど、今度の週末に会うのは、自分のことを「仁人くん」と呼び、感性が似ていると笑いかけてくれる、あの生身の男なのだ。
(……どうすればいい。俺、どんな顔して会えばいいんだよ……)
部屋中に、自分の激しい鼓動だけが響いていた。
ファンとしての「聖域」が、少しずつ、けれど確実に、彼自身の人生という現実へと溶け出していく。
仁人は、逃げ場のない幸福感と、それ以上に深い不安に飲み込まれながら、眠れない夜をまた一つ、数え始めた。
日曜日。約束の十八時まで、あと三十分。
恵比寿駅の改札を出た仁人は、冷たい夜風に吹かれながら、自分の指先が微かに震えているのに気づいた。
「……落ち着け。ただの会食だ。打ち合わせの延長だ」
呪文のように自分に言い聞かせ、スマートフォンの地図を頼りに目的地へと向かう。
駅から少し離れた、喧騒の届かない路地裏。そこに、蔦に覆われた隠れ家のようなイタリアンレストランがあった。看板は小さく、知る人ぞ知る名店といった趣だ。
仁人は一度立ち止まり、コートの襟を整え、深く息を吐き出した。
今日の自分は、ファンとしての「仁人」ではない。佐野勇斗の作品を共に作り上げる作曲家、吉田仁人だ。その仮面が剥がれないよう、心の鍵をこれでもかと固く締める。
「いらっしゃいませ。ご予約の吉田様ですね。佐野様がお待ちです」
案内されたのは、店の最奥にある、半個室の円卓だった。
重厚なカーテンを潜り抜けた瞬間、仁人の視界に、柔らかい暖色のランプに照らされた「彼」の姿が飛び込んできた。
「あ、仁人くん! こっちこっち」
勇斗は、少しゆったりとしたタートルネックのセーターを纏い、リラックスした様子でグラスを手にしていた。事務所で見せた「仕事モード」の鋭さは影を潜め、どこかプライベートな、柔らかい大人の余裕が漂っている。
「……お待たせいたしました。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「固いって(笑)。今日は仕事の話もするけど、まずは美味しいもの食べようよ。ここのパスタ、めっちゃ美味しいから」
勇斗が隣の席をポンポンと叩く。その屈託のない笑顔に、仁人は吸い寄せられるように腰を下ろした。
至近距離で感じる、勇斗の体温と、あの石鹸のような微かな香り。仁人は、自分の心臓の音が店内に響いていないか、本気で心配になった。
乾杯のシャンパンが運ばれ、繊細な前菜が並び始める。
勇斗は、仁人の緊張を解きほぐすように、自身の活動の裏話や、最近ハマっている趣味の話を次々と繰り出した。
「実はさ、この間のライブの時、裏でこんなことがあって……」
勇斗が話すエピソードは、ファンなら卒倒するような貴重なものばかりだった。けれど、仁人はあえて「へぇ、そうなんですね」「大変だったんですね」と、まるで初めて聞くかのような、適度な驚きを装う。
(知ってる。……その話、柔太朗くんのブログに写真上がってたし、何ならその時のあんたの表情、三日間寝ずに分析したわ……)
喉元まで出かかる「オタクの知識」を、仁人は必死にアルコールと一緒に飲み込む。
佐野勇斗は、自分の目の前で食事をしている。笑い、食べ、時折真剣な目で自分を見つめる。
その「実在」の重みに、仁人の頭は少しずつ麻痺していった。
「……仁人くんって、本当に不思議だよね」
ふいに、勇斗がグラスを置いて、じっと仁人の横顔を覗き込んできた。
「え……何がですか?」
「なんだろうな。初めて会った時から思ってたけど、君、俺のことすごくよく見てくれてる気がする。……言葉にしなくても、俺が何を考えてるか、何を求めてるか、音で答えてくれるでしょ。……それって、ただの仕事仲間以上の『何か』を感じるんだよね」
勇斗の瞳が、ランプの光を反射して怪しく揺れる。
仁人は心臓が跳ね上がるのを抑え、わざと冷静なトーンを保った。
「それは……佐野さんの表現力が素晴らしいからです。俺のような裏方は、その光をどう反射させるか考えているだけですから」
「光、か」
勇斗は自嘲気味に笑い、少しだけトーンを落とした。
「光って言われるのは嬉しいけどさ、たまに疲れるんだよね。常に『佐野勇斗』でいなきゃいけないの。……でも、仁人くんと話してると、なんか、ただの俺でいられる気がするんだ。……なんでだろうね」
それは、あまりにも無防備な告白だった。
完璧なアイドルとして君臨し続ける男が見せた、一瞬の隙。
仁人の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
本当なら、今すぐに「俺が、本当のあなたを全部受け止めます」と言ってしまいたい。けれど、自分はただの「偶然見つかった作曲家」でなければならない。
「……きっと、佐野さんが誠実だからです。仕事に対しても、人に対しても」
仁人は、精一杯の「吉田仁人」としての言葉を絞り出した。
食事が進み、ワインのボトルが空く頃、二人の距離は物理的にも心理的にも、危ういほど近付いていた。
少し赤らんだ顔で笑う勇斗は、驚くほど子供っぽく、それでいて時折見せる視線には、年上の男としての熱が混じっている。
「ねえ、仁人くん。……ちょっと、手、見せて?」
唐突な言葉に、仁人は戸惑いながらも右手をテーブルに置いた。
勇斗は、迷いなくその手を自分の大きな手で包み込んだ。
「……あ、……佐野、さん?」
「仁人くんの手、やっぱり好きだな。繊細で、でもちゃんと芯がある。……この手が、あの綺麗なメロディを紡いでるんだよね」
勇斗の指先が、仁人の掌をなぞり、そのまま手首へと滑り落ちる。
前回の打ち合わせと同じ、あの場所。
けれど、アルコールのせいか、今回の接触はより生々しく、熱を持っていた。
「……っ……」
仁人は声を上げることができなかった。
勇斗の指が、手首の脈打つ部分を、ゆっくりと、円を描くようになぞり始める。
トク、トク、トク……。
暴走する仁人の鼓動が、薄い皮膚を通じて、ダイレクトに勇斗に伝わっている。
「……ねえ、仁人くん。……君、本当は……」
勇斗が、座ったまま仁人の耳元に顔を近づけた。
熱い吐息が耳朶をかすめ、仁人の全身に鳥肌が立つ。
勇斗の低い声が、秘め事のように囁かれた。
「……本当は、俺のこと……どう思ってるの?」
「………………」
その問いに、どう答えれば正解なのか。
ファンとして愛していますか?
それとも、一人の男として、あなたに惹かれていますか?
あるいは、この「偶然」を装った出会いの裏側にある、真っ黒な秘密を白状すべきなのか。
仁人は、勇斗の指先の熱に浮かされながら、ただじっと彼の瞳を見つめ返すことしかできなかった。
そこには、何も知らない「獲物」を狙うような鋭さと、それ以上に深い、何かを渇望するような寂しさが混在していた。
「……俺は……」
仁人が唇を戦慄かせ、何かを言いかけたその時。
勇斗のスマホが、テーブルの上で激しく振動した。
「……チッ」
勇斗はあからさまに不機嫌な顔をして、舌打ちをした。
「……ごめん。マネージャーだ。……ちょっと失礼」
勇斗が指を離し、席を立つ。
残された仁人は、冷たい夜風が吹き込んできたかのような喪失感に襲われ、自分の震える手首を左手でぎゅっと握りしめた。
そこには、今もまだ、佐野勇斗の指の形をした熱が、消えずに残っていた。
マネージャーからの電話を終え、席に戻ってきた勇斗の表情は、どこか先ほどまでの「仕事モード」の硬さが取れ、代わりに深い色を帯びていた。
「……ごめんね、中断させちゃって。急ぎの確認だったんだ」
勇斗はそう言いながら、残っていたワインをゆっくりと喉に流し込んだ。
「いえ、お忙しいところ、お時間をいただいてしまって。……俺、そろそろ失礼したほうがいいですよね」
仁人は震える手で鞄を寄せた。これ以上、この至近距離で勇斗の体温を感じていたら、自分の何かが決壊してしまう。
「……そっか。残念だけど、明日の撮影も早いしね」
勇斗は少しだけ名残惜しそうに微笑むと、立ち上がろうとした仁人の右手を、再びテーブルの上でそっと包み込んだ。
「あ……」
今度は握手じゃない。ただ、仁人の手首の脈打つ場所を、確かめるように指先でなぞる。
「仁人くん。……次はもっと、ゆっくり話そうね」
勇斗の瞳が、射抜くように仁人の目を見つめる。
「……はい。……失礼いたします」
仁人は、燃え上がるように熱い手首を左手で隠すようにして、逃げるように店を後にした。
恵比寿の夜風は冷たかったが、勇斗に触れられた場所だけが、いつまでも脈打つ熱を帯びていた。
(……なんだよ、あの人。……あんなの、仕事相手の距離感じゃないだろ……)
電車に揺られながら、仁人は自分の手首をぎゅっと握りしめた。
俺は、ただの「曲を書いてくれる人」のはずだ。なのに、勇斗のあの瞳は、まるで俺の全部を暴こうとしているみたいで――。
帰宅した仁人は、着替えるのももどかしく、いつもの配信デスクに座った。
この溢れ出しそうな「吉田仁人」としての動揺を、「配信者・仁人」としての仮面で覆い隠さなければ、自分を保てそうになかったからだ。
「……はい、皆さん。こんばんは。仁人です。……いや、もうね。今日は、ちょっと……感情が迷子です」
配信開始のボタンを押すと、待機していた数千人のリスナーたちが一斉にコメントを流し始める。
『仁人くんお疲れ!』『今日なんか顔赤くない?』『勇斗くんの新しい情報あったっけ!?』
「いいですか、皆さん。……佐野勇斗という男は、恐ろしいですよ。……改めて思ったんですけど。あの人の瞳って、ブラックホールか何かなんじゃないかな。至近距離で見たら、魂ごと持っていかれる。……俺なんてね、もう、あの人と目が合っただけで、その場で溶けて排水溝に流れて、そのまま彼の家の配管の一部になりたいって思いましたよ。いや、むしろ流してくれ。俺という存在を構成する全分子を、彼の栄養にしてくれって話ですよ」
いつもの「限界オタク」のテンション。
リスナーたちは『また排水溝www』『語彙力www』と爆笑している。
そう。これでいい。
俺は、ただの「気持ち悪いオタク」でいなきゃいけないんだ。
仕事相手として期待されるような、そんなまともな人間じゃないんだと、自分に言い聞かせるように毒を吐く。
「……ふぅ。……じゃあ、一曲歌います。まだ、完成してない曲だけど。……あの方の、あの眩しい場所に届くように」
仁人はギターを手に取った。
勇斗のために書き始めた、ティザー映像用のデモ曲。
まだ歌詞はない。けれど、その旋律には、今日、恵比寿のレストランで感じた勇斗の指の熱、あの石鹸の香り、そして自分を真っ直ぐに見つめたあの瞳の残像が、嫌というほど溶け込んでいた。
目をつぶって、音の中に沈む。
(勇斗くん。……あんたは、俺がこんな場所で、こんな風にあんたへの想いを叫んでるなんて、夢にも思わないんだろうな……)
一曲歌い終わり、心地よい余韻に浸りながらコメントを眺めていた、その時だった。
画面の最上部に、一際目立つ認証マークのついた公式アカウントが現れた。
佐野勇斗:『排水溝に流れる』は、さすがに意味分かんないんだけど(笑)。でも、いい曲だね。ありがとう。
「………………………………」
一瞬、部屋から酸素が消えたかと思った。
モニターに映るその名前は、間違いなく、仁人が毎日眺めている佐野勇斗本人のものだった。
コメント欄は、かつてないほどの、阿鼻叫喚のパニックに包まれる。
『は!?!?!?!?』『え、本物!? 公式マークついてる!』『佐野勇斗本人降臨!!!』『仁人くん、逃げてwwwww』
「……え、…………あ」
声にならない悲鳴が喉で止まる。
バレた。
自分が、ただの「曲を書いてくれるシンガー」ではなく、裏ではこんなふうに彼を愛で、毒を吐き、排水溝に流れたがっている、重度の「限界オタク」であるということが。
しかも、本人の前では澄まし顔で「仕事のパートナー」を演じていたのに、裏ではこんな無様な姿を晒していたことが。
佐野勇斗:排水溝には流さないから、安心して。……次会えるの、楽しみにしてるよ。
「う、わぁぁぁぁぁ!!!」
仁人は震える手で、強制的に配信終了ボタンを叩いた。
画面が真っ暗になる。けれど、耳の奥には自分の激しい鼓動が、部屋中に響くほど大きく鳴り続けていた。
(終わった。……全部、終わったんだ……)
羞恥心と絶望で、仁人はデスクに突っ伏した。
もう、次からどんな顔をして彼に会えばいい。
どんな顔をして、音楽の話をすればいい。
その時、デスクに置いたスマホが、ピコン、と短く鳴った。
恐る恐る画面を覗くと、そこにはメッセージアプリの通知。
『配信みてたよ。今から住所送るから。……今すぐ、俺の家に来て。直接、話そうか。』
仁人は、崩れ落ちるように床に膝をついた。
これから自分を待っているのは、厳しい糾弾なのか、それとも、ファンとしての自分への、慈悲という名の処刑なのか。
(……嘘だろ。……嘘だろ、勇斗くん……)
手首にはまだ、あのレストランでの熱が残っている。
仁人は泣きそうな顔で立ち上がり、クローゼットから一番清潔なシャツを取り出した。
憧れの対象が、ついに「聖域」の扉を自ら開けて、自分を招いている。
それが、どんなに恐ろしい結果になろうとも。
仁人は震える足取りで、夜の街へと踏み出した。
コメント
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ニヤニヤが止まりません。やばいですこれ大好き

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