「ってて…」
翌朝俺は頭痛と共に目が覚めた。あれ?もう昼か……
「…そういや、朝方まで呑んでたんだっけ?コイツらも大概だな…」
俺はベッドだが、3人は床に転がっていた。
ガゼルに至っては酒瓶を抱いたまま寝ているし……
二日酔いの頭で酔っていた時のことをなんとか思い出してみる。
たしか・・・
3人は元々違う国出身だったが、こことは別の国での仕事で出会い、意気投合した。
それからは3人で行動して戦地を渡り歩いている。
この国の隣…この国境の先の国は宗教国家らしく、意外に信心深い傭兵達は挙って神頼みに行くらしい。
傭兵は己の身体以外に信じられるものは金、次に神様のようだ。
要はスポーツ選手の験担ぎみたいなものだな。
3人の次の予定はその国のさらに西。以前話した激戦区だからついでにその国で験担ぎしてから向かうとのこと。
俺は旅人で予定もないので、この3人に着いて行くことにした。
「って、話だったよな?」
俺が独り言ちると何やら動く気配がした。
「いってぇ…朝から何ブツブツ言ってんだ?」
「おはよう。もう昼みたいだぞ?」
起きたガゼルに独り言をしている寂しい奴だと思われるのを誤魔化すために、間違いを指摘しておく。
「傭兵は起きた時が朝だ…」
バックスも起きたようだ。
「ナードは起きないのか?」
「コイツは普段は早起きだけど、酒飲むとな…」
わかるぞ。特に飲み過ぎた次の日は放っておいて欲しい。
「待ってても仕方ねーから下で飯でも食おうぜ」
「二日酔いでよく食おうと思えるな…」
「こんな事で飯が食えなくなったら傭兵なんて出来ねーよ」
さいですか……
俺たちはナードを残して朝食…いや、昼飯を食いに向かった。
「へー。そんな人達がいたんだね。良かったね。友達が増えて」
まるで小学生の母親のようなセリフを言っているのは、聖奈さんである。
今日(昨日)は飲み過ぎたので酒を抜く日になり、明日から国境越えをするようだ。
「そうだな。年齢も22歳から25歳と同年代だから気兼ねもしないし。
ほいっ。サインしたぞ」
今日はミランをヨーロッパに迎えに行ったりしていた。他には今渡した書類に目を通してサインしたりだ。
回ってくる書類は地球のモノからこっちのものまで多岐に渡るが、殆ど聖奈さんが処理・決済してくれているから、俺まで回ってくるものは少ない。
ちなみにガゼル23歳、バックス25歳、ナード22歳だ。
「うん。ありがとう。あっ。魔法の鞄活躍してるよ!特に地球でね!」
「地球で使えたのはデカかったな。流石に一つしかないと試せないけど、複数あればって奴だな」
そう。魔導具が地球でも使えた。
これは恐らくだけど・・・
俺と聖奈さんは月から魔力を常に供給して貰っている。
その為、俺達の近くにある魔導具…この場合は、魔法の鞄は俺達から漏れる魔力(?)マナ(?)を利用して使えたんだと思う。
魔導書は解除の魔法が複雑で魔力もかなり消費したので、漏れる程度の魔力では封印の効力を維持できなかったのだろう。
まぁ魔法の鞄は数は少ないが、それでも100以上はありそうだけど、封印された魔導書はあれしか見たことも聞いたこともないから実験も出来ないが。
出会いって大切だね…人じゃなくて本だけど。
そして、ミランをヨーロッパに送り迎え出来るのも、その発見の賜物だ。
もしそれがわからなかったら、地球での転移魔法を試す気にはなれなかっただろう。
これまではミランをヨーロッパに呼ぶ為にどちらかがヨーロッパにわざわざ行って、その時にしか呼ぶことが出来ず、ミランも一度行くと一月以上ほぼ一人で滞在しなければならなかった。
無論俺が送った時はここぞとばかりに、一緒に地球を満喫したのは言うまでもないだろう。
えっ?することがなかっただけだろ?
…それは否定出来ないな。
もちろん魔力の不安定で発動が失敗した時のことを考え、小さな魔法から実験を繰り返した。
魔力がほぼ底なしの俺はすぐに最後まで実験できたけど。
この国に入ってから国境までの旅の間にその実験を終わらせて、態々飛行機で海外を往復しなくとも、無事にミランをヨーロッパへ送り迎えすることが出来る様になったんだ。
「うん。ヨーロッパ支社の件も安心してミランちゃんに任せられるし、セイくんは心置きなく旅を満喫してね」
優しい……ここまで順調だと聖奈さんでも聖母の様な優しさを持てるんだな……
「ありがとう。何かあれば言ってくれ」
「じゃあ向こうでも結『却下だ』…ぶぅー。言えって言ったじゃん」
それとこれとは別だよ?
大人はずるい生き物なのさ。
会社は順調に業績を伸ばしているし、国も順調に成長している。
俺は言葉通り気兼ねなく旅を続けることにしよう。
というか、地球で魔法が使えるのなら、これまでにしてきた危険なことたくさん回避できたよな……
まぁ過ぎたことだし、今となっては地球での危険な旅も楽しかったいい思い出だ。
「じゃあ行くか!」
ガゼルの掛け声で俺たちはアルケミス共和国最後の町を出立した。
「ところで国境はどうなっているんだ?」
歩いて一時間ほどの距離と聞いてはいたが少し気になるので聞いてみることにした。
「どうもこうも毎日変わるからな」
「変わるって…どういうことだ?」
「別にそこで常に戦争してるわけじゃねーぞ?ただ国同士の意見がコロコロ変わるんだよ。
大体それが拗れて戦争になるのがここの日常だな」
確かに国境線は実際に線が引いてあるわけじゃないが……
主張を押し通す為に戦争をするのか、
戦争する為に主張を変えるのか……
「つまり明確に国境がある訳じゃない?」
「そうだな。俺達は砦って呼んでるぞ。
他のとこだと関所とか入国審査場(?)とかって言うんだろ?」
国境じゃなくて軍事境界線(?)っていうのかな?
そんなところを通れるのだろうか?
俺の疑問を他所に、俺達は砦と呼ばれているところへと辿り着いた。
砦は建物だけではなく、その場所を大まかに指す言葉のようだ。
俺達の目の前の光景は、国の規模や場所に似つかわしくない巨大な建造物の前に、傭兵と思わしき人達がキャンプをしているものがある。
「あの建物が砦の本体か?」
「そうだな。デカいだろ?どこも土地いっぱいに建てられているぞ」
普通国境では密入国を防ぐ為の壁だけがあり、出入国を管理する為の建物があるくらいだ。
しかし、ここはつぎはぎだらけの石の建物が横一杯に広がっている。
「凄いな…一体何キロあるんだ?」
統一感のない万里の長城って感じだな。
恐らく造られた年数が違うし、補修の跡も多く見受けられる。
「さぁな?ここは比較的綺麗で大きい部類に入る。理由はわかるよな?」
「…隣の宗教国家と戦争をしないからか?」
「正解。他のところは規模は大きくても、ここほど綺麗じゃないからな。
戦争で国を切り取ったり切り取られたりで国境の位置がコロコロ変わるから、一々立派なモノは建てられないんだぜ」
だけど…何で戦争していない国境にこんなに人が?
「さて。まだ暫くあるから適当なところで休もうぜ」
「どういうことだ?向こうに行かないのか?」
俺の疑問には珍しい人が答えた。
「行かないのではない。行けないのだ」
バックス…答えてくれたのはいいんだが……
哲学っぽくてわからんわっ!
「停戦日…」
さらにレアなことに、ナードが発言した。
「停戦日?」
「ああ。この辺りの国では停戦日ってのがあってな。
俺達傭兵や兵士、所謂戦争屋の休日だ。
その日だけは戦争をやめて自由に国境を渡れるんだぜ」
最早地球と価値観も文化もやり方も違い過ぎて理解が及ばない……
が、郷に入っては郷に従え。そんなものかと割り切ることにした。ただ疑問はある。
「それだと国を落とすくらい大きな戦争の場合はどうするんだ?まさか城攻めの最中に職務放棄しないよな?」
流石にないと思うが、言い切れない。
「まさか!セイは面白いことを考えるな!残念だけどそんな真面目なもんじゃねーよ。
こうでもしないと共王国や皇国の隣国ばかりに傭兵が集まってしまってパワーバランスが崩れるとか何とかっていう理由で停戦日が作られたらしいぜ」
あぁ…大国二国はここで争いあってて欲しいからか。
変に纏まって自分達のライバルになるよりは良いもんな……
結局大きな力の前には小さなところは言うことを聞くしかないか……
恐らくそれが有利に働いていた小国は当時この停戦日法案に抵抗したんだろうけど『じゃあお前の国には傭兵は渡さんから』とか言われて呑むしかなかったんだろうな。
商人っぽい集団もいるからこの機会に輸送するのだろう。
聞けば聞くほど俺の感覚では小国家群は利用されるだけされているな……なんだか虚しいけど、それでもそれがここのルールなんだな。
テントを張ってのんびりと過ごしていると辺りが賑やかになってきた。
どうやらその時が訪れたようだな。
〓〓〓〓〓〓〓〓後書き〓〓〓〓〓〓〓〓
元々この小説は第一部で完結予定でしたが、皆様のお陰で反響が良く、こうして二部以降が存在しています。
そんな感じで……元々地球では魔法が使えない設定でしたが、第二部で話が大きくなってしまい主人公の時間が取れなくなる為、仕方なく地球でも魔法を使える設定に変えました。
無理矢理感は否めませんが、過去話との整合性はギリギリ及第点のつもりで設定を組みました。
聖奈も世界間転移が出来る様になったことで、月からの魔力の供給が発生したのでそこはクリア。
問題はこれまで聖が地球で魔法を使わなかった理由……
まぁ主人公なのにビビりキャラなので…という風に考えて頂けたら幸いです。過去話の中でもそのような描写は沢山ありますので。
地球のお話が全く出て来ていませんが、まだまだ出ないです。
しかし、その内出て来ますので、地球での主人公無双にも乞うご期待下さい。
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