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〇恵子の職場
玄帥の会社に乗り込む前のこと。
職場での昼休み中、恵子と隆三が弁当を食べながら話をしている。
N「弁護士代わりにと、恵子とともに玄帥の会社に乗り込んでくれた隆三は職場の同僚だった。
恵子とは同期入社でもともと仲も良く、ここ数年は仕事上のパートナーでもある。
隆三は真面目で妻子思いの男だが、実は数年前に病で妻を亡くしていた」
隆三「入院してたのは2年だったかなぁ~。あいつも本当によく頑張ったよ。
闘病中はもう俺も息子も必死でさ。
まぁ、そのあともいろいろ大変だったけど、ようやくこうやって話せるようになったってわけ」
恵子「そう、だったの……」
N「……隆三の話を聞いたとき、恵子の中で張り詰めていた糸がぷつんと音を立てて切れた」
恵子(……私、8年間も何してたんだろう……)
隆三「おいおい、そんな顔するなよ。俺も息子ももう平気なんだからさぁ」
恵子「ああ、違うの。
ごめんなさい……今の話聞いてたら、家族って何なんだろうって改めて考えちゃって」
隆三「……話なら聞くぞ」
恵子「あはは……実はね……」
そのやり取りからしばらくして、恵子と隆三が残業をしていたときのこと。❀
2人以外には誰もいない。
恵子「……終わったーっ!」
隆三「はぁ……やっと終わったな」
隆三は立ち上がるとコーヒーを2人分持ってきて、そのひとつを恵子に差し出した。
隆三「ほらよ」
恵子「ありがと。はぁ~、生き返る~……」
隆三「……なぁ、あれから旦那は女と別れてないのか?」
恵子「たぶんね。あれじゃ一生別れる気ないんじゃないかしら。
私もアラフォーなんて言ってられない年になっちゃったし、もう待ちくたびれたわ~」
隆三「お恵さん、もう別れちまえよ。そんなろくでなし」
恵子「うん、私もそろそろかなって思ってるの。
……で、調べてみたら私の知らない2人目の女も出てきてね」
隆三「はぁっ!?」
恵子「ふふふっ、ほんっと馬鹿みたいよね。新しい子まで作っちゃってさぁ。
私のことなんて、身の回りの世話をしてくれる母親か女中くらいにしか思ってないんじゃない?
……まぁ、この際だからきっちりと落とし前をつけるつもりだけどね。
あいつの会社に乗り込んでいってやろうと思って」
隆三「そっか。……なら、全部済んだら俺んところに来い。
飛び込んで来いよ。がっちり受け止めてやっから」
恵子「うん、考えとく。……ありがとね」
N「そう返事はしたものの、恵子の中で答えはすでに決まっていた。
恵子は隆三の夫としての誠実さを間近で見てきたのだ。
隆三はまさに恵子が探し求めていた理想の男性像そのものだった」
隆三「……あと、やつの会社に乗り込むってんならそのときゃ俺も一緒に行くからな」
恵子「ほんとっ!?」
N「こうして強力な味方を得た恵子は、玄帥の勤める会社へと乗り込んでいったのであった」
〇回想シーン
恵子と隆三が玄帥の勤める会社へと乗り込んで、会議室に通された後。
N「恵子はこのイベントを大いに楽しむかのように、その場で悲しみに暮れる妻を
思いっきり演じてみせた」
関係者の前で気丈に振る舞っているかのように見えた恵子が突如として泣き崩れる。
〇恵子と隆三が玄帥の勤める会社へと乗り込んだ後の帰り道
恵子と隆三が並んで帰っている。
N「結果として、恵子の仕掛けたイベントは大成功に終わった」
恵子は隆三のほうをちらりと見る。
恵子(今さらだけど、あんな演技して財前さん引いてないかしら……)
隆三「……今日はいい日になったな。積年の恨みを晴らしたってところか。
うまいもんでも食いに行くか」
恵子「……っ! ええ、そうね!」
恵子の顔がぱぁっと明るくなる。
N「その後、玄帥はLINEにメール、電話に手紙……とあの手この手で恵子に
謝罪を繰り返し、ごねにごね続けた。
しかし、恵子は一切返事をしなかったし,あのイベント以降、玄帥と顔を合わせることすらなかった。
すべてを弁護士に丸投げして、ようやく諦めた玄帥が離婚届に判を押し、無事に
離婚することができたのだった」
〇恵子と隆三の暮らす家
新居で恵子が隆三とその息子が一緒に食事をしている。
N「恵子と玄帥の離婚が成立して、恵子は隆三と一緒に暮らし始めた」
食事を終えて、皿洗いをしながら恵子が思案する。
恵子(……結局、キャバクラ女には慰謝料請求だけになっちゃったけど、甘かったかしら。
でも、なんかもうどうでもよくなっちゃったのよねぇ……。
溜飲が下がったってのもあるけど、たぶん一番は私が今、幸せだからかなぁ)
恵子から「ふふふっ」と幸せそうな笑いが漏れる。
隆三「おいおい、どうした? ひとりで思い出し笑いか?」
恵子「内緒~」
N「こうして恵子は幸せへの第一歩を踏み出したのだった」
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〇ひまりと滉星の暮らす家
ひまりが滉星の不倫を問い詰めてから数日経過したが、相変わらず滉星は
ひまりに謝罪を繰り返すばかりだった。
N「あの日からずっと滉星は謝罪ばかり繰り返していた」
滉星「ひまりを見てて、俺がどれだけのことをしでかしたのか、ひまりをどれだけ苦しめたのか、
痛感してる。……ものすごく後悔してる。もう絶対石田さんとは連絡も取らない。約束する。
きっちり別れ話もしたし……」
ひまり「別れ話? あれで? あんな一方的な電話で?」
N「果たして、あんな電話一本で相手が納得するだろうか。
ましてや夫婦関係を壊してやろうと不倫を暴露してくるような女がそう簡単に
引き下がるだろうか」
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