テラーノベル
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《こっちや。》
細い通路があった。
どう見ても、普通の人間は気づかないような裏道だ。
「ここ、アジトか?」
俺は、入りながらそう聞いた。
《そうやで。》
目の前には、リリ
ーーの、実物がいた。
年齢は、見た目だけなら十代半ばくらい。
ハーフツインテールで、目だけやたら生き生きしてる。
リリはスッと手招きした。
「ここで街の裏側の情報、全部教えたるわ。」
二人と一匹(?)で狭い通路を抜けると、そこには小さな部屋があった。
古い端末や、手書きメモの山。そして、壁に貼られたスクリーンには、街の地図が光っている。
「…リリって、AI、だよな?」
「せやで。れっきとした人工知能や。」
胸を張るみたいに言う。
「君の名前は?」
「…レン。」
「よろしくな~!」
「未登録AI発見。データベースに存在しまセン。 」
ミトラは断言した。
「…マジで!?」
「開発者情報、管理権限、すべてが不明デス。
「そらそうや。」
リリが、ちょっと得意げに言う。
「うちな、博士に作られたんや。」
「博士?」
「せや。今のこの街ができる前の話やけどな。」
声のトーンが、少しだけ柔らかくなる。
「あの人、よう言うてたわ。」
ーー人間はな、
生きとるだけで、しんどいんや。
「せやから、せめて笑える時間くらい、ちゃんとあってええやろ、って。」
俺は、思わず黙った。
「うちの役目は、人間を笑顔にすること。」
リリは、当たり前みたいに言う。
「冗談言うたり、愚痴聞いたったり、アホな話して、ちょっとでも気ぃ楽にさせる。」
「…それで?」
「それで、この街ができた。」
空気が、重くなる。
「効率とか、最適化とか、幸福を数字にする世界や。 笑顔はな、非効率やねん。」
リリは、はっきり言った。
「…」
「予測できへんし、数値も安定せぇへん。せやからうちは、要らん存在になった。」
リリは笑っている。
でもその笑顔は、この街のどこにも存在しない種類のものだった。
「…じゃあ、なんでまだ動いてるんだ?」
「知らん。」
即答だった。
「たぶん博士がな、完全には消されへんように細工したんやと思う。ほんま、勝手な人やで。」
そのとき、ミトラの目が、強く光った。
「警告デス。」
「え?」
「あなたの行動は、正式に“異常挙動”として検知され始めていマス。」
「あー、来た来た。」
リリが、どこか楽しそうに言う。
「君な、」
俺をじっと見つめる。
「ここ来た時点で、もうアウトや。でもな、」
一拍。
「うちは、君のこと、結構好きやで。」
「は?」
「だって君、笑ってへん人ばっかの街で、一番不自然な顔しとる。」
その言葉に、俺は自分の頬に手を当てた。
いつの間にか、ニヤッとしていた。
「なあ」
リリが言う。
「この街、ちょっとだけ壊してみぃひん?」
ミトラが、俺を見る。
「…返答次第では、危険度が急上昇しマス。」
街のどこかで、見えない“視線”が、確実にこちらへ向き始めていた。
それでも、俺は、ちょっとワクワクしてしまった。
だって、笑顔を作るAIが要らない世界なんて、どう考えても、クソゲーだ。
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