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「俺にそんなことを言えるのは、小夜だけだ」
「ごめんなさい!なんでもできてすごいなっていう意味だったんですけど……。あの……」
「いや、謝らなくていい。隊の中では、冷徹とか鬼隊長とも呼ばれているからな。それくらい言ってもらった方がたまには人間味があるというか。君も悪気があって言ったわけではないだろう」
月城さんは少し笑みを浮かべて
「しかし、今の言葉、仲間にも聞かせてやりたいくらいだ。俺を恐れて部下は基本的には話しかけてこないからな」
「そんなに任務?とか訓練とかでは恐いんですか?」
最初の第一印象は冷たいと感じたが、彼を知っていくうちにそのような感情はなくなった。
「そうだな。命をかけて任務にあたることが多い。死んでほしくないから訓練は厳しくするし、任務中も気を抜かない。気が抜けているやつにはもちろん指導をする。厳しいと感じているやつも多いだろうな」
月城さんが厳しくするのは誰にも亡くなってほしくないから。
それをもっとわかってもらえればいいのに。
そんなことを思った。
「小夜、今日は時間はあるか?一緒に行きたいところがあるんだが」
一瞬驚いたが
「はい、今日は訪問の予定は入っていませんし。急患で依頼がない限りは特に何も……」
「昨日手紙で依頼をした、本部からの物資がもうすぐで届くはずだ。届いたらすぐ出かけるので、準備をしておいてくれ」
「街……ですか?」
私と街へ一緒に行ってどうするのだろうと思ったが、月城さんのことだ、何か考えがあるのだろう。
月城さんはもう隊服に着替えていた。
「わかりました。準備をしますね」
準備と言っても、着ていくような着物も数着しかない中で、昨日の転倒で一番お気に入りの着物が血で汚れてしまっている。
何をするのだろう、少し化粧でもした方がいいのだろうか。
いや、下手に繕って何か期待をしているんじゃないかと勘違いをされても困る。
しかし月城さんの隣を歩くわけだし、身なりが悪いと思われても迷惑をかけてしまう。悩みながら支度をした。
「お待たせしました」
玄関で待っていた月城さんに声をかける。
母が使っていた外出用の着物を着て、薄く化粧をした。
「昨日とは雰囲気が違うな」
それは良い意味なのか、それとも悪い意味なのか、不安になる。
黙ってると
「綺麗だ。女性らしくなった」
思わぬ言葉を言われ、顔が赤くなる。
「昨日は女性らしくなかったってことですか?」
照れ隠しに拗ねて誤魔化した。
「そういう意味ではない。悪いように捉えないでほしい」
「昨日は……」
月城さんの言葉の途中で
「こんにちは」
玄関の外で声がした。
玄関の外で待っていたのは、立派な馬車だった。
「お疲れ様です。隊長」
月城さんの仲間だろうか、隊服を着ている。
「ああ、ご苦労だったな。ありがとう。荷物を運んでくれ」
「はい、了解しました」
彼は、馬車の中から月城さんの指示をした通りに荷物を部屋の中へ運ぶのを手伝ってくれた。
「悪いな、小夜。後で片づけるから。少し置かせてほしい、俺の私物なんだ」
「はい、大丈夫です。好きなところに置いてください」
「隊長、終わりました」
その時、荷物を運ぶのを手伝ったくれた隊員が声をかけてきた。
「あの、初めまして。一条小夜と申します」
「初めまして。私は、月城隊長の組に属している、樋口と申します。よろしくお願いいたします」
そう言って樋口さんは敬礼をした後、思いっきり頭を下げた。
「あの、そんなに下げなくても」
困っている私を見て
「樋口、もういい。街へ行く。馬を頼むぞ」
月城さんが彼に指示を出した。
「はい、かしこまりました」
樋口さんとはあまり話せなかったが、馬車に乗って街へ向かう。
最寄りの街へはいつも歩いて向かっているため、馬車に乗っていると一瞬のように感じられた。
「ここでいい。ご苦労だった。また呼ぶから、どこかで待機をしていてくれ」
月城さんはとある店の前で、樋口さんに馬車を止めるよう指示を出した。
「了解です」
私たちを降ろした後、一度敬礼をして樋口さんはどこかに向かってしまった。
「あの、月城さん、どこに行くんですか?」
ふと店を見てみると工具の文字が見えた。
どのような用事があるのだろうか。
「ここの店は少し馴染みがあるんだ。これが直らないかと思ってな」
大きな布に包まれたもの、先ほど樋口さんから渡されていた。
一緒に店に入ると、店主らしい人物がすぐ出てきた。
「おお、久しぶりだな。どうした?」
「お久しぶりです。実はこれを直していただけないかと思って。大切なものなんです」
巻かれていた布がはがされる。
「えっ、それ私の薬箱じゃないですか!?」
包まれていたのは、昨日あいつに切られてしまった私の薬箱だった。
「どうして?」
「小夜の大切な物だろう。新しい物を買ってもいいと思ったんだが、両親との思い出がある物だ。思い入れがあるんじゃないかと思ってな。直せるんだったら、直した方がいいのかと勝手に思ったんだ」
月城さんの言う通りだった。
これは、父と母が使っていたもの。
大切な私の仕事道具だった。
「ああ、これは。なんでこんなに真っ二つなんだ?またお前、無理をしたのか?」
店主が薬箱を見ながら問いかける。
「事情がありまして」
直りますか?と月城さんは聞いていた。
「時間がかかるけど、直るよ。完全に元通りってわけにはいかないがな」
大丈夫だと店主は答えた。
「では、お願いします。お代はいくらですか?」
「やってみないとわからないな」と考え込む店主。
「これで足りますか?」
私に見えないように、月城さんは店主にお金を渡した。
「足りるも何も。お釣りが出るくらいなんだが。ちょっと待っててくれ」
店主は慌ててお釣りを取りに行こうとした。
「お釣りはいらないので、無理を言って申し訳ないんですが、早急に直していただけると助かります」
「わかった。すぐに取り掛かるよ。いらないって言ったらお前さんは絶対に受け取らないものな」
苦笑し、お金は有り難くいただくと店主。
「また出来たら連絡をください。すぐに伺います」
「あの、月城さん、お金払います。すぐには無理ですけど、ちょっと待っててください」
お店を出たあと、慌てて月城さんに話しかけた。
月城さんがいくら渡したのかわからなかったが、相当な金額だったのではと感じる。私がすぐに払うことができない金額。
「勝手に俺がしたことだ。気にするな」
「そんなの嫌です。今すぐってわけにはいきませんが、働いて返しますので」
正直、薬箱が直るのであれば嬉しい。
あれはたくさんの思い出が詰まったものだから。
だからと言って、月城さんにお金を出してもらう義理がない。
「だったら宿代だ。俺は小夜の家に泊めてもらっているからな」
「いや、それは守ってくれているからでっ」
「うう゛」
違いますと言いかけた時、月城さんの人差し指が私の口を塞いだ。