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最初に思い出したのは、海だった。
きっかけは、些細なこと。
夕焼けを見たときだった。
オレンジに染まる空を見上げた瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ。
――「約束だ」
頭の中に響く声。
三人で笑っていた記憶。
そして。
帰ってこなかった、一人。
「……っ」
その場でしゃがみ込んだ。
意味なんて分からない。けど、涙が止まらなかった。
⸻
次に思い出したのは、陸だった。
海の様子がおかしくなってから数日後。
「なあ、お前最近変だぞ」
そう言った矢先だった。
海がぽつりと呟いた。
「……空ってさ」
その名前。
その瞬間。
全部、繋がった。
――赤い空。拳。約束。
――「悪いな」
――届かなかった未来。
「……ああ」
陸は静かに理解した。
「そういうことか」
⸻
けれど。
二人は、言わなかった。
⸻
「なあ空!今日さ、ゲーセン行こうぜ!」
「急だな……まあいいけど」
何も知らない空は、いつも通り笑う。
その姿が――あまりにも“普通”で。
海は一瞬だけ言葉を失う。
「……どうした?」
「いや、なんでもねえ」
無理やり笑う。
陸も、ただ静かにそれを見ていた。
⸻
言えるわけがなかった。
「お前、前世で俺たち置いて死んだぞ」なんて。
そんなの、あまりにも残酷だ。
⸻
ある日の帰り道。
三人で歩いていた。
何でもない会話。何でもない時間。
それなのに。
海はふと、空の背中を見る。
「……なあ」
思わず口を開く。
「ん?」
振り返る空。
その顔が、あの時と重なる。
――行ってしまう前の顔。
「……いや」
言えなかった。
ただ。
「どっか行くなよ」
それだけが、精一杯だった。
空は少しだけ不思議そうにしてから、笑う。
「行かねえよ」
軽い調子で。
何も知らないまま。
⸻
――その言葉が、どれだけ重いかも知らずに。
⸻
そして。
その日は、突然来た。
⸻
雨の日だった。
家で三人、なんとなくテレビを見ていた。
古い記録映像。
戦争。
飛び立つ飛行機。
「……」
空が、じっと画面を見る。
海の心臓が嫌な音を立てる。
「……チャンネル変えろ」
低く言う。
「え、なんで」
「いいから!」
少し強い声。
空が驚いたようにリモコンを持つ。
――そのとき。
ナレーションが響く。
「特攻――」
遅かった。
⸻
空の手が止まる。
「……え」
小さな声。
次の瞬間。
リモコンが落ちる。
⸻
「……あ、れ……?」
ふらつく。
視界が歪む。
頭の中に、流れ込んでくる。
――赤い空。
――エンジン音。
――「約束だ」
――二人の顔。
――「悪いな」
⸻
「……っ、やだ……」
空が一歩後ずさる。
「なんで……」
震える声。
「俺……これ……知ってる……」
海が立ち上がる。
「空……」
止めたいのに、止められない。
⸻
「俺、行った……」
ぽつりと。
「一人で……」
涙がこぼれる。
「帰らなかった……」
その言葉で、終わった。
⸻
「……ごめん」
空が崩れる。
「ごめん……!約束……破って……!」
床に手をついて、泣き出す。
「二人置いて……俺だけ……!」
全部思い出した顔だった。
逃げ場なんて、もうどこにもない。
⸻
海が、無言で近づく。
そして。
思いきり、抱きしめた。
「……遅えよ」
震える声。
「思い出すの、遅えよ……」
怒っているはずなのに。
腕は、離さない。
⸻
陸も、ゆっくりとその二人に手を伸ばす。
「……ずっと待ってた」
短い言葉。
でも、それが全部だった。
⸻
空は泣きながら、二人にしがみつく。
「……怖かった……」
「また、いなくなるかと思って……」
海が言う。
「言えなかったんだよ……」
陸も、静かに続ける。
「でもな」
少しだけ力を込めて。
「今は違う」
⸻
沈黙のあと。
空が、小さく頷く。
涙でぐしゃぐしゃのまま。
「……うん」
⸻
三人の手が、自然と重なる。
あの日と同じ形。
でも。
今度は、誰も欠けていない。
⸻
外では、雨が止みかけていた。
雲の隙間から、少しだけ光が差す。
まるで――
やり直していいと、言われているみたいに。
れもん
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